軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話 自分勝手な男

入学式の日、そのまま帰宅したリベルタをフレルトが心配することはなかった。

この時期のリベルタはまだ小枝のように細く、女性的魅力は一ミリもない。

それどころか、幼い頃から金魚のフンのように付いて回られてうんざりしているくらいだった。

母親同士が親友ということもあり、同年代に子供が生まれたのを機によく遊ばせるようになったのだが、学園に通う年頃になれば、男女の差は大きく、話も合わない。

しかも、彼女の瞳に自分に対する恋愛感情が見て取れるようになると、益々面倒くささが先に立ち、会うことすら苦痛に感じたほどだ。

「では、騎士科の学級委員長は、フレルト・ポルポに頼むことにしよう」

担任教師が、クラスでの投票もなく、独断でクラスのリーダーを決めても、誰も文句を言わなかった。

それ程までに、フレルトには圧倒的なカリスマ性があり、当の本人も、それを当たり前だと思っている。

彼の人生は順風満帆で、強いて欠点を挙げるなら、入婿にならなければ継ぐ地位がないことと、幼馴染がイケてないことくらいだろう。

もし、リベルタよりも見目麗しく、公爵家、悪くても侯爵家の一人娘が自分を見初めてくれれば、直ぐにでも婚約して良いとさえ思っていた。

だが、悲しいかな、そんな都合の良い物件は、そう転がっていない。

だからこそ、次が見つかるまでの『繋ぎ』としてのみ、リベルタに存在価値がある。

この学園は、他国との交流も多く、隣国からも留学生が沢山来る。

その中に、彼の理想とする相手が見つかるかもしれない。

ワクワクと胸を躍らせる彼は、入学式以降、リベルタと会っていないことを逆に喜んでいた。

なにせ、騎士科と魔法科ではカリキュラムが違う為、年に数回の合同訓練くらいしか共に授業を受けることはない。

そして、二つの校舎の間には訓練施設や大講堂等などが建てられており、わざわざ足を運ばなければ、ほぼ交流することもないのだ。

乙女ゲーム内では、リベルタが足繁く騎士棟に通い詰め、差し入れをしたりしつこくフレルトを追い掛ける描写があった。

しかし、今のリベルタは、彼から隠れることに全神経を掛けている。

一方、ウザいくらい纏わりついていた幼馴染を目にしない日が三日、五日、一週間となると、フレルトは、徐々に物足りない気持ちになってきた。

常に傍に侍り、自分を褒め称えてきた存在の欠如は、一日の充足感を確実に減らした。

クールなイケメンを気取ってはいるが、中身はムッツリスケベのかまってちゃんだ。

『流石、フレルト』

皆がよく言う言葉は、裏を返せば、

『フレルトなら、それくらい当たり前』

と思われていることの表れでもある。

徐々にそのハードルは上がっていき、多少のことでは驚いてもらえなくなってきた。

更に悪いのは、学園の授業は、生徒三十人を成績順に並べて十人ずつの少数クラスに分類して行われる。

トップ10に入る者は、身体も大きく、学力も優秀な者ばかり。

今は首席と言えども、いつ追い抜かれるかわからない。

なにせ、攻略対象は彼だけではないのだ。

乙女ゲームの中で行われた人気投票で同率1位に選ばれたのは、

未来の剣聖と噂される騎士科のフレルト。

実は賢者の生まれ変わりである魔法科のクルーガー。

身分を隠し教師を務める、現王よりも優秀な王弟シャイネン。

濃いメンバーだが、それ以外の伏兵が、彼のクラスの中にもいる。

辺境伯の嫡男、アルバトロス・ボルケーノ

クールなフレルトと対照的な熱い男だ。

男子生徒からの支持率は絶大で、数少ない騎士科の女子生徒達も、フレルト派とアルバトロス派で二分されている。

「はぁ……むしゃくしゃするな」

絶対的覇者でいたいフレルトは、誰かと比べられることに慣れていない。

蹴落とされるかもという無意識の不安が、無条件に自分を認めてくれるリベルタを求めていた。

そして、注意散漫になっていたフレルトは、訓練中に手に怪我を負ってしまう。

「くそっ!」

打ち身は赤く腫れ、ジクジクと痛む。

こんな時、いつもリベルタが治癒魔法で治してくれた。

本来は、まだ魔力操作も安定していない子供がやるには危険な行為だが、フレルトには関係ない。

幼い頃から、怪我はリベルタが治すものだと思っていたからだ。

「ったく、何処に行ったんだ」

魔法科の棟まで足を伸ばしてリベルタに会おうとするが、何故か見つけることが出来ない。

その日は仕方なく医務室の老医師に治してもらったが、シワシワの手でヒールを掛けてもらっても、治りが悪い気がした。

それは、そうだろう。

フレルトに恋をするリベルタが自分の全魔力を注ぎ込んだヒールと、ベテラン医師が必要最小限の力でかけるヒールでは、効果が違う。

しかも、リベルタの魔力量は、今季入学者の中では3本の指に入るのだ。

定年前の老医師と比べること自体、間違っている。

なんとなくモヤモヤが晴れないフレルトは、その後も、魔法科の校舎にちょくちょく現れるようになった。

一言リベルタに文句を言い、今後はお前が治せと命令を下すためだ。

しかし、あまりにもリベルタが見つからないものだから、朝の登校時間だけのつもりが、昼休みも足を運び、夕方の下校時間にまで及ぶようになった。

すると、最初イケメンの登場に喜んでいた女生徒たちですら、薄気味悪さを感じ始める。

「何が、目的なのかしら?」

「ちょっと、目が怖いですわね」

連日訓練の度に出来る新しい傷は、完治されないまま、地味に増えていく。

今までは、リベルタの治癒があったからこそ、無謀に突っ込むこともできた。

そこを躊躇するようになると、剣筋も鈍る。

教師からの評価も日々下降線を描くようになり、フレルトは、得体のしれない恐怖に取り憑かれていた。

『リベルタを取り戻さなければ』

彼女が傍にいた時は、全てが上手く行っていた。

多少鬱陶しくはあるが、ちょっと優しくしてやれば、ホイホイ治癒をしてくれる。

まるで巡回警備員かと疑われるほど女子生徒の周りを彷徨ったフレルトは、とうとう教員室に呼び出された。

「フレルト。お前、余程暇なのか?魔法科の教員から苦情が入っているぞ」

「いえ……あの……その……」

変質者扱いなどされたことのないフレルトは、羞恥と腹立たしさで顔を真っ赤に染めた。

何故、自分は、今こんな状況になっているのか?

その原因は、リベルタだ。

彼女が突然姿を消したのは、きっと、作戦だ。

追いかけることをあえてやめることで、自分の気を引こうとしているのだ。

そう結論づけると、教員に怒られている事まで、リベルタのせいに思えてきた。

『リベルタのくせに』

フレルトは、幼い頃からこの言葉を、リベルタが少しでも自分より優秀さを見せた時、必ずと言っていいほど口にしてきて。

その度にリベルタは萎縮し、泣きそうな顔になった。

それを見る度に、フレルトは、ゾクゾクとする興奮を得ていた。

この無限ループは、まさに、キャラ設定のドSを忠実に再現した胸糞な性格の表れだ。

ただ、今回は言葉をぶつけるべき相手がいないため、フツフツと沸き起こる怒りは、彼の中に憎しみという感情を産む。

鬼の形相で彼が向かったのは、ベリッシモ伯爵家の邸宅だった。