作品タイトル不明
第六話 読者モデルな彼女
ボニートの前世は、雑誌の読者モデルをするくらい可愛い女の子だった。
とは言っても、売れっ子ではない。
時々、十代向けファッション誌の『この夏の着回し術』などという企画で、複数人いるモデルの一人として誌面に載るくらいだ。
アイドルに憧れたこともあったが、厳しい歌とダンスのトレーニングがあると聞いただけで諦めた。
汗を掻く努力が何よりも嫌いで、『読者モデル』という肩書でモテることに満足し切っていた。
少し多めにボディータッチして意味深に微笑めば、男の子達は勝手に貢いでくれる。
小五月蝿い女子は、撮影でもらった試供品のコスメを配れば直ぐに口を閉じた。
だから、クラスという狭い空間の中では、いつもお姫様扱いされていた。
時々、勘違いし過ぎた男子が彼氏面をして面倒臭いことを言ってきたが、また別の男子に駆除をお願いすればいいだけの話。
流行りのものに囲まれ
聞こえの良い言葉だけを聞き
真実を見ようとしない
とても小さな世界で生きていたことに、本人は全く気づいていなかった。
毎日が楽しくて当たり前。
そんな彼女が、同じ読者モデルの子からある乙女ゲームを教えて貰った。
最初は、正直お金を払ってまでゲームをやることをバカにしていた。
「こんな子供騙しで喜ぶなんて、オコチャマね」
しかし、あまりにも撮影の待ち時間が長った日に、暇つぶしに無課金で出来る部分だけをやったらドハマリした。
自分の言動一つで恋が芽生え、意中の攻略対象をゲット出来ることにコレクター魂が燃える。
ブランドバッグを棚に並べるように、攻略対象のアクスタを棚に全て並べたくなった。
増え続ける課金はモデル代だけじゃ足りなくなり、おじさんとお茶を飲んだりするオジ活にも手を出した。
でも、身を汚したり、危険を伴うような馬鹿はしなかった。
その点、自分は賢いと思っていた。
可愛い顔を最大限に活かし、最も少ない労働で大金を手に入れる。
最高に効率が良く、いくらでもお金が湧いてきた。
ただ、賢く生きたはずの前世の自分が、どんな形で人生を終えたのか記憶がない。
事故なのか、病気なのか。
それなのに、全ての攻略対象をゲットした時の高揚感だけは、転生後も、ボニートの中でドンドンと膨らんでいった。
また、あの感動を………。
教会で聖女だと認められた瞬間前世を思い出したボニートは、リアルな『攻略対象全コンプリート』が出来ると心から喜んだ。
もし、それをリベルタが聞いたら、
「で、その後は?」
と聞いたことだろう。
なんとも短絡的で馬鹿げた目標だが、その事に気づけるほどの人生経験を彼女は有していない。
ヒロインに転生して全てが上手くいくはずなのに、一つも思い通りにならない事が受け入れられなかった。
そんな彼女の耳に、『クルーガー・オンブラ婚約』の知らせが届く。
お相手は、トワレ・シュクセという大商会の一人娘。
リベルタ伯爵令嬢の無二の親友であり、莫大な金を生み出す『金のガチョウ』と呼ばれているらしい。
度重なる原作悪編に絶望するボニート。
そこに追い打ちをかけるように、
「ナーハフォルガー先生の結界学は、一年の時に適性検査を受けた者しか受講できません」
と教育課の窓口で言われてしまう。
少数精鋭で行われる授業の為、教室は、結界が施された特別室。
蟻一匹侵入できない、難攻不落の城だ。
死にかけの人間でも生き返らせる事のできる神聖魔法の申し子といえども、結界学は全くの畑違いで、途中から受講出来る特別待遇など与えられるはずもない。
本来なら、全ての攻略対象と友情エンドすることで初めて出てくる隠れキャラ。
魔王討伐の付添人として、ヒロインをナイトのように守ってくれるのが、シャイネンだ。
