作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われた私、旦那様のお部屋にお呼ばれしました①
部屋につき、私は重大なことに気がついた。
「お鍋と火がない!」
外なら簡易かまどを作るという選択肢があった。
けど、ここは室内。
そんなことをしたら、火事になる。
「アンネに淹れてもらうか?」
「……そうですね」
うかつだった。
実家ではお湯を淹れてそのまま飲んだけど、旦那様に根っこの浮いたお茶は出せない。
本当は自分で淹れたいけど、ここはお願いしなきゃなのかな……。
「……俺の部屋に来るか? 簡易的だが、お湯くらいなら沸かせるぞ」
「小さなお鍋、ありますか?」
「ザールに持ってきてもらおう」
旦那様の言葉に頷き、いそいそと枕を用意する。
「……何で、枕なんだ?」
「お茶を飲むと眠くなるからです」
「………ま、まさか、一緒に寝るのか!?」
顔を真っ赤にした旦那様に、首を傾げる。
雇用主と同じベッドで寝るわけないのに。
「床で寝ます」
「はぁ!?」
「部屋の隅っこ貸してください!」
たぶん、旦那様のお部屋からここまで辿り着けない。
廊下で寝るよりは、旦那様の部屋の隅を借りた方がいいと思う。
頑張って歩いて帰ってる間に、睡魔に負けて、頭をぶつけたら嫌だし。
「コレッティーナがベッドを使え」
「旦那様はどうするんですか?」
「ソファーでも、何でもあるだろ」
「駄目です! 旦那様はベッドでゆっくり休んでください!」
絶対に譲ってなるものか!!
ギッと睨めば、旦那様は苦笑する。
「分かった。ベッドで寝るよ」
「約束ですよ!!」
良かった。これで私のことは床に転がしておいてくれるはず。
せっかく到着した私の部屋を出発し、旦那様の部屋に向かう。
「って、お隣だったんですか!?」
「知らなかったのか?」
「いつも執務室にいるから、そこの近くにお部屋があると思ってました」
これなら、枕いらなかったな。
ま、いいか。持って帰ればいいだけだし。
それにしても、旦那様のお部屋は物が少ない。
さっぱりしてるというか、必要最低限というか……。
「あまり貴族のお部屋っぽくないですね」
「……コレッティーナの言う貴族の部屋ってどんなだ?」
どんな……か。
その言葉に実家を思い浮かべる。
「もっと派手でギラギラしてます!」
「それは……落ち着かなそうだな」
たしかに!
私はそこで寝ることなかったけど、色々と目にうるさい部屋だった。
安眠できなそう!
──コンコンコン。
控えめなノック音がして、旦那様が返事をすれば、ザールが小鍋を持って入ってくる。
「お待たせいたしました」
「ありがとう。今日はもう休んでくれ」
「承知いたしました」
あっさりとザールは部屋から出ていく。
「湯を沸かせばいいのか?」
「はい。あとは、これを淹れるのですが、包む布にハンカチ使ってもいいですか?」
「あぁ、構わない。ということは、縛るものもいるな」
お湯の沸いた小鍋に、ハンカチで包んだ根っこを入れる。
ゆっくりと琥珀色がハンカチから広がっていく。
「香ばしい匂いだな。どうやって作ったんだ?」
「根っこを洗って、干して、焼きました! 旦那様のお庭はきれいだから、こっそり咲いてるたんぽぽを探すの大変でした!」
「そうか……。って、たんぽぽ!?」
何をそんなに驚いてるのだろう。
「はい。花から根まで、全部食べれる優秀植物です!!」
しかも、一目でたんぽぽだと分かる見た目。
食料として、最高なのだよ。
「ささっ、どうぞ! あ、毒見いりますか?」
「いるわけないだろ!」
そう言うと、旦那様はカップに口をつける。
「へぇ、うまいな……。飲みやすい」
「はい! 飲み過ぎるとお腹 下(くだ) すので、そこだけは気をつけてください。実証済みです!!」
旦那様はお腹が弱いみたいだし、一日一杯までがいいだろう。
あとでザールに、申し送っておかなきゃ!
「実証済みって……」
うん? 何で呆れてるの?
「まぁ、いい。コレッティーナも飲み過ぎないようにな」
「はい!」
実証してからは、うまいこと付き合ってるからご安心を!!
「で、話なんだが……」
そう言いつつ、スッと視線を逸らされる。
口ごもってるし、すごく言いにそう。
……分かった! こういう時の定番と言えば──。
「お外に好きな人できましたか? 解雇なしで、トラブルにもならないなら、何も問題はないで──」
「違う! 王城での夜会にコレッティーナも参加しなければならなくなったんだ!」
何だ、そんなことか。
あまりにも深刻な顔をするから、何事かと思った。
「分かりました! 旦那様の最愛の妻として参加すればいいんですね!!」
「──っ。そう……だな。で、問題なのは夜会まで一月しかない」
「へぇー」
「へぇって……。俺だけ焦って馬鹿みたいじゃないか」
脱力したように、旦那様はお茶をすする。
「マナーの問題があるだろ。講師は見つかったが、間に合うかどうか……」
「……? そんなに大変ですか?」
「貴族の顔と名前は、俺の方が覚えておくからいいとして、歩き方から飲み方まで、いろいろあるだろ」
ほうほう、なるほど。
「大変なんですねぇ」
「何で他人事なんだよ……」
いや、だってねぇ。
やってないことに実感はわかないし。
「火おこしとマナー、どっちの習得が難しいですかね」
「そりゃあ……。火おこしじゃないか?」
何となくだけど、それなら何とかなる気がする。