作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われたけれど、ドレスをオーダーメイドすることになりました③
「女性のファッションにとやかく言うのは……な」
「あー、下手したら女性を敵に回しますもんね」
ふむふむ。聞き方を変えよう。
「では、私の腰が細くないと、連れて歩くの恥ずかしいですか?」
「そんなわけあるか!」
「腰ギューギューじゃなくてもいいです?」
「もちろんだ」
若干食い気味に言われる。
「じゃあ、こういうドレスはどう思いますか?」
前世の記憶を頼りにエンパイアドレスを描く。
ここで、切り返しがあって……と。
「へぇ、うまいな」
「一時期は漫画家を目指した時期もありましたからね」
「……漫画家?」
「あ、こっちの話です。よし、できました!」
うん。我ながら良いできだ。
構造は分からないから、前からしか描けないけど、いっぱい食べれればいいのだよ。
「こういうドレス、どう思いますか?」
「……腰回りがゆったりしてるな」
「はい。たくさん食べられます!」
「そうか。いいと思う。腰ギューギューが嫌だったんだろ? きっとこのドレスも似合う」
ふわりと微笑まれ、頭をなでられる。
「……頭なでなでより、ご褒美はお菓子がいいです」
旦那様の手は大きくて優しいから嫌じゃないけど、食べ物の方が嬉しい。
「ブティックで食べ物は出せないから後でな。お土産のお菓子でも買うか?」
「……お留守番のデザーとデンガおじいちゃんの分も買ってくれますか?」
「もちろんだ。屋敷の者たちのことも考えてくれて、ありがとな」
拒否しなかったからか、もう一度なでられる。
変だ。胸の奥がむずむずする。
「えっと、夜会のドレスはこんな感じにします」
そう言いながらマダムを見れば、目をカッと見開いたまま、固まっていた。
「……あの、このデザインで作ってくれますか?」
ぎょろりと目玉だけが私の方を向く。
な、何で、目が血走ってるの? 怖い!
「旦那様バリア発動!」
サッと旦那様の後ろに隠れる。
私の背が百五十センチないのに比べ、旦那様は三十センチは大きい。
マダムから隠れる壁として、十分だろう。
と思っていたら、アンネが旦那様の横に立ってくれたので、壁が二人分になった。
「アンネ! 大好きです!!」
嬉しくなって、ギュッと後ろからアンネに抱きつけば、旦那様がポカンとした顔で私を見る。
「大……好き?」
「はい! アンネはいつも私を助けてくれるし、食事を忘れず運んできてくれます!! 好きにならない方がおかしいです!」
「身に余る光栄でございます。私もコレッティーナ様が大好きですよ」
微笑んでくれるアンネに、温かいスープを飲んだ時みたいに心がぽかぽかする。
「へへっ」
気恥ずかしくなって、抱きついたアンネの背中に頭をぐりぐりとすれば、アンネはクスクスと笑ってくれる。
「……そうか。大好きか」
元気ない声で旦那様が言う。
どうしたんだろう? 大好きって気持ち、駄目だったのかな?
「使用人を大好きは駄目ですか?」
「違う! ただ、アンネに娘を取られたような気持ちになっただけだ」
「…………娘?」
旦那様に娘がいるって聞いたことないけど。
まさか、隠し子!?
これは、かなりデリケートな問題だよね。
聞く……にしても、お屋敷に帰ってからがいいかな。内緒のお話かもしれないし。
うんうん。そうしようっと──。
「──マ、ママママ、マァァァベラスっ!!」
「へ!?」
急にマダムが叫ぶ。
「何という斬新かつ、洗練されたデザイン!! 美しい。美しいですわ!! あぁ、どのような色味が良いかしら。この箇所にはレースを、ここには宝石を──」
「あ、宝石は重そうなので駄目です。光沢のある糸はないですか? ドレスと同じ色で 刺繍(ししゅう) がいいです」
なるべく軽量化したくて意見を言うと、マダムは再び目を見開く。
「て、天才ですわ! コレッティーナ様は私のミューズでしてよ!!」
キラキラとした目を向けられる。
けど、これは前世の記憶を頼りにしたんだよね。
あ! これが知識チートってやつかぁ。
「これは、流行りますわよぉ! 有名になって、私の夢を鼻で笑ったお父様とお母様に、目にものを見せて差し上げますわ! おーほほほほほ」
「…………え?」
なんで、ブティックのマダムが高笑いしてるの?
というか、話し方が悪役令嬢なんだけど……。
「店主は、元貴族令嬢なんだ。ブティックを開くために、絶縁してる」
「な、なるほど……」
それで高笑いなのか。
そう言えば、義妹もしてたな。
「で、どうするんだ?」
「何がですか?」
「デザインを考えたのはコレッティーナだ。デザイン使用料の取り分だよ」
え? お金もらえるの?
「新作のデザインは発表から一年の間、他店で同じ型のドレスを作ることは禁止されているからな。コレッティーナも店主にデザイン使用の許可を出すなら、一年は金銭を受け取れる」
「私の食糧庫いっぱいの食べ物を買えるくらいのお金になりますか?」
「いっぱいどころか、入り切らないほど買えるぞ」
な、何ということだ。
これは、売る以外の選択肢はない。
マイ食糧庫のために、流行らせないと!
「旦那様、適正価格ってどのくらいですか?」
「……悪い。ドレスに関しては詳しくない。そこら辺のことはアンネが……って、いつまでくっついてるんだ?」
「アンネが駄目って言うまでです!」
「そんなこと言うわけありません。いつまでも、こうしていたいくらいです」
そう言って振り向くと、アンネは私をギュッとしてくれる。
「相思相愛ですね!」
十センチくらい背の高いアンネを見上げて、笑い合う。けれど──。
「あっ!」
次の瞬間、後ろから抱えられて、アンネから引き離された。