誰も攻略できていない現時点で、会えるはずもない。
「落ち着くのよ。今、手に入りそうな攻略対象は、誰?」
紙に書き出したのは、乙女ゲームの全攻略対象。
クルーガー。
シャイネン。
アルバトロス。
フレルト。
彼ら以外にも王太子や隣国の『やんごとなき方』が留学生として学園に来ているが、何故か、周りの警備が厳しく近寄ることができない。
「ゲームの中だったら、向こうから寄ってきたのに……」
想定と違う動きをする彼らに困惑するが、実は、彼女は既に色々とやらかしていた。
先ずは、アルバトロスの心を閉ざさせてしまったことだ。
彼は、国境沿いの防衛を司る辺境伯の跡継ぎであるため、王太子とも顔を合わせることが多く、仲が良い。
友であるアルバトロスが聖女の世話係となれば、王太子とて興味が湧く。
「どんな娘だった?」
何気なく聞いた彼に、アルバトロスは何も答えず、口をへの字にして押し黙った。
彼は正義感の強い熱血漢だけに、人の悪口は絶対言わない。
しかし、残念ながら、顔が口ほどに物を言う。
「あぁ……なるほど」
彼の『顔のパーツを全て真ん中に寄せた渋顔』である程度のことを察した王太子は、ボニートに会うことをやめた。
それなのに、あちらが自分のことを嗅ぎ回っていると聞かされれば、益々警戒する。
しかも、先日は隣国から来た生徒に接近しようとして教師から厳重注意を受けていた。
彼は表向きには留学生だが、本当は、後継者争いから逃れるため亡命してきている某国の第三王子だ。
そんな重要人物にピンポイントで会おうとするなど、怪しい以外の何者でもない。
王子の護衛達にも緊張が走り、彼女との接触を完全にシャットアウトすることにした。
気づけばボニートは、『聖女を騙るスパイなのでは?』と警戒されるまでになっていた。
こうなると、ますます攻略は難しくなる。
ボニートは、前世では告白されることはあっても、告白したことなどないモテ女子だった。
自分から動かなければならないとなると、何をどうすれば良いか分からなくなってくる。
学園外に行けばS級冒険者や近衛隊隊長などがいるが、彼らに会えるのは魔王討伐イベントが始まってからだ。
街に飛び出し探しに行きたいところだが、教会から学園までの登下校には、護衛を兼ねる屈強な神官がついている。
無口な彼は敬虔な信徒のようで、目を離すと男に声を掛けるボニートを、厳しい眼差しで監視していた。
尽く八方塞がりな現在、ボニートの手の届く相手は、フレルトしかいない。
「えー、アレ?やだなぁ」
落ちぶれたフレルトにガッカリとしたボニートだが、色々調べてみると面白いことが分かった。
彼がここまで見窄らしくなった原因の一端が、幼馴染リベルタ・ベリッシモ伯爵令嬢にあるという。
彼女をしつこく追いかけ回し、あまつさえ、剣で襲いかかったらしい。
幼馴染のよしみでなんとか退学は逃れたが、彼の評価は地に落ちていた。
「これって……原作改変……」
全ての状況証拠が、一人の人物を指し示す。
リベルタ・ベリッシモ伯爵令嬢。
しかも彼女は、クルーガーと、その婚約者トワレと共に社交界で流行中の『マジックバッグ』を作り出している。
そこに担当教員としてついているのがシャイネンだとなれば、もう、間違いない。
「リベルタ・ベリッシモ。アンタも、転生者ね!」
寮の1人部屋で暴れまくり、枕から綿が舞っても怒りは収まらない。
「クソッ!クソッ!クソッ!」
こうなれば、やり方を変えるしかない。
「先ずは、ストーリーを元に戻さなきゃ。そのためには……」
ボニートは、攻略する相手を決めた。
フレルト・ポルポ。
彼も、リベルタに恨みを持っているはず。
原作通り、彼の手でリベルタを断頭台に上げてもらえばいい。
ボニートが幸せになる世界に、リベルタは不要なのだから。