軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話 クズ男再び

1年生の時の不祥事が原因で、評価が地に落ちたフレルト。

しかも、ベリッシモ伯爵家と疎遠になってからというもの、それまでの横柄な態度なども相まってポルポ公爵家自体が社交界でも爪弾きにされていた。

家族揃って長年王都暮らしをしており、領地に帰っている気配もない。

仮に優秀な部下達が管理してくれているとしても、毎晩のように夜会に姿を現し、その度新しいドレスを着ていれば金はいくらあっても足りないだろう。

今までは気にもとめなかったことが、皆の中で疑念に変わっていく。

あれだけの贅沢な暮らしを何で支えているのか?

状況をいち早く掴むのが、貴族として上手く生き残る手段でもある。

怪しいものに巻き込まれないよう距離をとるのは、当たり前のことなのだ。

公爵家ですら、見切りをつけられればお茶会の誘いすら来なくなる。

いわんや、嫡男ですらない青年を、誰が相手にするだろう。

なにせ、今のフレルトを手に入れても何も旨味がない。

学年最下位。

ムッチリメガネ。

教師達からの覚えも悪く、同級生達からも遠巻きにされている。

しかし、そんな捨て駒にも、捨て駒としての価値があった。

「まぁ、またこんなにケガをして……。どうぞ、無理をしないでくださいね」

人目を忍んで密会を繰り返すボニートとフレルト。

今日も裏庭で、全身に広がる打ち身による痣を、ボニートはひとつひとつ丁寧に治してやる。

その時不必要に手を握るのは、彼の心を捉えて離さないためだ。

最近徐々に昔を取り戻しつつあるフレルトは、少しだけだが精悍な顔つきになってきた。

このまま育てれば、昔の輝きを取り戻せるかもしれない。

しかし、ムッツリスケベな十六歳は、無表情を貫きながら、下半身の熱をどうにか逃そうとモジモジしていた。

原作なら今頃、欲望の捌け口としてリベルタを自分のいいように扱っていたはず。

それが思うようにいかず、暴発寸前の爆弾みたいになっていた。

その姿は、ボニートが前世で手玉に取っていた男達と被る。

ここぞとばかりにボニートは、更に体を寄せてしなだれかかり、悲しげな溜息をついた。

「私も、ベリッシモ伯爵令嬢のせいで、学園内で虐められているのです」

「なんだって!」

「直接ではないのです。ただ、誰もお話ししてくれなくて……」

それはそうだろう。

三人だけの特別クラスでは、アルバトロスが心のシャッターを下ろして以来、ほぼ教室での会話はない。

それどころか、時々冷たい視線を向けられ、

『近寄るな』

と暗に示されている状態だ。

空気のようになってしまったモブは、息をしているのかさえ怪しいほど気配がない。

ただ一人元気なのは、

「はっはっは、三人とも暗いな。悩みがあるなら、『王家の血を引く』この私に相談しなさい!」

と熱弁を振るう『王族じゃない人』スパイトロフ副学長だけだ。

既に、次の人事では副学長の肩書までなくなることが決まっており、役職名のない『ただの人』となる日も近い。

そして、先日までは「聖女様!聖女様!」と群がってきた下級生の女子達も、今では蜘蛛の子を散らしたように居なくなっていた。

冷静になれさえすれば、彼女達も高位貴族に物申すことがどれほど危険で無意味なことか判断できる。

『リベトワ』で配られたチャームによる状態異常解除が行われた後は、スッキリとした頭で危険を回避しているだけだ。

そうでなくても、思春期女子の『流行』はうつろいやすく、興味を持つ対象は次々に湧いてくる。

そこに、社交界でも人気のコスメが煌びやかな世界とともに目の前に現れれば、飛びついてしまうのも仕方ない。

こうして、会話の成り立つ相手がフレルトだけになってしまったボニートにとって、彼は唯一残された切り札だった。

兎に角、彼の手でリベルタさえ排除してくれれば、その後は全て上手くいくと信じていた。

何故なら前世では、実生活もゲームの中も、彼女を中心に世界が回っていたからだ。

そんな彼女は、自分の周りに多くの監視が置かれ、フレルトとの密会すら筒抜けだとは夢にも思っていない。

「きっと、ベリッシモ伯爵令嬢が、裏で糸を引いて私を虐めさせているんです。皆さんも、逆らえなくて可哀想」

虐めてくる相手にすら優しく同情するボニートの姿に、フレルトの心臓と下半身はバクバクと脈を打つ。

「か、可哀想なのは、ボニートの方だ!」

ガバッと抱きつかれ、ボニートは焦った。

ここは、人目がないといえども裏庭。

完全に、外だ。

そんな場所で押し倒さんばかりの勢いで伸し掛かって来られたら、誰でも叫びたくなる。

「ひいっ」

ボニートは悲鳴を何とか飲み込み、ポクポクとフレルトの背中を叩いた。

しかし、彼は、びくともしない大きな体でボニートを押さえ込もうとしてくる。

「フレルト様、ここは、外です」

「外でなければ、いいのか?」

「そういう問題ではなく、そう!私は、聖女なのです。処女でなければ、力を失ってしまうのです」

『聖女あるある』を持ち出し、ボニートは、必死にフレルトを説得する。

自分で体験してみてわかったが、この勢いを女性の力で止めるのは難しい。

もしかしたら、乙女ゲームの中でも、リベルタは望んで関係を結んだのではないかもしれないという思いが頭を過った。

『嫌よ嫌よも、好きのうち』

本能に忠実な男達が便利に使う言葉は、女からすれば、

『嫌って言ってるでしょ!!!』

と怒鳴りたい案件だ。

どう転んでも、好きになどならない。

しかし、これが心底好きだった男ならどうだ?

体だけでもと、思ってしまうかもしれない。

『なんなのよ、このクズ男は!』

女として、一番許せないタイプの男だ。

それでも、大切な手駒。

リベルタを排除するまでは、上手く動いてもらわないといけない。

「フレルト様……ご存知ですか?私が何事もなくお勤めを果たして卒業したら、公爵位を頂けることを」

「公爵位?」

「えぇ、私は、教会で神聖魔法を使い治癒を行なっております。その功績として、貴族としての身分を与えられるのです」

ボニートの説明で、やっとフレルトの動きが止まった。

とは言え、抱きしめていることに変わりはない。

もう一声とばかりに、

「しかし、今、フレルト様と男女の契りをしてしまえば、私は、再び町娘に戻るしかありません」

と言いながら悲しげに微笑めば、やっと腕の力が緩みボニートは拘束から解き放たれた。

その瞬間を逃さず立ち上がれば、名残惜しげにフレルトが手を伸ばしてくる。

ゾッとする気持ちを必死に抑え、ボニートは、踊るようなステップで距離を取った。

「私を救ってくださるのは、フレルト様だけ」

「俺だけ……」

「えぇ、貴方だけ……」

暗に、卒業後の結婚相手は、貴方だけだと仄めかす。

ハッキリ明言さえしなければ、相手の勘違いで押し通せる。

前世から良く使う手で、馬鹿な男ほどマリオネットのように思うがままに動いてくれた。

ご多分に漏れずフレルトは、ギュッと拳を握ると、

「俺が、リベルタから君を守るよ」

とお門違いな決意を見せる。

リベルタの中では、フレルトもヒロインも、もう遠い過去にあるハナクソレベルの存在だと言うのに。

彼の燃え上がる敵意は、貴族街の片隅で長蛇の列を作り始めた可愛い人気店へと向かっていった。