作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われたけれど、ラブラブを演じきってみせます②
バッ! と立ち上がれば、第二王子の視線も私の動きに合わせて上がる。
「へぇ、証拠かぁ」
細められた瞳に、ぞわりと鳥肌が立つ。
よく分かんないけど、ヤバイやつ!
「どんな証拠があるのかな?」
穏やかな声のトーン。
だけど、有無を言わせない迫力がある。
まさに、捕食者といった感じだ。
「ご想像にお任せいたします」
ストンと再びソファーへと腰掛けると、ミカナ先生直伝の必殺技──困った時はとりあえず微笑むを発動する。
お願い! 通用して!!
「カリウス、ずいぶんと面白い奥方を迎えたんだね」
くすくすと笑いながら第二王子が言えば、カリウスはため息をつく。
「コレッティーナをからかうのは、やめてください。それに仕組んだのは、王家じゃないですか」
「えっ!? 仕組んだ?」
「知らなかったのか? 俺とコレッティーナの婚姻を進めたのは、国王陛下だぞ」
「政略結婚だとは聞かされていましたけど、王家が関わっていたとは初めて聞きました」
ということは、王家が仕組んだ結婚相手に「お前を愛することはない」って言い切ったの?
うわぁ、何という考えなさっぷり。
……いや、待てよ。
浅はかということに変わりはないけど、もしかして──。
「お前を愛することはないの入れ知恵をしたのは、第二王子殿下でございますか?」
疑問を投げつければ、第二王子の目が見開かれる。
「……は? まさか、実行したの?」
「はい。見事に実行なさいました」
「マジ?」
「マジです」
しっかりと頷けば、部屋は静まりかえる。
その何とも言えない空気を壊したのは、第二王子だった。
「あははははは………。マジ……かぁ…………。はははははは……」
「まさか冗談だったんですか!?」
「当たり前だよ。そんなこと言ったら、夫婦関係 破綻(はたん) するって」
目尻の涙を拭いつつ、チラリと私を見た第二王子と目が合う。
「いやー、寛大な奥方で良かったね」
「…………まぁ、そうですね」
「あれ? 一悶着(ひともんちゃく) あった感じ?」
「そういうわけじゃないですけど……」
あ、旦那様が困ってる。
これは、妻として 助太刀(すけだち) する場面だな。
「私たち、とってもラブラブですので、ご安心ください。ね、カリウス」
「そ、そうだな!」
コクコクと頷く姿には、いつものキレがない。
これはかなり第二王子から精神的ダメージを受けたとみた。
「えっと、お話は終わりでしょうか? あまり長居するのもよくありませんので、私たちはこれで──」
「え? まだだよ。証拠について教えてもらってないでしょ?」
にこにこ笑顔が怖い。
「だ、駄目です。教えません」
「どうして?」
「どうしてもです!」
首をぶんぶんと横に振る。
教えたら、ざまぁできなくなる。
私は、私にごはんくれなかった人にざまぁしたいのだ。
「……もちろん、ただでとは言わないよ」
「え?」
「望みは何かな?」
望……み…………。
まずは、夜会のごはん全制覇でしょ。それからバーベキューも早くしたいし、おやつの時間ももっとたくさん欲しい。
あとはやっぱり──。
「稲作だよねぇ」
自分で育てて食べるご飯は最高だろうなぁ。
味噌と醤油もほしいし、あんことかも食べたい。
「稲作って何かな?」
第二王子に聞かれ、パッと口を手で押さえる。
「私、何も言っておりません」
「うん。その口調ももう手遅れだから、普通に話しなよ。疲れるでしょ?」
…………手遅れ? 普通に?
「──っ!! 私、完璧でしたよね!?」
旦那様に言えば、少し困ったように眉が下がる。
「え? あー、うん。そうだな」
「駄目でした?」
「駄目じゃない。頑張ってた」
それ、駄目だったってことじゃん。
くそぅ……。次は絶対に上手くやる。
「殿下も良いと言ってくれたんだし、ラクにしたらどうだ?」
「……わかりました。ラブラブは継続ですか?」
「…………そうだな、頼む」
少し旦那様の声がかすれている。
それにちょっと顔が赤い。
「決まったかな?」
「はい。いつも通りにします」
「うん、そうして。で、稲作って何?」
うぅ……。第二王子、しつこいタイプだ。
「田んぼのことです。それより、飲み物くれますか?」
「ん? そうだね。気が利かなくて悪かったよ。すぐに用意させよう。カリウスはワインでいいよね? 夫人はどうしようか? 紅茶にしとく?」
「ワインください!」
やったー!
この世界では初酒だ!!
王城で出るワイン、絶対に最高級品だよ。
「あ、それとカリウスには紅茶でお願いします。風邪気味ですよね? のどの調子、悪そうですし」
「…………? そんなことないぞ」
「さっきかすれてましたよ」
「──っ!! あれはだな……。殿下ニヤニヤしないでください」
じろりと旦那様が睨めば、第二王子はもっとニヤニヤした。
「いやー、春だねぇ。じゃ、カリウスには紅茶で、夫人はワインだね」
「コレッティーナも紅茶でお願いします」
「え? 何でですか? 私、ワイン飲みたいです!」
旦那様と違って、めちゃくちゃ元気だし、高級ワイン飲みたい!
「もしかして、私、飲酒できない年齢ですか!?」
前世ではお酒は二十歳からだった。
ここは中世ヨーロッパっぽい世界だから、十八歳は飲酒OKなんじゃないの!?
「年齢じゃなくて、コレッティーナは身体が弱いだろ。だから、飲むなら家にしとけ。な?」
「でも、超高級ワイン飲みたいです……」
「なら、一本もらって帰ろう。殿下、いいですよね?」
旦那様と一緒に第二王子を見れば、嫌そうな顔をしている。
「断れない雰囲気にして聞くの、やめてくれないかな?」
「何言ってるんです。殿下の得意技じゃないですか。で、くれるんですか? くれないんですか?」
第二王子は大きくため息をつく。
「誰もあげないとは言ってないよ。まったく誰に似たんだか……」
「殿下ですね。たまにはやられる側の気持ちも知った方がいいですよ」
そう言って笑った旦那様の顔が、さっき見た第二王子の笑顔より怖かった。