軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

92 暗殺

黒水晶にはギフトの正体たる何かが封じられている。

それを連中は使役、召喚できる?

黒水晶はギフトの複製という触れ込みだったはず……。

でも、その情報は、底辺の賊たちから、もたらされた情報だ。

複製機能というのが、そもそも誤った情報?

本当はギフト持ちに宿った西遊記キャラクターの魂だかなんだかを吸い出して封印し、使役可能にするとか、そういう系?

そうだとすればゴロッソ会長が、ああいう使い方をしようとした意味がわかる。

がしゃどくろの骨格に受肉した巨大な猪八戒は明らかに意思を持っていない。

私がここで孫悟空の代弁者だと名乗り出ても反応があるかあやしそうだ。

あの猪八戒は、ピンク髪の男に操られている……。

私の中の孫悟空が怒っていた理由はこれなのだ。

かつての仲間が利用されていること。

懐かしさを感じていたのは、そこに猪八戒がいたからだ。

三蔵法師一行の弟子たちも、道中は大概な悪ぶりだが……。

それでも彼らは旅路の果て、神仏に至った。

猪八戒は少し階級が低くはあるものの、それでもだ。

最終的に彼らは善なる存在へと昇華された。

猪八戒が使役されているのは、あの黒水晶に封じられているから。

では、猪八戒を操るピンク髪の男は三蔵法師なのか?

「…………」

私はギフトの全霊を以て男を観察する。

……違う。あの男は、決して三蔵法師ではない。

ピンク髪の男は『玄奘三蔵法師』のギフトを宿した者ではない。

孫悟空の感覚がそう判断している。

孫悟空が三蔵法師を間違うはずがない、と。

では、あの男が元々宿していたギフトが『天蓬元帥猪八戒』?

それならば、なぜ黒水晶なんて物を間に介するのか。

思うにアレは……。

……誰かから 奪った(・・・) ?

『白骨夫人』も『天蓬元帥猪八戒』も、元々ギフトとして授かった誰かがいて。

その者からギフトの正体を奪い、使役している?

この敵は、そういう使役者。

黒水晶の目的はギフトを複製することじゃない。

ギフトを奪うこと?

たとえば本来、ギフトを授かる側がラグナ卿のような気風の人物だけど、聖女の敵として出てくる場合は、紅孩児の力を奪われ、誰かに利用されている状態で、とか。

「どうですか? 素晴らしいでしょう? これが神の力です」

男は陶酔したようにそう語り始める。

神の力、ねぇ。西遊記、知らないのかしら?

猪八戒ったら、他のメンバーより最終的に階級が低いんだけど。

なぜかというと彼は旅の間、〝欲〟を自制できなかったからだ。

食い意地が張ったままだし、仕事はサボるし。

三蔵一行のコメディリリーフ担当。孫悟空に負けないレベルのトラブルメーカー。

憎めない、間抜けな役どころが猪八戒である。

なので猪八戒を使役して、あんな感じにイキってるのは滑稽というか。

いえ、かなり危険そうなんだけど。

孫悟空か紅孩児、或いは牛魔王やらを使役しているなら、あの態度でいいかもだけど。

使役するのが猪八戒って。

なに? たくさん食べたいの? って感じ。

「できそこないの体では、この程度ですが、より完璧に仕立てあげる算段はついています」

うわぁ、この人。

めっちゃ語りたがるタイプだわ。

止めないのかしら、マルガルフたち。

ポロポロ内情を暴露するつもりだけど?

これ、承認欲求が爆発しすぎてストレスが溜まっていたとかかしらねぇ。

きっとこれまで秘密裏に動いていたのだろう。

誰にも認められず、けどすごいことをしているんだと自画自賛して。

もちろん、フィクションにならこういう役どころは必要だ。

ここでG4たちが対峙していたら『なにぃ!?』という素敵なリアクションを取ってくれてご満悦だっただろう。

でも、お生憎様。ここにいるのは孫悟空のギフト持ちマインちゃんなのである。

私は息を潜めながらピンク髪の男の背後に回る。

そういえば幌金縄はどうなったのかと思ったら、その場の地面に埋もれていた。

『黄風大王』マルガルフの三昧真風にやられたっぽい。

微妙に役立たない五つの宝……。そもそも私の使い方が悪い?

幌金縄は投げつけるのが正解と思っていたけど、間違っているのかも。

それとも、やはり最強は芭蕉扇なのか。

さて。私はここで、多くのものを裏切ろうと思う。

何を裏切るかって?

一つは、善良で、悪くいえば平和ボケした、日本人的な道徳を。

二つは、貞淑な貴族令嬢、流血なんて縁遠いはずの公爵令嬢という立場を。

三つは、『殺生はいけません』と戒められ、その通りにするべきという流れを。

四つは、聖女を名乗り、期待された聖者としての振る舞いを。

私は裏切る。

即ち、この場でピンク髪の男を…… 殺す(・・) 。

それも不意打ちで背後から襲いかかって、という卑怯な手段で。

だって、どう考えても、ここでこいつを殺しておいた方がいいだろう。

ここで猪八戒に気を取られ、どうにか撃退したところで。

『くく、楽しみが増えましたよ、クハハ!』とか高笑いされて逃げられるのがオチだ。

使役された巨大な猪八戒という災厄を退けて一息。

だが去っていった彼らは、これからも王国に災いをもたらすだろう。

私たちの戦いはこれからだ! 完!

