軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 裁判の始まり

裁判当日、リベルタは、シャイネンに付き添われて出廷した。

担当教員であり、フレルトを捕縛した当事者でもある彼も正装で法廷内に入る。

傍聴席には当事者の両親のみが座り、外部の人間は見ることも内容を知ることも出来ない状態となっていた。

正面には、裁判長と副裁判長。

リベルタの弁護人には、シャイネン。

ボニートの付添人兼弁護人は、いつも警護についていた神父。

フレルトに関しては家宅侵入等の手口が悪質であり、現行犯でもあることから釈明の余地なしとされた。

少しでも罪を軽くしてもらう為には、ボニートに唆されたことが明らかになるか、幼馴染であるリベルタの温情にすがるしかない。

「では、審議を始めます」

判長が宣誓の言葉を言ったのと同時に、

「お前、誰だ!」

とリベルタを指さしたのは、フレルトだった。

それは、そうだろう。

1年生の事件以来接近禁止を命じられていたフレルトが、リベルタを目にするのは数年ぶり。

ガリガリの木の棒が、メロンカップの爆イケナイスバディに変身しているのだ。

更に『リベトワ』開発で培った美容技術なども盛り込まれた完璧メイクも併用されている。

ややタレ目な愛らしさをそのままに、品を保ち美を極限にまで高めた今日の出で立ちは、リベルタにとっては宣戦布告のようなもの。

昔の自分とは違うと見せつけ、付け入る隙など与えてなるものかという気概に満ちている。

そんな彼女のあまりの変わりように叫びたくなるフレルトの気持ちも分かるが、法廷内でやっていい事ではない。

傍聴席に座るリベルタやフレルトの両親双方が、一方は怒りで真っ赤に、一方が恐怖で真っ青になったことにフレルトは気づいていない。

「静粛に!フレルト・ポルポ。次に勝手な発言をしたら、退廷させますよ」

裁判長に厳しい視線を向けられ、フレルトは渋々口を閉ざす。

昨日、王都に到着したばかりのリベルタは、正直なところまだ状況を理解できていない。

シャイネンに聞いた話では、行ってもいない学校で、会ったこともないヒロインを虐めているらしい。

しかも、フレルトの元カノ扱い。

先ずは、そこを訂正させてもらおうと、裁判長に向かって挙手をする。

「はい!裁判長」

明るくよく通るリベルタの声は、まるで参観日に張り切る子供のようだ。

しかも、この顔が、

『当てて!当てて!』

と訴えかけてくる。

白ひげを蓄えた裁判長は、見た目の妖艶さとは裏腹なリベルタの真っ直ぐな視線に、フンワリと笑みを浮かべた。

「なんでしょうか、リベルタ・ベリッシモさん」

「先ほどのポルポ公爵令息の言葉で分かるように、私達は、互いの顔も認識できない程の仲です」

「そのようですね」

「そんな相手の家に不法侵入したのですから、極刑で宜しいかと」

どうだ!良い考えだろう!と言わんばかりのリベルタは、身を乗り出して裁判長の返事を待つ。

「トントン、却下です」

カベル(木槌)を叩いて訴えを退けた裁判長は、顔を左右に振ってリベルタを諌める。

そして、安心させるように、

「先ず、貴女とポルポ公爵令息が数年に渡り接触がなかったことは、学園の生徒や教員からの証言で立証済みです」

と続けた。

「その上で、もう一つ確認です。君は、彼女が誰か分かりますか?」

裁判長が掌を向けたのは、ヒロインであるボニート。

反対側の壁際に設置された椅子に座り、こちらを睨みつけている。

リベルタは、返事に困った。

会ったことも話したこともないが、前世では、彼女を動かしてフレルトと何度も恋に落ちたのだ。

言うなれば、心の友。

二人三脚で乙女ゲームの世界を駆け回った相手だ。

しかし、今目の前にいる彼女は、画面越しで見ていた時よりも鋭く冷たい瞳で、性格も悪そうだ。

