作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われた私、実家を売ろうと思います①
「……ワインは用意させておく。で、その田んぼを用意できれば証拠をくれるってことかな?」
「田んぼ、くれるんですか?」
「それは、夫人次第だよ」
……なんか、第二王子ずるいな。
田んぼも知らないのに、本当に用意できるの?
「私じゃなくて、第二王子殿下次第です。田んぼ用意できるって決まってません」
「そんなこと言ったら、夫人が用意できる証拠も大したことない可能性があるよね。田んぼというものを探して用意するだけの価値があるかも不明だよ」
たしかに……。
「……もし田んぼが無理だったら、王宮にくる珍しい食材の横流し十年で手を打ちます。あと、王城庭園での狩り放題もつけて…………むぐぅ」
「落ち着け」
旦那様に口をふさがれる。
ペシペシとふさいできた手を叩けば、旦那様はあっさりと手をどけた。
「自分で仕返しをしたかったんじゃないのか?」
「はい。でも、お米食べたいし、珍しいもの食べたいです」
「………………そうか。そうだな」
やられたことはやり返したい。
許したわけじゃない。
だけど、食べ物かざまぁかと聞かれたらねぇ……。
「だったら、持っている証拠を教えてくれ。どの程度の対価を取れるか教えてやる」
「ありがとうございます!」
よし。ぶんどれるだけ、ぶんどるぞ。
「というわけで、紅茶が来たら殿下は退室してください」
「ここ、王城だよ?」
「分かってます。それか、この話は後日ということで。殿下は夜会に戻らなければでしょう?」
さらりと旦那様が言えば、第二王子は嫌そうな顔をする。
「カリウスさ、不敬って言葉知ってるよね?」
「えぇ、もちろんです。罰として辞職させていただいても──」
「あーー、わかった! わかったから、それは勘弁して! どのくらい席外せばいいの?」
確認するように、旦那様が私に視線を向ける。
「四十分あれば大丈夫です」
「了解。カリウスの言うとおり、少しくらい夜会にも顔出さなきゃだし、余裕を持って一時間後でいい? お腹もすくだろうから、軽くつまめるものを用意するよ」
何ですと!?
第二王子、すっごくいい人だ!!
「はい! 夜会の食べ物がいいです!」
バッと手を挙げて言えば、旦那様に手を下げられる。
「別にいいけど、何か好きなものあった?」
「まだ何も食べてません! 全種類制覇するつもりだったのに!!」
くそっ、義妹め!
食べ損ねた恨みも、絶対に許さん!!
「じゃ、じゃあ、全種類用意するね」
「やったー! ありがとうございます!!」
「んんっ……」
第二王子が咳払いをした。
何だろう。第二王子ものどの調子が悪いのかな?
それに何だか震えてる。 悪寒(おかん) ?
「あの、カリウス……」
って、旦那様も震えてるよ。
二人同時に高熱が出る……のは、あまりないか。
私も震えるべき?
とりあえず、肩を震わせとくか。
「……コレッティーナ、何……してるんだ?」
「震えてます」
「ぶふっ……。ふふ…………。俺と殿下は笑いをこらえてるだけだ。コレッティーナは震えなくていい」
「あ、そうでしたか」
何だ。私の知らないマナーか何かかと思った。
って、第二王子がソファーから落ちてる。
王族って、案外マナーゆるいんだな。
***
第二王子は「部屋の外には騎士を置いておくから」と出ていって、本当に一時間ピッタリで帰ってきた。
「キミたち、くつろぎ過ぎじゃないかな……」
どこかグッタリした様子で言われて、首を傾げる。
「そんなことありませんよ。ほら、口開けろ」
「はい! あーん! むぐむぐ…………。はぁ……高級なお味がします」
うっとりしていれば、旦那様が次の一口をくれる。
「オレは何を見せられてるんだ……」
「食事風景ですね」
「そんなわけないよね!? イチャついてるだけだよね!?」
「仕方ないじゃないですか。コレッティーナがフォーク落としたんですから」
「扉の外にいる騎士に頼めばいいだろ!!」
第二王子、怒ってるなぁ。
何をそんなに……。
あっ、そうか! 夜会で何も食べられなかったんだ……。
「カリウス、第二王子殿下にもあーんしてあげてください」
「は?」
「お腹空いてるんですよ。可哀想です」
そう頼んだら、旦那様の目が、死んだ魚の目になった。
あれ、第二王子もだ。
「コレッティーナ、それはできない」
「うん。おなかは空いてないから大丈夫だよ。ありがとね」
なら、いいけど。
何であんなにカリカリしてたんだろ。
カルシウム不足かな?
「さて、気を取り直してっと。話はまとまったかな?」
「はい。こちらからは、お米と稲作についての調査と、王家から珍しい食べ物の横流し二十年、王家庭園での植物食べ放題、それから──」
「待った! その植物食べ放題って何!?」
前のめりになって、第二王子が言う。
「コレッティーナの趣味です」
「趣味です!」
生きるためだったけど、今は自分で草をむしる必要も根っこを掘る必要もない。
やりたいから、やるのだ。
「根っこも欲しいので、土を掘る許可もください!!」
「あ、あぁ……」
少し考える素振りを見せたあと、第二王子は用意されてたワインを飲み干す。
「いろいろとツッコミたいけど、それはまた後日にするよ」
「後日も結構です。コレッティーナに興味持たないでください。で、要望の続きですが──」
「私が言ってもいいですか?」
そう言えば、旦那様が頷いてくれる。
「絶対欲しいのは、さっきの三つです。で、こっからはお願いです」
「うん。何かな?」
「実家がどうなろうと、父と義母、義妹が生きてようが死んでようが、どうでもいいです。でも、潰してほしいです」
「……理由は?」
第二王子の声のトーンが低くなる。
視線が鋭い。
「お金があったら、私の食事を奪いにくるかもしれません」
「…………ん?」
「もう二度と食事をとられるのも、もらえないのも嫌です。だから、潰してください!」
もし駄目なら、別の方法で私が潰す。
危険分子は根絶しないと。
「それは、夫人の持ってる証拠によるかな」
たしかに。まだ第二王子は証拠を見てないもんね。
「分かりました。今さっきまとめたので、お渡しします。でもその前に、もう一つ」
第二王子に視線で先を促される。
「証拠に価値があったら、捕まえた実家の人たちに、おいしいもの、食べさせないでください。最後の 晩餐(ばんさん) で豪華なものも駄目です」
たとえ自分でざまぁしなくても、許したわけじゃない。
許す気もない。
おいしいもの、食べられると思うなよ。