作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われたけれど、ドレスをオーダーメイドすることになりました④
「何するんですか!」
「……コレッティーナは俺のむす……妻だ! くっつくなら俺だろう!」
「え、嫌ですけど」
いきなり、何を言ってるの?
雇用主に抱きつく従業員なんて、いたらマズイって。
それに私はアンネがいい。
「離してください」
「断る。席につけ」
……席? あ、そういうことか。
くっつくの意味を間違えた。ギューじゃなかった。
「分かりました。こういうことですね」
旦那様の手を引いて、椅子に座ってもらう。
「ちょっとつめてください」
おしりでギュッと旦那様を押して、一つの席に二人で座る。
半分しかおしりが乗ってないけど、二人で座れないこともない。
この部屋の椅子は六つ。
けれど、マダムとお姉さん二人、私と旦那様、アンネ、護衛騎士のマルモ、全員で七人いる。
つまり──。
「これで全員座れますね!」
みんなで座るための話だったのだ。
「ナビレート夫人、伯爵はそのような意味でおっしゃったのではなく──」
「そうだな。だが、これだとコレッティーナが椅子から落ちる。俺の上に座ればいい」
そう言いつつ、旦那様のお膝の上に乗せられる。
「……旦那様のお膝にクッション 敷(し) いてもいいですか?」
固くて、座りにくい。
「我慢しろ」
「えー」
って、何だろう。
マダムがにやにやしてる。
「まぁ! 伯爵は夫人を愛していらっしゃるのですね? いいですわ。あまいですわぁ!」
「……そうだな。可愛がっている」
ん? 可愛がって……は、もらってるか。
労働対価として、ごはんとお菓子くれるし、対価の負債を急かさずに待ってくれてる。
何より、必要経費でたくさん食べさせてくれたもんね!
「はい! 旦那様は(雇用主として)私を可愛がってくれています! って、そんなことよりデザイン使用料ですよ。アンネとマルモも座ってください」
アンネはすぐに席へと着く。けれど、マルモは首を横に振った。
「自分は護衛ですので──」
「マルモ、座れ」
「しかし、いざという時──」
「お前の実力なら、問題ない。座れ」
旦那様の低い声に、振り返れば微笑まれる。
「どうした?」
「マルモは味方なので、お前は駄目です。あと、怒るのよくないですよ」
「コレッティーナは優しいな」
「そういう話じゃないです」
旦那様は良い雇用主だけど、時々横柄なんだよね。
パワハラ系上司ってやつだろうか。
そんなことしてたら、転職されちゃうよ?
「──では、そういうことでお願いしますわ」
「はい。こちらこそお願いします」
アンネのおかげで話がまとまり、頭を下げる。
「……あ、このドレスのデザインが私だって、バレますか?」
「ご希望でしたら、秘匿することもできますが、よろしいのですか? 社交界での地位確立に繋がりますわよ?」
地位……ね。別にそんなものはいらないんだよね。
バレたら、義母と義妹がうるさそうな方が面倒だし。
義妹の考えたデザインを盗んだとか言われそうだもんなぁ。
「秘密でお願いします。……あと、私のデザインしたドレス、ラビソン伯爵家には売らないでほしいです」
「……承知いたしました。ラビソン伯爵家と縁のある家門にはナビレート伯爵家を除き、一切お売りしないことを約束いたしますわ」
にっこりと美しく微笑みながら、マダムは言う。
「そんなことして、大丈夫ですか?」
「問題ございませんわ。その代わり、王妃にはナビレート夫人が社交界でこのドレスを着られた後、すぐに作ってもよろしいかしら?」
「王妃様……ですか?」
「えぇ、古くからの友人ですの」
え!? 貴族令嬢だったとは聞いたけど、マダムってかなりの大物だったなんじゃ……。
「それに王妃が着れば、売れますわよ?」
「是非、お願いします!」
かなりの収入が期待できそうだ。
この費用を使って、食糧庫をいっぱいにしたら、保存食の研究をしよう。
それから、和食を探すんだ!
「ですので、もし新たなデザインを思いついた際は、是非当店でよろしくお願いいたしますわ」
「あ、じゃあ、お茶会のドレスなんですけど……」
なんて、はじめたのがいけなかったのだ。
「屋台、売ってないです……」
ブティックから出たら、既に日は沈み、私の心を躍らせた屋台がすべて店じまいしている。
「甘いもの……」
じわりと涙で視界が滲む。
「ワイルドお肉、もう一回食べたかったのに……」
次の市場調査がいつかは分からない。
もしかしたら、もうしないかもしれない。
それなのに……。
「また来よう」
「またって、いつですか?」
「そうだな……明日は王城に呼ばれてて、明後日は議会があるだろ。明々後日は……」
やっぱり無理なんだ……。
グッと歯の奥を噛み締める。
「ら、来月じゃ駄目か? それまでは、屋敷でバーベキューしよう? ワイルドお肉、自分で焼いてみたくないか?」
「……自分で?」
「そうだ。自分で焼けば、屋敷にある調味料で色々な味を試せるぞ」
「色々な味……」
それって、すっごく……。
「最高です‼」
「だろ⁉ な、そうしよう。そうと決まったら、お土産買いに行くぞ。そのあとディナーだ」
「ディナーですか?」
「あぁ、予約してある」
え、予約?
それって、美味しいお店確約だよね⁉
「必要経費ですか?」
「そうだ」
「やったー! 楽しみです!」
どんなお料理だろう。
いーっぱい食べようっと!