軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 伯爵家の秘密基地

ある晴れた休日、

『見せたいものがあるの!』

とリベルタに招待され、クルーガーとトワレはベリッシモ伯爵家を訪れた。

いつものように応接室に通されるのかと思いきや、

「こっち、こっち」

と手招きされて、どんどん庭園の方へと誘導される。

そしてたどり着いたのが、真新しい二階建ての建物の前だった。

玄関先には、表札とばかりに3人の名前が書いてある大きな板がぶら下がっている。

ポカンと口を上げて建物を見上げるクルーガーの口を、トワレはそっと扇で隠してやった。

「オイ、これは、なんだ?」

「あら、クルーガーともあろう人が見てわからないの?私達の秘密基地よ!」

ババーン

両手両足を大の字に広げて玄関先で自慢げな顔をするリベルタに、トワレは慄いた表情を見せる。

いくら社交界で人気となったマジックバッグとはいえ、手間のかかる商品の為、大量生産は出来ていない。

だからこそ希少価値がついて高値で売買されるのだが、いくらなんでも、2階建ての新築を一括で支払う稼ぎはない。

コレを経費で落とせと言われたら……。

そう思っただけで、トワレは、急に百歳のお婆さんのように動悸息切れを感じた。

「もぉ、ノリが悪いわね!さぁ、入って!」

打てば響くように喜ぶと思っていたリベルタは、プーッと頬を膨らませて二人の背中を押した。

観音開きの玄関を開けると、真ん中には布の裁断に使われる大きなテーブルが置かれている。

壁際には色とりどりの布が掛けられており、最新式のミシンも取り揃えられていた。

更に二階に上がれば、引き出しのそれぞれに様々な素材を収めた棚が、壁際一面にびっしりと並べられているではないか。

銀色に輝く作業台の上には、顕微鏡からフラスコまで、正に、国立研究所真っ青の実験施設が整っている。

その全ては、コスメブランド『リベトワ』の開発をする為に用意されたものだ。

「流石に、コレは、ヤバいだろ」

「ですね。学生が持つには、分不相応だと思います」

仲良く肩を並べ、ピカピカの秘密基地を見て回るクルーガーとトワレ。

シャワー室に仮眠室、そして軽食なら作れそうな小型のキッチンなどが考え抜かれた配置にあり、一々驚かされる。

「そう?必要そうなもの集めたら、こんな感じになったんだけど?」

驚き過ぎて不安そうな表情を浮かべる二人を前に、リベルタは、不服そうな顔をする。

褒めてもらえないのが、余程納得いかないのだろう。

彼女は、トワレと寮を出て、貴族街の片隅に居を構えたことを機に、実家の庭に研究室を建てることを決めた。

本当は、この3倍の大きさが欲しかった。

母フローラに、

「それは、貴女が当主になってからにして」

と止められたため、渋々この大きさにしたのだ。

そして、大工の棟梁が、

「もう、赦してくだせぇ。皆が死んでしまいやす」

と言うほどの急ピッチで作業を進めさせ、出来上がったのは昨日。

前世なら、労働基準局に訴えられるレベルだ。

そして、使用人総動員で物資を運び込んだのが、今朝。

乾いたばかりのペンキの匂いも強く、窓は、すべて開け放たれている。

「一々学園の施設借りるのも面倒だし、最近、盗み見る人が多くなってきたし」

マジックバッグの名声が高まる程に、野次馬も増えていきた。

その中には、研究会に参加させろと煩く言ってくる輩も多い。

断ることにも疲れ果て、その時間を研究に回したいと思うのは、当然のことだ。

そして共同の設備を使うと、どうしてもその前後に不穏な人間が出入りがないか等神経をすり減らす雑務が増える。

もし自前の研究施設があれば、使用時間の制限もなくなってもっと研究が捗ることは分かりきっていた。

「折角作ったんだから、喜んでよ!」

「怒ってないわよ。でも、費用とか考えると……」

会計係でもあるトワレは、どれだけ借金したのか考えると、顔が引きつった。

その表情を見て、やっと二人が何を心配しているのか気づいたリベルタは、

「大丈夫!建物は、ベリッシモ伯爵家で建てたものよ!」

と親指を立てた。

「えぇ!ご両親に建てさせたの?」

「半分は出したわよ。ほら、『リベトワ』の開発料を貰ったでしょ?」

「まさか、それを全部注ぎ込んだの?」

「勿論!どうせ、私、ここに一生住むし」

平民なら一生食べていけるだけの金を、トワレの父は、リベルタに支払っていたはずだ。

それだけ、『リベトワ』は今、トップブランドになっている。

その全てで建設費用の半分と聞いて、一体いくらしたのかと、トワレは恐ろしくなった。

しかし、伯爵家の一人娘であるリベルタは、今後、婿養子を貰って女伯爵となる。

この施設は、ベリッシモ伯爵家を盛り立てていく最重要拠点となる予定だ。

だから、いくら金をかけても、勿体ないなどということはない。

「まぁ、そういう事なら、有り難く使わせてもらおう。な、トワレ」

「う、うん。クルーガーがそう言うなら……」

最近、トワレは、クルーガーに対して『様』をつけなくなった。

丁寧な言葉遣いはなかなかやめられないが、付き合うことを決めた日に、2人で話し合った結果だった。

貴族という地位に特に思い入れもない2人は、卒業後は結婚して新たな商会を立ち上げるという。

既に両家の挨拶も終え、正式に婚約も結んでいた。

展開の速さに驚いたのは、リベルタだけだ。

二人の両親は、互いに優良物件を逃がすまいと盛大に後押ししたらしい。

『羨ましくなんか、ないもん』

そう言いつつも、仲の良い2人を見ていると、ちょっと寂しくなってしまうリベルタ。

ピタリとくっついて立つ二人の間に無理矢理割って入り、

「さぁ、皆で、いーーーっぱい稼ごう!」

と、大きな胸を更に張って号令をかけた。

あからさまな物言いに、

「言い方!」

と注意するトワレと、

「まぁまぁ」

と宥めるクルーガー。

出会った頃では想像もできないほど、息が合っている。

三人の関係は、子ができ、孫ができ、天国の階段をのぼるまで続く。

未来において、世界に名を轟かせる大商会を立ち上げるトワレとクルーガー。

二人は、泣く子も黙る女伯爵になったリベルタを、陰日向に支える最強で最高の親友達だ。

力を合わせ、目を見張る新商品を開発し、人々の生活すら変えてしまうような偉業を次々と打ち立てていく。

しかし、まだ学生の彼女達は、今はマジックバッグに一直線。

「ねぇ、トワレ。次の試作品は、この花柄でどうかしら?」

「光沢もあって、いいと思う!」

「オイオイ、そろそろ男物も作ってくれよ」

新たに手に入れた研究施設で、直ぐに活動を始める三人。

こうして、新たな一歩を踏み出したリベルタ達は、ほぼ学校で姿を見なくなる。

なにせ、単位など全て取り尽くしており、卒業試験まで授業を受ける必要がない。

あとは空間魔法の論文さえ提出すれば、学園側からお叱りを受けることもない。

シャイネンは様子を見る為に日々通ってきてくれるし、不届きなスパイも侵入しないとなれば、この世の天国。

ただ、そのことで、唯一被害を被っているのは、

「なんで、何処にもいないのよー!」

クルーガーとシャイネンを探すボニートくらいのものであった。