作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われた私、貴族的動作を学びます
「ミカナ先生、もう一度見せてください」
貴族令嬢としての あいさつ(カーテシー) を正面から見せてもらい、私はミカナ先生の右前方斜め四十五度に移動する。
「分かりました。では、行わせていただきます」
そう言って、カーテシーをするミカナ先生の姿を目に焼き付ける。
「今お見せしたのが、王族に対するカーテシーでございます」
「そうですか。もう一回してください」
また更に四十五度進み、ミカナ先生の右側九十度でカーテシーをお願いする。
「見ているのもいいですが、実践こそ上達の近道でございますよ」
「いえ。まずは全方位から確認します。膝の角度、姿勢、足の引き具合、指先の形、その他にもいろいろ記憶します。前方から始めて、一周ぐるっと見て、最後に前方で記憶を微調整するので、見本は全部で十回ください」
「しかしですね……」
「ください。分からないとできません」
ミカナ先生は小さく頷くと、周りを少しずつ移動していく私のためにカーテシーをしてくれた。
「では、やってみましょうか」
「はい」
頭の中でミカナ先生の見せてくれたカーテシーを統合していく。
まずはスカートを三本の指で持ち、斜め後ろに右足を引く。足を引くのは、二十センチ〜二十三センチ。引いてすぐにかかとを五センチほど上げる。そのまま腰を落として、推定四十五度まで膝を曲げ──。
「って、あれ?」
ぐらりと体が傾く。
「コレッティーナ様!」
アンネの声が響く。
コテンと横に倒れたけど、 絨毯(じゅうたん) がふかふかだったので、痛くない。
慌てたように、ミカナ先生とアンネが駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫です。もう一度やります」
やり方も角度も間違ってなかったはず。
──コテン。
────コロン。
──────パタン。
何故だ。何故、何回も同じところで倒れる?
「コレッティーナ様、足の引きはもう少し小さくなさってください」
「どうしてですか? ミカナ先生は上級編ってことですか?」
足の引きの距離は、カーテシーが上手くなればなるほど、大きくなるってこと?
じっとミカナ先生を見れば、困惑した瞳が私を見る。
「……ご指導中、申し訳ありません。コレッティーナ様、何故ミカナ先生を上級編だと感じられたのですか?」
「足を引く距離をミカナ先生と同じにしたからです。先生の動きをそのままコピーしてやりました。でも、私がやるとコロンってなります」
解せぬ。
……筋力差か?
いや、そもそもスカートで隠れていた膝の角度の推定が誤っていた線もある。
「コレッティーナ様とミカナ先生では身長差がありますから、同じだけ足を引いても、同じにはならないのではないでしょうか」
「──っ!! たしかに!」
ということは、私とミカナ先生の体格差を念頭に再度動きをトレースしなきゃいけないってことか。
縮小コピーのイメージだよね。
角度のみ固定。
ミカナ先生の身長、推定、百六十二センチメートル。私は百四十九センチメートル。
動きの範囲をおよそ九十二パーセントへ変換。
「お見事でございます」
「やりましたね、コレッティーナ様」
ふぅ。
やっと王族へのカーテシークリアかぁ。
毎回、ミカナ先生の動きを小さくしてコピーするの、ちょっと面倒だな。
でも、それが一番手っ取り早いんだよね。
「次、お願いします!」
***
──コンコンコン。
「旦那様、一緒に夜ご飯しましょう」
執務室へと誘いに行く。
旦那様は忙しい時に放っておくと、すぐ食事を抜いてしまう。
従業員の健康を気にしてくれるのと同じように、自分の体も大切にしてほしいものだ。
「ん? あぁ、これが終わったらすぐに行く」
「駄目です。そう言って、この間は食べ終わってからきました」
それで、コーヒーだけ飲んで執務室に戻っていった。
「旦那様と一緒に食べます」
「……分かった。悪いが五分待っててくれるか?」
「もちろんです」
頷きつつ、旦那様の執務机にのっている書類を手にする。
「五分あれば、誤字脱字、計算ミスくらいならチェックできます」
「疲れただろうから、コレッティーナは休んでてくれ」
「大丈夫です。礼儀作法はすべてマスターしました。スイッチ入れれば、言葉遣いも変えられます」
「…………は?」
ポカンとした顔で旦那様は私を見る。
うん。これは、やって見せた方が早いやつ。
「こちらの書類は 私(わたくし) に任せてください。カリウスの方こそ、疲れた顔をしていますよ。あたたかい食事に、十分な睡眠こそ、健康の秘訣です。急ぎの書類を片付けたら、ディナーにいたしましょう?」
口元に小さく笑みを浮かべ、落ち着いた声を意識して話す。
「え? は? えぇ!?」
バサバサと書類が床に散らばっていく。
「習得したということ、信じていただけましたか?」
書類を拾う動作はコピーしてないから、拾えないけどね。
さぁ、頷くのだ。
そしたら、いつもの動きに戻って、書類を拾うから!