軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「お前を愛することはない」と言われたけれど、社交界デビューします①

それから、何やかんやといろいろあって夜会の日が来た。

ブティックでマダムに頼んでいた夜会用のエンパイアドレスを着て、あとは出発の時間を待つだけだ。

「いいですか、コレッティーナ様。ずっと食べているのは駄目ですからね」

「決して、坊ちゃまから離れませんようお願い申し上げます」

アンネとミカナ先生が真剣な顔で言う。

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

「……旦那様にもお願いしておきます」

「それがよろしいですね。私も坊ちゃまへお話しておきましょう」

そう言うと二人は頷き合っている。

え? 何で?

解せぬ。解せぬぞ……。

──コンコンコン。

「はい。どうぞです」

「コレッティーナ、準備はできた……か…………」

旦那様が扉を開けながら聞いてくる。

目が合った瞬間、濃紺の瞳は見開かれた。

──パタン。

…………え?

「旦那様、どうしたんですか?」

閉まった扉を開く。

すると、旦那様は視線をさまよわせた後、気恥ずかしそうに私を見る。

「あ……その、に、似合っている……」

「ありがとうございます。カリウスも素敵ですよ」

ふふっと笑い、寄り添う。

さすが旦那様だ。もう役作りを始めているとは。

「いや、本当に似合ってると──」

「はい。分かっていますよ」

おぉ! 役に入り込んでる!

私も頑張らないと!

「絶対に分かってないだろ」

旦那様はため息をつくと、困ったように小さく笑う。

「どうだ? ドレスの着心地は」

「えぇ。たくさん食べられそうです」

「……まだ、それやるのか?」

ん? まだ?

先に演技を始めたのは旦那様なのに……。

ま、いっか。いつもの方がラクだしね。

「苦しくないですし、内臓も口から出ません! いっぱい食べれます」

ギューギューコルセットで食べられない気の毒なご令嬢たちの無念は私が晴らす!

という名目で、たくさん食べようっと!

「たくさん召し上がってはなりません」

「そうですよ。食べ物に夢中になって、旦那様から離れないようにしてくださいね」

空かさずアンネとミカナ先生が言う。

うぅ……。ただでさえ二人には勝てる気しないのに、二対一かぁ。

「旦那様! 旦那様は私がたくさん食べてもいいって思ってますよね? そのための、このドレスですよね!?」

「お腹が痛くならないように気をつけろよ」

「ご安心ください! お腹用の葉っぱ持ちました!」

「……そうか。ありがとな」

ん? 何だ、その残念なものを見る目は。

旦那様の分も持ったけど、そんな顔すると、あげないぞ。

って、えぇ!?

「アンネ、私のカバンに何するですか!?」

「夜会に葉っぱは禁止です!」

「そ、そんなぁ……」

小さなパーティーバッグに入れていた葉を出されてしまう。

それさえあれば、食べ過ぎも怖くなかったのに……。

って、もしかして葉っぱの持ち込みが禁止となると、私の野望も許されない!?

「旦那様!」

「何だ?」

「お城のお庭に出れたら、王城産の葉っぱをお土産に持ち帰ってもいいですか!?」

「…………は?」

「お城の葉っぱは特別美味しいと思うんです!」

きっと特別な土と特別な肥料、特別な水、そして特別な種で育てていて、今まで食べたどの葉っぱよりも奥深い高級な味がするはず!

「あー、何枚持ち帰るんだ?」

「そうですねぇ……」

私、旦那様、アンネ、ミカナ先生、デザー、ザール、デンガおじいちゃんでしょ。それから……。

必要な枚数を指折り数えていく。

「多くないか!? そんなに葉をむしったら、さすがにバレるぞ」

「……駄目ですかね」

「難しいだろうな」

そうか。高級な葉っぱだし、いっぱいは駄目か。

「なら、お城の人に許可を取ったらいけますか?」

「そうだな。それなら──」

「それならじゃ、ございません」

ピシャリとミカナ先生が言う。

「夜会は社交の場でございます。その中で葉をむしって持って帰ろうなど、貴族としてあるまじき行為でございます。特に今回はコレッティーナ様の社交界デビューなのですから、悪目立ちはなさいませんようお気をつけください」

「わ、分かった」

「ごめんなさい……」

一枚でも駄目なのか。

あぁ、残念……。

「葉っぱは無理でも、王城の食事は美味しいぞ。元気出せ」

「あい……」

こっそり楽しみにしていただけに、ショックだ。

気持ちがしおしおのショボショボになっていく。

「……今度、持って帰ってやるから、な?」

「そんなこと、できるんですか?」

「第二王子殿下とは旧知の仲なんだ。頼んでおく」

「本当ですか!? できるだけ新鮮なものを食べたいので、帰り際に摘んできてくれると嬉しいです!」

「分かった」

そう言いながら途中まで上がった旦那様の手は下がる。

「どうしたんですか?」

「せっかくキレイにした髪に、触るわけにはいかないからな」

小さく笑うと、旦那様は時計を見る。

「そろそろ行くか」

「はい!」

私と旦那様を乗せた馬車は王城に向かって走り出す。

さぁ、ラブラブ夫婦を演じようじゃないか!

そして、ついでにたらふく食べるのだ!!