作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言った旦那様がたじたじです。
もりもりと朝ごはんを食べ、昼夜は悪戦苦闘して、どうにか食事をした翌日、私の指導をしてくれる先生がやってきた。
「お初にお目にかかります。ミカナ・レートニアでございます。どうぞよろしくお願い申し上げます」
「コレッティーナ・ナビレートと申します。私の方こそ、よろしくお願い申し上げます」
ミカナ先生がやっていたように、ぺこりと頭を下げる。
そんな私を、旦那様が凝視した。
「コレッティーナが、ちゃんとしてる……」
思わずといったつぶやきに対し、失礼な! と返す前にミカナ先生が咳払いをする。
「坊ちゃま、その言い方は何でございますか?」
「坊ちゃまは、やめてくれ」
「あら、私にとってはいつまでも坊ちゃまでございます。嫁いでこられた奥様に対し、礼節をわきまえなかったと聞いた時には、それはそれは 腸(はらわた) が煮えくり返る思いでございました。そのような未熟者は、坊ちゃまで十分でございます」
お、おぉぉ……。
ミカナ先生、強い!
「あの、先生」
「何でございますか?」
「旦那様はとても優しくしてくれます。ご飯くれなかったの、最初の一回で、今は甘味もくれるんです。許してあげてください」
これでもう大丈夫!
と思った瞬間、旦那様が頭を抱えた。
「旦那様、大丈夫ですか? 片頭痛持ちだったんですね。少し横になってください」
「違う。そうじゃない」
「痛くない……ですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
そう言って、旦那様は私の頭に手を乗せる。
最初は拒否していたけれど、あまりにも回数が多くて、頭を撫でられるのには、すっかり慣れた。
やはり、身長差と年齢差があるからかな。
旦那様は妙に私を子ども扱いしたがる。
「……坊ちゃま」
「あっ、そうだった。急ぎの仕事が残ってたんだったな。じゃ、俺はこれで……」
「お待ちなさい」
「わ、悪いが、仕事がだな……」
しどろもどろ旦那様が言うと、ミカナ先生はにこりと笑う。
わぁ……、笑顔が怖い。
凄みがあって、かっこいい!
「坊ちゃま、今は仕事どころではございません。お食事の件に関しましては、デザーから聞いておらず、初耳でございます。それに、どのような理由を持って、奥様に 旦那様(・・・) と呼ばせているのですか?」
「え? いや、その……」
「ハッキリおっしゃりなさい」
決して大きくないのに、背筋が伸びるような声だ。
ミカナ先生、いろいろとかっこいい……。
マネしたい……。
「食事についてはあれだが、呼び方に関してはコレッティーナが好きでそう呼んでいるだけでな……」
「言い訳はけっこうでございます。此度は奥様へのマナーや貴族の常識をお教えする役目をいただきましたが、ついでに坊ちゃまの性根も鍛え直さねばなりませんね」
わぁ、旦那様もお勉強するのかぁ……。
って、……ん? 駄目駄目!
「ミカナ先生、駄目でございます。旦那様はお忙しいです。毎日、休みなく働いてます。これ以上は無理でございます」
ミカナ先生のマネをして、にこりと笑いながら言う。
うん、うまくできた!
「コレッティーナ……。なんでそんなにドヤァしてるんだ?」
「へ? 違いますよ。先生のマネです。私はかっこいいんです!」
「ふっ……ふふっ……。そうか。ミカナのマネか……。うん、最初はマネから入るのもいいかもな。エライぞ」
おや? 褒められた!
つまり旦那様は、私にミカナ先生みたいになってほしいと。
「分かりました! ミカナ先生みたいになります!」
「待て! それはならなくていい。俺がエライと言ったのは、コレッティーナの学ぼうという姿勢だ。どうしてマネしようと思ったんだ?」
旦那様は中腰になり、私と視線を合わせて聞いてくれる。
「かっこいいと思ったからです!」
「……かっこいい?」
「はい。先生は強者です。私、怒鳴るもヒステリーも怖くないけど、ミカナ先生は怖かったです。笑顔で静かに圧をかけるが最強です!」
それができたら、私も最強のナビレート伯爵夫人だ。
いい……。
最強に、かっこいい……。
「なるほど。で、コレッティーナは何で最強になりたいんだ? 社交界に行くのに、貴族としての礼儀作法や常識は身につけなければならないが、最強じゃなくてもいいんだぞ? 今のコレッティーナもある意味、十分最強だし」
「……? 私、最強じゃないです。まだまだです」
最強になったら、旦那様も、ナビレート伯爵家も、守れる。今の生活を守れるのだ。
「強さこそ、正義です!」
「そんなわけあるか! 今絶対にいろいろと 端折(はしょ) って話しただろ。全部話せ」
「つまり、普段から考えていることをすべて口にすると……」
「違う。何でそうなるんだ……」
旦那様は困ったように眉を下げて笑う。
でも、雰囲気は優しい。
「坊ちゃま、お話は済みましたか? いろいろと聞きたいことがございます。よろしいでしょうか?」
あれ? ミカナ先生の凄みが増してる。
オーラが見えたら、ぶおっとすごい圧を放ってるんだろうなぁ……。
うむ。やはりミカナ先生は最強でかっこいい。