作品タイトル不明
「お前を愛することはない」と言われたけれど、ドレスをオーダーメイドすることになりました②
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「うぎっ……や、やめて……でちゃう……」
「まだいけます。息を吐いてくださいませ」
マダムはそう言うと、お姉さん二人にもっと締めるように指示を出す。
「む……り……。中身出ちゃうって……」
私は今、ブティックで危機を迎えている。
美しさのためとか言って、コルセットでギューギューに締め上げてくるのだ。
「アンネ……助けて……」
胃が……、胃が潰されちゃう……。
唯一、着替えについて来てくれたアンネに縋るような視線を向ける。
「奥様が苦しんでおります。奥様はお身体が弱いので、あまり締めすぎないでください」
その言葉に、オーナーのマダムもお姉さんたちもピタリと動きを止める。
「お身体が弱くいらっしゃる?」
「はい。先日、倒れられたばかりでございます」
アンネが神妙な顔で言うと、一瞬でコルセットをゆるめられた。
「た、助かった……。アンネー!!」
アンネのところに駆けていき、ギュッと抱きつく。
「ありがとうございます。窒息死するところでした」
「いえ。コルセットは貴族女性の必需品だからと、お助けするのが遅れ、申し訳ありませんでした」
アンネは抱きつく私の背中を優しくなでてくれる。
「……コルセットって、絶対にしなきゃ駄目ですか?」
「そうですね。避けては通れないかと」
何ということだ。
絶望した。貴族社会のウエスト絞り上げ文化に絶望した!
こんなにお腹をギューギューに絞ったら、食べ物どころか水一滴ですらお腹に入れられない。
何も食べられないじゃないか!
「ドレスって、ここにある見本以外はどんなのありますか?」
コルセット不要のドレス、一着くらいあるでしょ。
「こちらのデザイン画をご覧ください」
そう言いながら、マダムが分厚いカタログのようなものを渡してくれる。
「どれどれ……」
一枚一枚、デザインを確認していく。
けれど、私の求めているものが一つもない。
何で? 何で全部、コルセットでギュッてした腰が激細のドレスなわけ!?
「……紙と書くものを貸してください」
こうなったら、私がたくさん食べれるドレスをデザインして依頼するしかない!
今こそ、前世の知識の使い道というもの。
ドレスに興味はなかったけど、漫画でたくさん結婚シーンは読んだ。デザイナーを夢見る少女漫画も読んでいる。
私ならできる!!
けど、そのまえに……。
「旦那様ー!」
「どうした? 着替え終わったか?」
「違います。ドレスって、私の好きなデザインでいいんですか?」
「あぁ、何でもいいぞ」
扉越しに旦那様が答えてくれる。
よし、言質を取った!
あとで駄目とは言わせないぞ。
って、でもドレスの出資者は旦那様なんだよね。
うん。大丈夫か駄目かくらいは確認しよう。
ドレスの条件は『たくさん食べれる』『苦しくない』かな。
となると……、あれだ! エンパイアラインのドレスなら、胸下からラインの切り替えだから、苦しくないはず!
そうと決まれば、さっそくデザインを書いていこう。
雰囲気さえ分かれば、相手はプロだし、何とかしてくれるだろう。
「あの、ドレスのルールってありますか?」
「ルールでございますか?」
「はい。ドレスのマナーとして、駄目なものとか」
そこら辺、さっぱりなんだよね。
ミニ丈ドレスは駄目ってことだけは分かるけど。
誰一人として、 膝(ひざ) が出るお洋服を着ている女の人、いないもんなぁ。子どもだって、スカートは膝下丈だ。
「そうですね。紫色は王家のみが許されるお色なので、身につけることはできません」
アンネが話すと、マダムたちはほんの一瞬だけ目を見張る。
「他にも、お茶会と夜会では着用するドレスのお色と丈などが変わります」
「丈もですか?」
「左様でございます。昼間はミモレ丈からロング丈、夜はマキシ丈になります」
マダムが説明してくれるけど、どうしよう。さっぱり分からない。
「コレッティーナ様、ミモレ丈はふくらはぎの真ん中あたりの丈で、マキシ丈は足首が隠れる長さ、ロング丈はその中間です」
アンネがすかさず説明をしてくれて、なるほど! と思う。
ということは、最低二着はいるのか。
って、あれ? エンパイアドレスって足首隠れるのがほとんどじゃないっけ?
「むむ、むむむむ……」
つまり、エンパイアドレスを昼間は封じられたも同然。
コルセットなしのドレス、思ったより強敵かもしれない!
「あの、何でそんなに腰を細く見せるんですか?」
だってねぇ、いくら細いのがいいからって、不健康だよ。
ご飯食べられないし。
それに、腰だけ妙に細くて、ちょっと怖い……。
「美しさのためでございます。美しさのためなら、多少の我慢は必要なのです!」
あれがちょっと?
内臓押し出されるかと思ったよ?
あれだけ絞られたら、内臓の位置変わっちゃうって。
「とりあえず、旦那様の意見も聞いてみます。旦那様、入ってきてください」
お姉さんの一人が扉を開けてくれ、旦那様は私を見た途端、首を傾げた。
「気に入ったものがなかったのか?」
「そう……ですね。コルセットをつけると苦しいし、何も食べれないんです」
「……なるほど」
「だから、自分でデザインすることにしました。旦那様も手伝ってください!」
一人より二人、二人より三人。
みんなでコルセットなしのドレスを考えるのだ。
「で、質問なんですけど、旦那様はコルセットでギューギューして細くなった腰を見て、どう思いますか?」
じっと濃紺の瞳を見れば、明らかにその目が泳いでいる。
「……それ、俺に聞くのか?」
こんなに顔を引きつらせて、冷や汗をかいている旦那様、初めて見た。