ここで感情的になれば相手の思う壺と思い、リベルタは、

「私が人を使って虐めたと訴えられているボニートさんですよね?初めまして。私が、リベルタ・ベリッシモです」

と、にこやかに挨拶をした。

すると、ムスッとしていたボニートが、ガタンと椅子を倒しながら立ち上がり、

「アンタ!転生者なんでしょ!脇役のくせに、出しゃばるんじゃないわよ!」

と叫んだ。

フレルトが捕まった影響は、ボニートにとって、大きな火の玉が空から降ってくるくらいの衝撃を与えた。

最初、寮に事情を聴きに来たシャイネンから逃げ出し、ファット神父に匿って貰ったまでは良かった。

しかし、そこにもシャイネンが現れ、何をどうしたのか分からないが裁判という話になっていた。

そして、向こうが強気だった理由を改めて知る。

散々フレルトを煽ってリベルタを排除しようと画策していた事が、王家の差し向けた諜報部員によって事細かに記録されていたのだ。

山積みにされた書類には身に覚えしかない言葉の数々が集められており、破廉恥極まりない触れ合いは官能小説のように綴られていた。

最初は庇ってくれていたファット神父も、ここに至る事前協議中にボニートに関する資料を開示され一気に及び腰となっている。

『私は、知らない。彼女が勝手にやっていることだ』

近頃治癒魔法の威力にも陰りが見え始めているボニートと、自分の次期教皇という立場を天秤にかけ、どちらを優先するのか決めたのだろう。

それに、どうせ戦っても相手は国を味方にこちらを追い込んでいるのだ。

その為弁護人として付き添ったのは、護衛の男のみ。

ある意味、逃亡対策とも言える。

普段と変わらぬ冷ややかな視線を彼女に向け、助けてくれそうな気配は一ミリもない。

「聖女様、お静かに。今は、ベリッシモ伯爵令嬢のお時間です」

裁判官からの質疑応答と、自らの意見を述べられる貴重な時間。

そこに割って入って意味不明なことを叫ぶボニートに対し、シャイネンやリベルタの両親だけでなく裁判長までもが不快な顔をしている。

心象をマイナスに引き下げたことに気づいていないボニートは、

「だって!……モゴモゴ」

付き添いの神父に口を押えられ、引きずるように席に連れ戻された。

その様子を見ていたリベルタは、白くなるほどギュッと拳を握った。

『やっぱり、転生者なのね……』

自分のような存在がいるのだから、他にも同じような身の上の者が居るとは思っていた。

ボニートにとって自分が、原作を改変した異物でしかないことも理解している。

彼女は、乙女ゲームの内容と同じようにリベルタがフレルトにいいようにされ、最後には命まで奪われる結末を望んでいるのだ。

物語の主人公の願いを叶えようと『原作の強制力』がいつ発動するのか考えるだけで震えが止まらない。

「リベルタさん、落ち着いて」

全てを理解した上で、シャイネンが、静かに声をかけてくれる。

「大丈夫。ご両親も言っていたでしょう。貴女は、生まれながらに貴女です。胸を張りなさい」

十二歳の入学式で記憶を取り戻した時、原作のリベルタに憑依したのだと思っていた。

しかし、昨夜両親が語ってくれた幼い頃のリベルタは、破天荒で人騒がせで、原作に少しだけ描かれたリベルタとは違い家族に深く愛されていた。

フレルトに振り向いて貰いたい一心で、不出来を装い全てを貢いだ小さなリベルタは、正に前世の自分そのもの。

食べることすら後回しにし、稼いだ金を注ぎ込んだ二十九歳喪女の純粋さと何も変わらない。

「それに、私も、ついています」

心強い言葉とともに、クイッと銀縁眼鏡を上げられれば、リベルタは天にも昇る心地でフワリと体から力を抜いた。

『そう、私は、リベルタ・ベリッシモ。お父様、お母様に愛された、可愛い可愛い一人娘よ!』

傍聴席の両親に視線を向けると、カバロとフローラが、こちらを見つめて力強く頷いているのが見えた。