軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 貴女は貴女

『私の行動が、ヒロインにとって都合の悪い状況を引き起こしてしまったのね……』

死にたくなくて、フレルトから逃れたかっただけのリベルタ。

自分が逃げても、フレルトは攻略対象として申し分のないキャラクターだと思っていた。

それが何故か当て馬令嬢の自分を追い回し、あまつさえ斬りつけようとするまでに堕ちた。

それでも、ヒロインが前世のリベルタと同じくらい彼を好きなら、落ちぶれた彼をここぞとばかりに支えてハッピーエンドに持ち込むはずだ。

そうじゃないなら、他にも攻略対象は居る。

『あ……でも、人気ランキング同率1位のシャイネン先生とクルーガーは譲れない』

結局残った攻略対象は、学園内だけなら王太子、留学生、アルバトロス。

『どれも興味なかったから、よく覚えてないわ………』

そこまで考えが行き着くと、

『なるほど、原作を改変した私を恨んでいるのね』

と納得することができた。

ボニートに嫌われる理由を完全に理解できたリベルタは、両手を胸の前に組み祈るような体勢で身を丸めた。

その肩は微かに震え、いつもの彼女からは想像できないほど萎縮しているように見える。

「大丈夫かい?」

心配したシャイネンが、そっとリベルタの肩に手を置いた。

それだけで、フッと体から力が抜けるのを感じる。

リベルタは心のどこかで、今の人生を借り物のように思っていたのかもしれない。

そして、いつか全てが夢でしたと言われても、ショックを受けないように自分に言い聞かせていた。

『これは、乙女ゲームなんだから』

と。

しかし、シャイネン、トワレ、クルーガー、そして両親、誰か一人居なくなってもリベルタは生きていけない。

それほどまでに彼らを大切に思うようになると、そんな一言では諦めがつかないと知ることになる。

「シャイネン先生……お話ししたいことがあります」

意を決して、全てを話そうと思った。

その上で、もう一度関係を築かなければ今後も同じような不安に苛まれながら生きていかなければならない。

「それは、私だけに話したほうが良い話かな?それとも、ご両親が同席のほうが良いかな?」

リベルタの気持ちを汲んだ質問に、

「両親も一緒に……」

とリベルタは、答えた。

十二歳の入学式の日以来、きっと、突然変わってしまったリベルタに困惑したことも沢山あったはずだ。

それなのに、温かく包み込んでくれた両親には伝えなければならない。

『私は、貴方達の娘さんとは違う人格です』

消えてしまったリベルタを取り戻すことは、もう出来ない。

それでも、両親を大切に思うこの気持ちは、きっと元々この体の中にあった感情のはず。

伯爵家へ到着し、馬車を降りると両親が二人揃って迎えに出てくれていた。

「お帰り、リベルタ」

「ただいま、お父様、お母様」

帰宅の挨拶を済ますと、リベルタは二人の元に駆け寄り、無言で抱きついた。

「……と言うことなのです。なので、元々この体の中にいたリベルタを私が消してしまったかもしれません。本当に、ごめんなさい」

リベルタの話を全て聞き終えた両親とシャイネンは、暫く沈黙していた。

信じろと言われても、理解が追いつかないだろう。

不安で俯くリベルタだったが、母であるフローラの、

「あら、そんなこと」

と言う言葉に、顔を上げた。

「貴女、産まれた時から今と同じ。とても変わった子だったわ」

朗らかに笑いながらフローラが語るリベルタの幼き頃の思い出。

生まれて三ヶ月が経ち首がやっと据わる頃、フローラに向かって可愛く小首を傾げ、

「まま?」

と聞いてきたとか、三歳を前に、

「いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん……」

と理由の分からない呪文を唱え始めたとか、

「おし!」

と叫んで、眼鏡を掛けた執事の後追いをしたとか。

「前世の記憶?とやらが蘇る前から、貴女は、貴女でしたよ。ねぇ、旦那様」

フローラは、夫を見つめて微笑んだ。

「うむ」

普段から無口な父カバロは、一度頷くと、そのまま無言を貫いた。

しかし、その顔は笑いを堪えて歪んでおり、破天荒な娘の幼少時代を思い出しているのが手に取るように分かった。

「ほら、旦那様も、こう言っていることですし。問題ないわね」

「いや、問題あり過ぎでしょ!」

思わず突っ込んでしまったリベルタだが、両親の優しい眼差しに、また涙が出てきた。

「なんで、そんなに、優しいの」

「だって、リベルタのパパとママだし」

困ったように頬に手を当てるフローラは、やはり、変わり者リベルタの産みの親に相応しい相当の変わり者のようだ。

「そんなことより、長旅で疲れたでしょ?ご飯も用意しているし、お風呂に入って、ゆっくり眠りなさい」

娘の一世一代の懺悔&告白を『そんなこと』と一蹴し、普段と変わらない優しさで娘を気遣う。

「ありがとう、お母様」

「私こそ、うちに産まれてくれてありがとう、リベルタ」

ギュッと抱きしめ合った二人を、

「ずるいぞ」

とカバロがまとめて抱きしめる。

それを横で見ていたシャイネンは、

『いい家族だな』

と目を細めた。

実の両親とは、産まれて直ぐに引き離されたシャイネン。

伯父の家に末っ子として迎え入れられたが、事実は幼い頃から教えられてきた。

兄姉も、扱いに困ったことだろう。

なにせ、王弟だ。

敬うべき主人の弟が家にいるのだから、最初は、気が休まらなかったのかもしれない。

それでも、可愛がってくれたとは思う。

今でも交流はあるし、年の離れた姉などは未だに赤ちゃん扱いだ。

疎まれても仕方ないと思っていたのに、愛を与えてくれたナーハフォルガー公爵家。

リベルタもまた、不安だった心に特大の慈雨を降り注がせてもらったようだ。

「私は、これで失礼します。リベルタさん、明日は迎えに来ますからね」

シャイネンの言葉に、リベルタは再び不安げな顔で振り返った。

彼の反応が気になったのだろう。

しかし、リベルタの瞳が捉えたのは、いつもと同じ好々爺のような優しい微笑み。

「ご両親にとって、リベルタさんがリベルタさんであるように、私にとっても、リベルタさんがリベルタさんですよ」

「うぇっうえっうえぅ、じゃぃねんじぇんじぇーー(シャイネン先生)」

もうまともに言葉を発することが出来ないほど、リベルタは涙を流して嗚咽している。

そんな彼女の頭をよしよしと撫でると、シャイネンは、カバロとフローラに頭を下げて伯爵家を辞することにした。

「まぁ、普通の子ではないと思っていたが……」

予想の斜め上を超高速で突っ走っていくリベルタ。

帰りの馬車の中で、シャイネンは突拍子もない少女に清々しさすら感じ、クスクスと楽しげに笑っていた。