軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

織田領の津島でまずは一回織田の料理番との対決の野良試合の催しを小さく開催するも前売り完売せず。蜂蜜饅頭と麦茶を追加提供し感想をじっくり聞くことにする。小さな開催経験を積む

津島での野良試合は、まず小さく始めることになった。

伊勢松坂屋の料理人が五人。

織田方の料理人が五人。

それぞれを二部に分ける。

第一部は、下働きや見習いに近い者たちの部。

「客は百文。竹串五本。一串二十文やな」

伊勢松坂屋の師範がそう説明すると、織田方の料理番が少し驚いた。

「百文でも、なかなか取りますな」

「松坂ではもっと高い部もあります。けど、津島ではまず百文からです」

出場費は、伊勢松坂屋側も織田方も二百文ずつ。

第二部は、師範代に近い腕の者たちの部。

「こちらは百五十文。織田方の料理番五人、こちらの師範代五人でやります。いわば野良試合です」

日取りは三日後と決まった。

だが、御触れを出してみると、思ったほど前売り券が売れない。

松阪なら、師範代の飯が食えると聞けば、すぐに人が集まる。だが津島では、

まだ伊勢松坂屋の催しそのものが馴染んでいない。

「これは、集まりが悪いですね」

織田方の料理番が気まずそうに言う。

伊勢松坂屋の師範は、少し考えて答えた。

「無理に値を下げるのはやめましょう。先に買ってくれた客に申し訳ない」

「では、どうします」

「飯の量と品数を少し調整します。余った分は無駄にせず、蜂蜜饅頭と麦茶を出して、

客にゆっくり感想を聞きましょう」

「感想を?」

「はい。一回回すことが大事です。売れ残ったから失敗、ではなく、客の声を聞ける形に変えます」

そうして、津島での小さな野良試合は始まった。

第一部、見習いの部。

客はそこまで多くない。だが、来た者たちは百文を払っている。だから、

食べる目は意外と厳しかった。

「これは塩が薄いな」

「もうちょい飯に合うようにしてほしい」

「仕事は丁寧やけど、味がぼんやりしとる」

「酢が少し強い。最初に酸っぱさが来すぎる」

織田方の若い料理人たちは、たじたじになった。

普段、ここまで客から直接言われることは少ない。まして、竹串で評価されるとなると、

手元も心も揺れる。

一方、伊勢松坂屋の料理人たちは、慣れていた。

厳しいことを言われても、頭を下げる。

「ありがとうございます。次は塩を少し強めにします」

「酢は、甘みを先に感じるように直します」

「飯に合うよう、味噌をもう少し使ってみます」

それを見た織田方の料理人たちは、少し驚いた。

「そんなに素直に聞くんですか」

「聞きますよ。客は銭を払って食べてますから」

余った時間には、蜂蜜饅頭と麦茶が出された。

客たちは、それを食べながら少し気分を緩める。

料理人たちは、その間を回って声を拾った。

「どうやったら、俺の飯をもっと食べてもらえますか」

若い料理人が真剣に聞くと、客は笑った。

「それは自分で考えなあかんやろ」

「そこをなんとか」

「まあ、味が薄い。見た目はええけど、腹が動かん」

「酢は強いけど、嫌いやない。もうちょい丸ければな」

「汁はうまいけど、具が寂しい」

思った以上に、客は真剣に答えてくれた。

津島にも、飯に重きを置く者はいる。

ただ、まだ催しという形に慣れていないだけなのだ。

それが分かっただけでも、大きかった。

第二部、師範代級の部に入ると、空気は変わった。

前売りに売れ残りはあったが、当日になって人が入り、ほぼ埋まった。

伊勢松坂屋の師範代たちは、主力の飯で強さを見せた。

鶏の天ぷら酢漬け。

魚の揚げ酢漬け。

味噌を利かせた汁物。

飯を呼ぶ焼き物。

一方、織田方の料理番は、副菜や細かな仕事で粘った。

菜の炊き合わせ。

澄んだ汁。

野菜の切り方。

味の余韻。

信長の前でやった時は、緊張して動きが硬かった者たちも、野良試合では少し違った。

客の顔を見て、反応を見て、味を出せている。

「主力は伊勢松坂屋やな」

「でも、副菜は織田方もええぞ」

「この汁、地味やけどうまい」

「鶏の酢漬けは飯が進む」

竹串の数は、かなり拮抗した。

松坂で見られたように、派手な飯は伊勢松坂屋。繊細な副菜は織田方。そんな形が、

津島でも見えてきた。

終わった後、再び蜂蜜饅頭と麦茶が出された。

「いや、これは結構満足や」

「百五十文払った文句はない」

「強いて言うなら、魚のやつはもう少し熱い方がええな」

「汁はうまいけど、飯と合わせるなら塩を少し足してもええ」

「酢のやつは、酒にも合いそうやな」

客たちは、細かい感想を口にした。

料理人たちは、それを必死に聞き取る。

伊勢松坂屋の師範代が、場を見ながら説明した。

「うちは、津島でも師範代が増えてきたら、師範代御膳をやりたいと思っています」

「師範代御膳?」

「はい。今日のような小鉢を六品ほど、それに飯と汁で二百文。師範代が作った飯を、

少しずつ食べてもらう形です」

「それはええな」

「高い方では、うなぎ屋で二百文、さらに湯浴みと昼寝つきで五百文という形もあります。

師範代御膳でも、ゆくゆくはくつろげる席をつけたい」

客の一人が頷いた。

「今日の飯なら、二百文でも食うやつはおると思うぞ」

「ただ、津島でいきなりやるより、まずこういう会を続けた方がええな」

「師範代いう名前が広まれば、面白そうや」

織田方の料理番も、伊勢松坂屋の師範代に声をかけた。

「今日は勉強になりました」

「こちらこそ。副菜の仕事は、うちも学ぶところが多かったです」

「またやりましょう」

「はい。順々に、面子を変えながらやりましょう」

伊勢松坂屋の師範は、帳面を閉じながら言った。

「今回の結果は記録します。後半の師範代に近い方々は、改めて面談して、

師範代にできるか見ます。できる者が出れば、津島、熱田、常滑、瀬戸へ広げていきます」

織田方の料理番は感心したように言った。

「活発ですな」

「止まると、腕も場も冷えますから」

その日の津島の野良試合は、大成功とは言えない。

前売りは売れ残った。

客も松阪ほど熱狂していない。

見習いの部では、厳しい声も多かった。

だが、確かに一回回った。

客は飯に意見を言った。

料理人はそれを聞いた。

蜂蜜饅頭と麦茶が、感想を引き出す時間になった。

伊勢松坂屋と織田方の料理番が、互いの強みを知った。

小さな火は、津島にも灯った。

これを順繰りに続ける。

そうすれば、尾張にもいつか、松坂とは違う飯の熱が生まれるかもしれない。

伊勢松坂屋の師範は、帳面の最後にこう書いた。

「津島、初回。前売り弱し。されど声あり。継続の価値、大いにあり。」