作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われた私、旦那様のお部屋にお呼ばれしました②
問題は、ご飯がいつもよりおいしくなくなっちゃうこと……だよね。
社交は必要だし、マナーを覚えるのは労働で、対価としての食事だから、文句は言えない。
けど……。
「昼と夜は頑張るので、朝は手で食べれるものにしてくれませんか?」
一日一食は、幸せだ! って、食べたい。
「駄目……ですか?」
恐る恐る聞けば、旦那様の手が頭にのる。
「駄目なわけない。……つらければ、夜会は断っておくぞ」
「行きます」
だって、そうしないと家族じゃなくなっちゃう。
私がナビレート家の仲間に……家族に入れてもらうには、ちゃんと役に立たないと。
価値を示さないと、いらないってされちゃう。
「…………コレッティーナ、何を考えてる?」
「え?」
「いつもなら、王城の食事を逃すわけにはいきません! 絶対に行きますから!! とか、言うだろ。変だぞ」
「……旦那様、私のマネ上手ですね」
何でそんなとこ、クオリティ高いの?
「──そ、それは今は関係ないだろ! で、何を考えてたんだ?」
耳を赤くしながら、旦那様が聞いてくる。
「旦那様は優しいです」
「知ってる」
「……その自信満々なところは、どうかと思います」
「別にいいだろ。俺は、コレッティーナに優しくすると決めてる。だから、他からはともかく、コレッティーナに優しいと思われるのは、当然だ」
それ、私に直接伝えるの?
まぁ、旦那様らしいっちゃ、らしいけど。
「で、さっさと何を考えていたか言え」
「しつこい上に横暴ですよ。……ただ、役に立たないといらないってされると思っただけです」
どんな顔をして言えばいいのか分からなくて、視線を逸らす。
もし、迷惑だって顔をされたら……。
きっと明日の朝ごはんが美味しくなくなっちゃう。
何を言われるのか、怖い。
顔を上げられないままいれば、頭に衝撃が加わった。
「──っ! 痛いっ!」
「痛くしたからな。もう一発いるか?」
「いりません! いきなり叩くなんて、酷いです!!」
「叩いてない。 手刀(しゅとう) だ」
さっき、優しくしてくれるって言ったのに!
睨みつければ、旦那様は微笑む。
「よし。顔を上げたな」
「……そりゃ、いきなり攻撃をされたら、その犯人を見ます」
「うん。でも、下を向かなくなったことに意味があるんだ」
どういうこと?
思わず、眉間にシワが寄る。けれど、旦那様によってすぐに眉間を伸ばされる。
「何があっても、下を向くな。つらい時こそ、顔を上げろ。下を向くと、余計つらくなる」
「……何ですか、それ」
「俺の持論だ」
自信満々に言う姿に、変な人だな……と思う。
「そもそも、コレッティーナは間違っている」
「何がですか?」
「役に立つから家族なんじゃない。コレッティーナが俺の妻で、大切だから家族なんだ」
…………大切?
言葉としての意味は知っている。
でも、自分に向けられる言葉としては、しっくりこない。
「コレッティーナだから大切に思ってる。この意味、分かるか?」
ふるふると首を横に振る。
ちらりと見れば、旦那様は眉を下げ、優しく笑っていた。
「いきなり言われても、納得できないかもしれない。俺の場合は、出だしが最悪だっただけに、余計にな。でも、もしコレッティーナがマナーを覚えられなくても、社交界で失敗しても、がっかりしない」
ちょっと、何を言われてるのか分からない。
コレッティーナになって、お母様が死んでから、ずーっと、できなきゃいらない。できても、邪魔。
私はそういう人間だった。
できないのに、許されるなんてこと、あってもいいの?
「……旦那様は、やっぱり損するのが好きなんですね」
お人好しすぎる。お人好しすぎて、心配になるくらい。
「別に、コレッティーナに関しては損なんかしてない。コレッティーナのおかげで、毎日が新鮮だ」
「それ、褒めてます?」
「褒めてるよ。コレッティーナのいない生活は、もう考えられないくらいだ。まさか、こんなにもコレッティーナに中毒性があるとはな」
……何だろう。ちっとも褒められてる気がしない。
でもまぁ、旦那様が心配して、励ましてくれているのは伝わってきた。
「ありがとうございます。これからはより一層、旦那様に誠心誠意お仕えします」
こんなに素敵な雇用主、もう二度と現れないかもしれない。
「だから、何でそうなる! コレッティーナは、俺の妻だ。仕えなくていい!」
「えー。でも、労働対価に食事もらってますし」
「違う。健康維持のために食事を出してるんだ!」
あぁ、従業員の健康にも気を遣ってくれてるのか。
さすがホワイト企業トップだ。
「とにかく、できなくても呆れないし、いらないともならない。だから、安心しろ」
「……はい。これで安心して、明日の朝ごはんをおいしく食べられそうです」
あぁ、安心したら眠くなってきた。
でも、まだ寝ちゃ駄目。
肝心な話は、何もしてない。
とにかく、朝ごはんだけは幸せに食べれるようにしとかないと。
そうすれば、楽しくない食事のストレスを葉っぱとかを食べるので、うまく解消できる気がする。