……っていうのがテンプレよね。

この場ではこの〝先生〟に一矢も報いることができず、終幕だ。

これからは対策フェイズ、仲間集めフェイズに移行する。

それはねぇ。

ぶち壊していい運命じゃない?

なぜなら私、けっこうこのピンク髪の男にムカついているから。

言動がこう、いちいちイライラさせるの。

私の中の孫悟空も言っている。

『よし、こいつはここで殺っちまおう』

『なぁに、お師匠様には、あとでどうとでも言い訳をすればよい』

と!

知らないけど!

八戒をいいように使われていることにも怒っているはずだから。

猪八戒を止めることより、中ボスっぽい『黄風大王』を相手するより、ヴィルヘルムを援護するよりも、ピンク髪の男を抹殺することを優先する。

でも、首を切って即死させたのでは、私もその場で動きが封じられ、この状況では自殺行為だ。

なので限りなく致命傷を与えるが、すぐには殺さない。

流血であとから死ぬ。そのくらいの怪我を負わせてやる。

私はミニに渡していた七星剣を消し、備える。

使うのは如意棒じゃなく、七星剣という刃物だ。

息を潜めつつ、トカゲ姿で男に近付いていく。

「ヴィルヘルム・アイゼンハルト」

と。そこでなぜかヴィルヘルムの名を出す〝先生〟。

私は意味がわからず、思わず足を止めてしまう。

「彼が、この猪八戒の 新たな肉体(・・・・・) になる存在です」

は……?

私は咄嗟にヴィルヘルムとルドロフの戦いに目を向ける。

猪八戒が現れた段階で、互いに注意を引かれたせいか。

ヴィルヘルムとルドロフは武器を構えたまま、距離を保っている。

少し距離が離れているが……〝先生〟の台詞は、なぜかよく聞こえた。

ヴィルヘルムたちにも聴こえていた様子だ。

「神には肉体が必要だ。でなければ、その力を十全に振るえない。なら、より良い〝器〟を用意してあげなければ。貴方の中にある〝神〟も、きっとそうでしょう。より強い力を振るいたい、そのために、より強靭な肉体がほしい。そうでなければ、その力を十全に振るうことができない」

流暢に計画を喋る〝先生〟。

きっと本当にこの場にいる全員を皆殺しにするつもりなのだろう。

猪八戒を顕現させたことで、それは揺らがないと思っている。

私は衝撃を受けながらも、その情報を整理することを止め、息を潜めて近付くことを優先する。

「知っていますか? 貴方のそのギフト。まったく本来の力を発揮できていないことを。それは人間の形に、器の大きさに合わせて力を落としているのです。神は〝そのまま〟の姿であるのが最も強力です。ギフテッド……器は、人間に合わせて力を制限する〝枷〟にすぎない」

ざわり、と。背筋が震える。

与えられる情報に思考を埋没させてしまいそうになる。

それを意識して切り離し、私は集中する。

「しかし、神そのままの姿では制御ができない。困ったものですよねぇ」

気づかれていない。

〝先生〟の意識も、マルガルフの意識も分身の私に集中している。

ピンク髪の男が気持ちよく喋っているからか、顕現した猪八戒も大人しく待機している。

猪八戒が完全に支配下に置かれているのだ。

「だから、より神に近い〝器〟を用意すればいい。そうすれば、神の力を十全に振るえ、コントロールもできる」

そのための〝器〟が。

いえ、集中を途切れさせてはいけない。

事が終わったあとで存分に考えればいいのだ。

ただ、今はこれだけ。

なんて悪趣味な(・・・・・・・) 。

ヴィルヘルムが狙われた理由と、その先に待つであろう〝物語の最後〟が容易に想像できる。

聖女とジークヴァルトが、いつか戦うかもしれなかった相手の姿が……。

「素晴らしいでしょう? 貴方も、その力の主を、その肉体から解放してあげるべきだ。そう思わないですか?」

愉悦に満ちた、勝利を確信した男は、そうのたまう。

いよいよ男の真後ろに迫った私は、一瞬で元の姿に戻り、念じて七星剣を手にした。

無防備な男の背後から、孫悟空の剛力を以て、右脇腹の辺りを貫く。

ドジュッ!

「かはっ……!?」

油断せず、成すべきことをする。

〝先生〟の体を貫いた七星剣を抉るように回転させ、内臓を削る。

「ぎっ……がは!? な、に!?」

突然の出来事に反応が遅れる〝先生〟。

私は力尽くで七星剣を右側に薙ぎ払い、男に与えた傷を、より致命傷に近付けた。

それだけではなく、返す刀で男の左太ももを切りつける!

「ぎゃあ!?」

「先生!? お前っ!」

そこで、ようやく状況を理解した『黄風大王』マルガルフが超速で襲いかかってくる。

私は思いきり後方へ飛びのいて。

「筋斗雲!」

筋斗雲に乗り、距離を取った。

「さっきから聞くに堪えないことベラベラと! あんたの計画なんて全部、この私がぶち壊してあげるわ! そして! 猪八戒も解放する!」

血のついた七星剣を消す。

「如意棒!」

如意棒を再び手にし、筋斗雲の上で構える。

流血で死んでもおかしくなさそうな怪我をさせた。

〝先生〟が失血死するまでの猶予時間で、この猪八戒をどうにかしてみせる!

「待ってなさいよ、猪八戒! この如意棒を持つ者が、アンタを解放してあげる!」