軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「お前を愛することはない」と言われたけれど、ドレスをオーダーメイドすることになりました②

***

「うぎっ……や、やめて……でちゃう……」

「まだいけます。息を吐いてくださいませ」

マダムはそう言うと、お姉さん二人にもっと締めるように指示を出す。

「む……り……。中身出ちゃうって……」

私は今、ブティックで危機を迎えている。

美しさのためとか言って、コルセットでギューギューに締め上げてくるのだ。

「アンネ……助けて……」

胃が……、胃が潰されちゃう……。

唯一、着替えについて来てくれたアンネに縋るような視線を向ける。

「奥様が苦しんでおります。奥様はお身体が弱いので、あまり締めすぎないでください」

その言葉に、オーナーのマダムもお姉さんたちもピタリと動きを止める。

「お身体が弱くいらっしゃる?」

「はい。先日、倒れられたばかりでございます」

アンネが神妙な顔で言うと、一瞬でコルセットをゆるめられた。

「た、助かった……。アンネー!!」

アンネのところに駆けていき、ギュッと抱きつく。

「ありがとうございます。窒息死するところでした」

「いえ。コルセットは貴族女性の必需品だからと、お助けするのが遅れ、申し訳ありませんでした」

アンネは抱きつく私の背中を優しくなでてくれる。

「……コルセットって、絶対にしなきゃ駄目ですか?」

「そうですね。避けては通れないかと」

何ということだ。

絶望した。貴族社会のウエスト絞り上げ文化に絶望した!

こんなにお腹をギューギューに絞ったら、食べ物どころか水一滴ですらお腹に入れられない。

何も食べられないじゃないか!

「ドレスって、ここにある見本以外はどんなのありますか?」

コルセット不要のドレス、一着くらいあるでしょ。

「こちらのデザイン画をご覧ください」

そう言いながら、マダムが分厚いカタログのようなものを渡してくれる。

「どれどれ……」

一枚一枚、デザインを確認していく。

けれど、私の求めているものが一つもない。

何で? 何で全部、コルセットでギュッてした腰が激細のドレスなわけ!?

「……紙と書くものを貸してください」

こうなったら、私がたくさん食べれるドレスをデザインして依頼するしかない!

今こそ、前世の知識の使い道というもの。

ドレスに興味はなかったけど、漫画でたくさん結婚シーンは読んだ。デザイナーを夢見る少女漫画も読んでいる。

私ならできる!!

けど、そのまえに……。

「旦那様ー!」

「どうした? 着替え終わったか?」

「違います。ドレスって、私の好きなデザインでいいんですか?」

「あぁ、何でもいいぞ」

扉越しに旦那様が答えてくれる。

よし、言質を取った!

あとで駄目とは言わせないぞ。

って、でもドレスの出資者は旦那様なんだよね。

うん。大丈夫か駄目かくらいは確認しよう。

ドレスの条件は『たくさん食べれる』『苦しくない』かな。

となると……、あれだ! エンパイアラインのドレスなら、胸下からラインの切り替えだから、苦しくないはず!

そうと決まれば、さっそくデザインを書いていこう。

雰囲気さえ分かれば、相手はプロだし、何とかしてくれるだろう。

「あの、ドレスのルールってありますか?」

「ルールでございますか?」

「はい。ドレスのマナーとして、駄目なものとか」

そこら辺、さっぱりなんだよね。

ミニ丈ドレスは駄目ってことだけは分かるけど。

誰一人として、 膝(ひざ) が出るお洋服を着ている女の人、いないもんなぁ。子どもだって、スカートは膝下丈だ。

「そうですね。紫色は王家のみが許されるお色なので、身につけることはできません」

アンネが話すと、マダムたちはほんの一瞬だけ目を見張る。

「他にも、お茶会と夜会では着用するドレスのお色と丈などが変わります」

「丈もですか?」

「左様でございます。昼間はミモレ丈からロング丈、夜はマキシ丈になります」

マダムが説明してくれるけど、どうしよう。さっぱり分からない。

「コレッティーナ様、ミモレ丈はふくらはぎの真ん中あたりの丈で、マキシ丈は足首が隠れる長さ、ロング丈はその中間です」

アンネがすかさず説明をしてくれて、なるほど! と思う。

ということは、最低二着はいるのか。

って、あれ? エンパイアドレスって足首隠れるのがほとんどじゃないっけ?

「むむ、むむむむ……」

つまり、エンパイアドレスを昼間は封じられたも同然。

コルセットなしのドレス、思ったより強敵かもしれない!

「あの、何でそんなに腰を細く見せるんですか?」

だってねぇ、いくら細いのがいいからって、不健康だよ。

ご飯食べられないし。

それに、腰だけ妙に細くて、ちょっと怖い……。

「美しさのためでございます。美しさのためなら、多少の我慢は必要なのです!」

あれがちょっと?

内臓押し出されるかと思ったよ?

あれだけ絞られたら、内臓の位置変わっちゃうって。

「とりあえず、旦那様の意見も聞いてみます。旦那様、入ってきてください」

お姉さんの一人が扉を開けてくれ、旦那様は私を見た途端、首を傾げた。

「気に入ったものがなかったのか?」

「そう……ですね。コルセットをつけると苦しいし、何も食べれないんです」

「……なるほど」

「だから、自分でデザインすることにしました。旦那様も手伝ってください!」

一人より二人、二人より三人。

みんなでコルセットなしのドレスを考えるのだ。

「で、質問なんですけど、旦那様はコルセットでギューギューして細くなった腰を見て、どう思いますか?」

じっと濃紺の瞳を見れば、明らかにその目が泳いでいる。

「……それ、俺に聞くのか?」

こんなに顔を引きつらせて、冷や汗をかいている旦那様、初めて見た。