作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われた私、マナーを学ぶ方向性となりまして
「はぁー! 市場調査、楽しかった!!」
屋敷へと帰り、お風呂も済ませ、ぼふんとベッドへとダイブする。
全部美味しかったなぁ。
もぞもぞと布団のなかに入り込み、今日食べた子たちに思いを馳せる。
「ワイルドお肉に、コロッケ二個、魚の塩焼き、焼きとうもろこし、焼きそば、ポテト……。それから、フルコースディナー!! ついに分厚いお肉解禁!! くふっくふふ……」
お口もお腹も大満足!!
って、あれ? 市場調査って、果物を使った商品を見に行ったはず……だよね。
「私、何も調査してない……」
しまった!
役立たずもいいとこだ。
ど、どうしよう……。思い出せ、思い出すんだ。どんな屋台があった?
たしか甘いものはクレープ、ジュース、りんご 飴(あめ) にいちご飴……。ベビーカステラもあったかな。
「お祭りの屋台じゃん!」
ん? 屋台?
そういえば、この世界独自の食べ物、見たことない気がするんだけど……。
ここ、異世界……なんだよね?
ベッドからおりて、カーテンを開けると鏡台の前に移動する。
もう見慣れた私の顔──夕日のようなオレンジ色の瞳が、月明かりで照らされ、映っていた。
「この色、 カラーコンタクト(カラコン) でも難しいよね……」
そもそも、乗り物は馬車で、電気も通ってないこの世界でカラコンはないだろう。
ということは、きっと異世界で間違いはない。
私の毒を激辛に感じる力も、異世界ならではだろうし。
「じゃあ、何でこんなに食べ物だけが現代的なの?」
まるで、雑な設定の異世界小説やゲームだ。
ということは、主人公がいる?
けどなぁ、異世界ファンタジーなのか恋愛なのかも分からないうえに、主人公が生まれる前なのか、後なのかも謎。
「考えるだけ無駄かぁ」
むしろ、前世の食事があってラッキーだよね。
うん。ラッキー、ラッキー!
ワンチャン、和食だって……。
「…………和食、本当にあるんじゃない?」
こんなにも前世由来の食べ物たちがいて、和食がないとかあり得る?
どこだ? 私ならどこの国に和食を配置する?
「──っ! 東だ!!」
東の島国に日本風の国を設定するのが、異世界系の王道パターン。つまり、そこに私の求めているものがある! ……かもしれない。
「よし。明日、調べてみよう。目指せ、庭での稲作!!」
そうと決まれば、明日に備えてさっさと寝よう。
目を閉じ、三秒で私は眠りに落ちたのだった。
***
翌朝、起きたら太陽はもう屋敷の真上まで昇っていた。
「しまった! 寝過ごした!!」
慌てて侍女を呼ぶためのベルを鳴らす。
チリ──。
コンコンコン。ガチャ。
「失礼いたします。体調はいかがですか? お疲れは取れましたでしょうか?」
「え? あ、うん。元気です」
今、ベルが鳴るのとほぼ同時にノックしたよね?
どういうこと?
理解が追いつかないまま、アンネを見る。
「本日はゆっくり休むようにと、旦那様から言付けを承っております」
「旦那様もお休みですか?」
「いえ、朝早くに王城へと向かわれました」
何ということだ。
旦那様はナビレート伯爵家の当主、つまり社長! 社長を働かせ、社員の私が寝坊のあげく欠勤だなんて、あってはならない。
というか、解雇される!
「……旦那様、怒ってました?」
「まさか! 昨日は連れ回しすぎたと心配されておりました」
い、いい人!!
良い雇用主に雇われて、私は幸せ者だ。
「まずは食事をご用意しますね」
「はい! ありがとうございます!!」
うきうきしながら待っていれば、アンネが食事をテーブルに運んでくれる。
「……あれ? 切ってないですよ」
「はい。フォークとナイフの使い方を練習いたしましょう。家庭教師が見つかるまでの間、 僭越(せんえつ) ながら私も学ばれるお手伝いをさせていただきます」
使命感あふれる顔で言われ、思わず顔が引きつった。
何だろう……。ちょっと、いや……すごーく嫌な予感がする。
「──はい、肩肘張らないでください。一口が大きすぎますよ」
「だっへ、難しいんでふよ」
「お口に入ったままのおしゃべりは、なりませんよ」
「……ふぁい」
テーブルマナーは前世と同じ。けれど、経験がほとんどないため、うまくできない。
「うぐぅ……」
転生者って、チートできるもんじゃないの?
これじゃ、食事が楽しくない……。
「……ごちそうさまでした」
どうにか食べ終え、お腹は満ちた。
いつもは幸せいっぱいになるのに、今はただ満腹なだけ。
ちょっと前まで、食べられるだけで幸せだったのに……。
いつから私は、こんなに 贅沢者(ぜいたくもの) になっちゃったんだろう。
「コレッティーナ様、マナーは慣れです。頑張っていきましょう」
「はい。早く慣れるよう、頑張ります。……私ちょっと、デンガおじいちゃんのところへ、お庭の相談に行ってきます」
「お供いたします」
「いえ。一人で行けます」
私は一人で廊下に出ると、庭園にまっすぐに向かう。
行ったついでに、デンガおじいちゃんと庭に埋める植物の相談をしよう。
もしかしたら、お米について知っているかもしれない。
庭につくと、とりあえず葉っぱを一枚食べる。
うん。手で食べるって、落ち着く!
なんか、元気出た!!