軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「お前を愛することはない」と言われたけれど、社交界デビューします②

王城に到着し、馬車は徐々に速度を落とし始めた。

「旦那様、大事なお話があります」

「何だ?」

「もし、私が義母と義妹に絡まれたら、旦那様は逃げてください」

「は?」

旦那様の眉間にシワがギュッと寄る。

「確実に旦那様は、義妹に狙われるからです」

「狙われる?」

「はい」

義妹はイケメンが好きだ。

旦那様を見たら、間違いなくクネクネする。

「だから、逃げてください」

「断る。コレッティーナとは離れない。譲らないからな」

…………マジか。

となると、私が折れるしかない……よね。

「……分かりました。義母と義妹が現れたら、スルーしましょう。いざとなったら、ハンカチに包んできた これ(・・) で退治します」

ハンカチに包んできた乾燥させた根っこを見せる。

お腹用の葉っぱと一緒に、アンネに駄目ってされるかと思ったけど、見つからなくて良かった。

「……それは、何だ?」

「根っこです。毒があります」

「…………ここに置いて行きなさい」

「嫌です」

「じゃあ、ポイしなさい」

「もっと嫌です!」

ぶんぶんと首を横に振れば、旦那様は大きなため息をつく。

「それを王城に持ち込んだら駄目だ。もし何か事件が起きた場合、コレッティーナが疑われるだろ。何もなかったとしても、所持がばれたら王族暗殺未遂の疑いで捕まる」

「毒殺って、そんなに日常的に起こるんですか?」

なかなかに物騒だ。

社交界、恐ろしい……。

そんなところにしょっちゅう行ってた義母と義妹って、ドМ?

「警備もしっかりされているし、基本的に心配はない。だが、権力の集まる場だからな、 企(くわだ) てる者もいるって話だ」

「分かりました。旦那様は私が食べたものしか、食べちゃ駄目です」

「断る」

「私、毒を激辛感知するので、旦那様を守れます!」

「必要ない」

不機嫌を隠すことなく言われる。

いったい何が不満なんだろう。

「……降りるぞ。ザールが待ってる」

「あ、はい」

いつの間にか馬車は止まっていて、窓からザールの後ろ頭が見える。

「あの、どうして 御者(ぎょしゃ) をザールがしてるんですか?」

「ザールが馬の扱いにも長けているのは前提として、コレッティーナが馬車の中で何か言い出した時の予防策だ。実際、毒を激辛に感じるって話しただろ」

「でも、旦那様と二人でした」

「御者に聞こえる可能性だってゼロじゃない」

そうだけど、そんなに警戒しなくても……。

「ザール、待たせたな」

旦那様がそう言うと、馬車の扉は開かれる。

「走行中はともかく、速度が出ていない時は会話が御者台まで聞こえることもございますよ」

扉を開けてくれたザールは小さな声で言うと、にこりと微笑む。

「というわけだ。ほら行くぞ」

旦那様が先に馬車から降り、その手を取る。

……あれ? 私、馬車からの令嬢的降り方、知らない。

階段の応用編ってことだよね?

えっと、段差の高さは馬車の方が高いから、優雅に降りるには……。

うっ、見本がないと難しいかも!

さっそくのピンチに内心冷や汗をかいていると、ふわりと私の体が持ち上がる。

「コレッティーナの身長だと、降りるのも大変だな」

瞳を細め、旦那様は優しく笑う。

まさに、妻を溺愛している夫だ。

「ありがとうございます。助かりました」

口を大きく開けないよう注意して私も笑えば、旦那様の雰囲気がわたあめが似合いそうなものに変わる。

へぇ、こんな顔もできるんだ……。

なんて思っていれば──。

「「「「キャーーーー!!」」」」

甲高(かんだか) い叫び声が上がった。

耳を 塞(ふさ) ぎ、顔をしかめたくなるような超音波に、頭がぐらぐらする。

貴族って「キャー」しちゃ駄目なんじゃないの?

マナー違反では⁉ と思うけれど、誰もそれを気にした様子はない。

「旦那様、顔が氷ですよ」

ちょいちょいと旦那様の上着を引っ張って、こそりと言う。

「……仕方ないだろ。苦手なんだ」

ふむふむ、なるほど。

「顔がいいのも大変ですね」

モテる =(イコール) いいこととは、限らないもんね。

「よしよし、いりますか?」

「そうだな。頼む」

旦那様がよく私にしてくれるみたいに、頭を撫でる。

ツヤツヤさらさらなので、撫でるのは気持ちいい。

その間にも悲鳴は上がり、何人かの令嬢が倒れた。って、あれ? ご婦人も倒れてる。

「貴族女性のマナーって、何なのでしょうね」

にこりと溺愛妻の役に戻って話せば、旦那様は小さく吹き出した。

「だな。コレッティーナの方が 淑女(しゅくじょ) だ」

そう言いつつ腕を差し出され、そっと手をのせる。

目の前に見える王城は、見上げるには首が痛くなるくらい高くて、建物の端が見えないくらい広い。

「ここのお庭は、さぞ食料が豊富でしょうね。いつか(植物)狩りに来たいものです」

「……ぶふっ」

旦那様が肩を震わせている。

本当に、貴族の作法って何なんだろう。

想像よりも自由だな……。

ざわついている雰囲気の中、歩き出す。

旦那様だけじゃなく私も見られてて、じろじろと値踏みされてるみたいな視線だ。

でもまぁ、直接何も言ってこないような人間は怖くない。

言ってきても、怖くないけど。

「絶対に俺から離れるなよ」

「えぇ、もちろんです。私がカリウスを守ってみせます」

ハンカチの間にある根っこは取り上げられたけど、隠したところはそこだけじゃない。

ドレスの中……すなわち男性が触れてはならない部分にも持ってきてるからね。