軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18.期待と不安(1)

金の曜日にレイさんとランチをしてから、私は父様の遺産について調べ直すことを決めた。

自分はできそこないの娘だから、遺産をもらえないのは当然だと思っていた。

でも、レイさんがそれをきっぱりと否定してくれた。

まだ少し不安だけれど、レイさんが背中を押してくれたから、父様を信じて遺産について調べてみようと思えた。

週末の土の曜日と日の曜日は、騎士たちは当番制で勤務のある人もいるけれど、事務職員は休日だ。

だから私は週末を使い、昔からエルウッド家の顧問弁護士をしているマグワイアさんに会いに行った。

土の曜日に王都市街にあるマグワイアさんの家を訪ねると仕事で出かけていて留守だったが、日の曜日にふたたび訪ねると、本人に会うことができた。

ぽっちゃりとした、丸眼鏡と愛想のいい笑顔が印象的な弁護士さんだ。

「おやおや、お久しぶりですね、エルウッドさんのお嬢さん。すっかり大きくなられて。本日はどのようなご用件で?」

「ご無沙汰しております、マグワイアさん。お休みの日に突然お家に押しかけて申し訳ございません。実は、父の遺言状を見せていただきたくて参りました」

彼はすぐに中へ通してくれて、家の隣の事務所から遺言状を持ってきてくれた。

父の遺言状にはこう書かれていた。

弟のバイロン・エルウッドには屋敷と遺産のすべてを、娘の私には金貨十枚を相続させる、と。

覚悟はしていたが、実際に文字にして見るとショックに襲われた。

震えそうな手を、ぐっと握りしめる。

私は心配そうにこちらを見ているマグワイアさんに尋ねた。

「この遺言状を、父はいつ作成したのですか?」

「だいぶ前ですね。ご存知の通り、この国では、貴族の当主は爵位を継ぐと同時に遺言状を作成しなければならないという決まりがありますから、そのときに私が作成をお手伝いしました」

「それ以来、遺言状が書き換えられたことはありましたか?」

「ありません」

「そうですか……」

私は自分の手元に視線を落とした。

マグワイアさんは優しく言った。

「どうぞ、お気を落とさないでください。何か困ったことがありましたら、いつでも遠慮せず私にご相談くださいね」

「……はい。ありがとうございます」

マグワイアさんの家を出た私は、うつむいたまま、握っていた掌をそっと開いた。

手の上には、小さなガラスの球体が乗っている。

球体の中心にあるのは魔石。

魔力に反応すると青から赤に色が変わる、魔力探知器という魔法アイテムだ。

騎士団本部の本部棟に設置された売店で売っている品物で、普通は魔物を探すために使うものだ。

だが、魔導士のかけた魔法を感知するという裏ワザもありますよと店員のおばあさんが教えてくれたので、少々高いが買ってみた。

大当たりだった。

今、ガラスの中の魔石は赤色に光っている。

魔石は私がマグワイアさんに遺言状の作成時期を尋ねた直後に、赤く反応しだした。

彼に魔法がかけられているという証拠だ。

おそらく叔父があの赤髪の魔導士を使ってマグワイアさんにかけさせた、禁呪である《支配》の闇魔法が。

つまり、あの遺言状は偽物である可能性が高いということ。

ここ、ルゼリア王国では、魔物に悩まされている以外は平和な時代が続いているためか、魔法アイテムの製造開発が盛んだ。魔法アイテム開発者と、魔石に魔法を付与できる魔導士は重宝される。

その一方で、人の心を操ったり、人に危害を加える魔法──特に闇魔法は、禁呪として厳しく規制されている。怖いことに、一度かけられた闇魔法の解呪は、魔法をかけた魔導士にしかできない。

だが闇魔法の使用を摘発するのは困難だった。証拠を揃えることは難しいし、魔導士の身柄を確保するのも難しく、そうした罪が明るみに出ることは滅多にない。

それでも、必ず証拠を集めてあの赤髪の魔導士の、そして叔父の不正を暴こうと決めた。

私の父の遺産だけではなく、騎士団の資金にまで関わっている問題を見過ごすわけにはいかない。

騎士団本部に帰る馬車の中で、魔力探知器を握りしめながら、私はうれしくてこみ上げてくる涙を必死にこらえていた。

レイさんの言う通り、本当に、父は私を見放していなかったのかもしれない。

そう、希望が持てたから。

△△△

週明けの月の曜日。

朝起きて出窓を開けると、森の上には灰色の雲が広がっていた。

プランターのマルトの枝には、小さな蕾がいくつかふくらんでいる。

もう少ししたら花が咲き、また美味しい実をつけてくれるだろう。

帰りに売店で肥料を買って帰ろうと手帳にメモした。

まずは昼食のときに、ライラに治癒石の計算が合わなかった件を詳しく聞こう。

しっかり者の彼女に聞けば、きっと正確な情報を教えてくれるはずだ。

それからもうひとつ。

魔力探知器を買いに行ったときに、本部棟の売店のおばあさんが、レイさん愛用の武具用オイルの取り扱いをはじめると教えてくれた。

私が熱心に売り込みしたその心意気に打たれたのだという。

さらに、オイルの紹介文を載せたポップを書いてほしいと言われていたので、それも今日中にやるつもりだった。

もしかしたら、レイさんもそのポップを見て買ってくれるかもしれない。

それにきっと他の騎士様たちにも役立つだろうから、気合を入れて書かなければ。

朝の鐘が鳴り響き、私はやる気満々で部屋を出た。