作品タイトル不明
後悔と寝言〜カリウスside〜
コレッティーナが、ものすごく目をこすっている。
というか、頭が揺れている。
「話はまた明日に──」
「駄目です! 肝心な話は何もしてないです」
「……いや、大事な話してたよな」
「そんなこと……ないですよ。それより、朝ごはんです。朝ごはん! 手で食べれる……ものを…………んあっ! ね、寝てません……よ……」
いや、どう見ても寝てるだろ。
「俺も今日はもう休みたいし、明日でもいいか? 朝食は手で食べれるものを頼んでおくから」
「あい……」
こくんと頷いたんだか、船を漕いでいるんだか……。
「ほら、送っていくから……」
そう言いながら、腕を引いて立たせた瞬間──。
「えっ!? ちょっ……嘘だろ!?」
コレッティーナがソファーの上に倒れ込んだ。
「おい、大丈夫……って、寝るな!」
抱きかかえていた枕を頭の下に入れ、コレッティーナは寝息を立て始めた。
「起きろって!」
ゆさゆさと揺すれば、体を丸め、ソファーの上で寝返りをうつ。
普段からちいさい体が、更に小さくなった姿に、何とも言えない感情が湧く。
コレッティーナのことは、哀れだと思う。
五歳で母親を亡くしてからというもの、本来なら得られるはずだった貴族としての教育はおろか、生きていくための食事すらまともに与えられなかったのだ。
当然、優しさや愛情というものも得られなかっただろう。
何より、それを普通のことだと思ってしまっていることが、見ていて苦しい。
何故、そんな仕打ちを受けなければならなかったのか。
コレッティーナじゃなくていいだろ!
何で、コレッティーナなんだよ……。
飴一つで喜んで、頬をゆるめて 舐(な) める。
その姿を見るたびに可愛いと思う反面、最近では胸の奥に苛立ちが湧き上がってくる。
コレッティーナを温かく迎え入れなかった馬鹿な俺を殺してやりたい。
あの日に戻って、やり直せたら……。
「ごめんな……」
柔らかな髪を撫でる。
そうすれば、コレッティーナはへにゃりと笑った。
「こんなにいっばい、食べられませんよぉ……」
幸せそうに口をもごもごと動かしている。
「……うまいか?」
「あい。旦那様には……ピンク…………。アンネにはブルーの…………」
……おい。何で俺がピンクで、アンネがブルーなんだよ。
おかしいだろ。
規則正しい寝息をたてているコレッティーナに、溜め息がこぼれる。
「お前には、俺がどう見えてるんだろうな……。って、お前呼びは駄目だったんだっけか? 悪い、気を付ける」
寝ている相手に話しかけるなんて、どうかしている。
「なぁ、コレッティーナ。ラビソン家を潰すと言っていたが、俺がやったら駄目か? もう、コレッティーナが傷つくところを見たくないんだ……」
いや、違うな。
コレッティーナが虐げられる様子を、俺が見たくないんだ。
きっとコレッティーナは、ラビソン家の者に何をされても気にもしないだろうから。
「はぁ……。どうせ駄目って言うんだろ? 頼むから、一人で何でもしようとするなよ……」
頼ることも、頼むことも、コレッティーナは選択肢から無意識のうちに除外するクセがある。
生きていく中で、そうしなければならなかったのだとは分かる。けれど──。
「それをさみしいと思うんだよなぁ」
さて、こうしていても仕方がないし、部屋まで運ぶか。
コレッティーナを抱き上げ、隣の部屋まで行く。
ベッドへと降ろし、布団をかけようとした。
「──っ⁉ え、おい! ちょっ……」
だが、俺の手は布団をもったまま、何故か体を起こしたコレッティーナに抱きつかれる。
「逃がしはしません! あなたには申し訳ありませんが、今日の晩御飯になってもらいます! って、あれ? うなぎってどう 捌(さば) けばいいのでしょう……か……」
そう言いながら、コレッティーナは俺の首に手を回したまま後ろへと倒れ込んだ。
「うわっ!」
勢いよく引っ張られ、俺の体も一緒に倒れていく。
「あっぶね……」
どうにかコレッティーナを潰さずに済んだまでは良かった。
「──っ‼ コレッティーナ、離してくれ!」
ぺちぺちとコレッティーナの腕を叩くけれど、まったく離す気配はない。
それどころか、力が強まっていく。
近い。近いって!
顔が熱い。心臓の音が耳まで聞こえてくる。
「頼む。手の力を抜いてくれ。いい子だから……」
腕をベッドにつき、できるだけコレッティーナから離れようと力を入れる。
だが、俺の努力はコレッティーナの寝言によって、すぐさま打ち砕かれることとなる。
「……へへへ。きっとこれでみんな喜んでくれます。巨大うなぎ、もとい沼の主ゲットですよぉ」
「巨大うなぎって何だよ……」
あまりの寝言に脱力し、腕の力が抜けた瞬間、コレッティーナの足が俺の腰に絡みつく。
「…………」
これ、もう無理じゃないか?
大人しく、力が抜けるまで待つしかなくないか?
こういうのを諦めの境地と言うのだろう。
この日、俺は自分の力ではどうにもならないことがあるのだと、身を持って、思い知らされたのだった。
それにしても、こんな大声ではっきりと寝言を言う人っているんだな……。