軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

比叡山に脅されて根無し草根性がよみがえる博之とヨイチ。今までがうまくいきすぎていたなwww

比叡山の使いが去り、寺の座敷で対策を練っているうちに、博之とヨイチの顔つきが少し変わってきた。

最初は、確かに重い空気だった。

僧兵を連れて来られ、仏罰だの格式だのと言われた。

銭を出せ、と直接は言わないが、どう聞いてもそういう話だった。

お花はまだ心配そうにしている。

住職も、相手が相手だけに慎重な顔を崩さない。

けれど、博之とヨイチだけは、どこかで空気が変わっていた。

博之が地図を見ながら、ぽつりと言った。

「なんか、根なし草根性が蘇ってくるな」

ヨイチが、静かに笑った。

「旦那様、そうですね。飯が食えたら勝ち、という頃に比べたら、こんなものは屁でもないですね」

「屁でもないは言い過ぎやけどな」

「でも、あの頃なら一発で終わってました」

「それはそうやな」

お花が二人を見て、呆れたように言った。

「二人とも、楽しそうにしないでください」

「楽しんではない」

「顔が楽しんでます」

博之は自分の頬を触った。

「そうか?」

ヨイチも少し笑っている。

お花はため息をついた。

「まあ、確かに……あの頃は、本当にそんな脅しが来たら一発で終わりでしたからね」

博之は頷いた。

「ボロ小屋で飯炊いてるだけの時に、見かじめ料払えとか言われたら詰んでたな」

「払う銭もありませんでしたから」

「払えへん。払えへんから、逃げるしかない」

「逃げるにしても、行く場所もなかったですね」

「ほんまやな」

ヨイチは、少し遠くを見るような顔をした。

「それを思えば、今はだいぶ違います。店はあります。人もいます。銭もあります。

荷もあります。逃げ道も作れる」

「詰み上がっても、ここはそこやからな」

博之は地図を指で叩いた。

「京都郊外、大津、堅田、草津。当面はこの辺を厚くする。飯を出す。布団を置く。

小さな市をやる。逃げてくる人がいたら拾う。別の拠点で雇う」

ヨイチが続ける。

「延暦寺の圧や脅しで逃げたい者が出るなら、こちらで受ける。仕事を渡す。飯を食わせる」

「そうや。向こうが圧をかけるなら、こっちは逃げ道を作る」

お花は眉を寄せた。

「それは、向こうから見たら喧嘩を売ってるように見えませんか」

「見えるやろな」

「旦那様」

「でも、こっちは軍勢を持たん。兵で殴り返すわけやない。飯と仕事と布団で受けるだけや」

博之は、静かに言った。

「焼かれたら、また作る。荷を取られたら、また仕入れる。店を壊されたら、別の場所で出す。

命さえ取られへんかったら、やり直せる」

お花の顔が曇る。

「焼かれる身からしたら、たまったものじゃありません」

「そこは分かってる」

博之はすぐに頷いた。

「だから、逃げてええって最初から言う。店を守って死ぬな。荷を守って怪我するな。

危ないと思ったら逃げろ。逃げた者は責めへん。焼かれた分は、こっちで面倒見る」

ヨイチも真面目な顔で言った。

「焼かれた場所の者には、別の拠点で仕事を用意します。しばらくの飯と寝床も出します。

そこはきちんとやらないといけません」

お花は少しだけ安心したように息を吐いたが、それでも苦笑した。

「もう焼かれる前提で考えているお三方が怖いです」

住職も横で呆れたように言う。

「普通は、まず焼かれぬように祈るものですがな」

「祈りますよ」

博之は言った。

「祈るけど、祈ってるだけでは飯屋は回らんので」

住職は肩をすくめた。

「まったく、恐ろしい飯屋ですな」

博之は笑った。

「でも本当に、根なし草だった時に、そんなもん出せる銭もなくて、ボロ小屋でやってて、

見かじめ料なんか取られたらたまったもんじゃなかったですからね」

ヨイチが頷く。

「私たちは、運が良すぎました」

「そうやな。いろいろあったけど、なんやかんやうまいこといってる。運が良すぎた」

博之は地図を見下ろしながら、少し悪い顔で笑った。

「ここらで、使ってる運を全部、延暦寺さんが引き戻してくれると思って、真摯に向き合おうや」

お花が顔をしかめる。

「真摯という言葉と、その顔がまったく合っていません」

ヨイチがくすりと笑った。

「でも、確かにそうかもしれませんね。ここまで、なかなか面白い人生でしたから」

「でしたから、は不吉やからやめなさい」

お花が即座に言った。

博之も笑う。

「ほんまや。まだ終わってへん」

ヨイチは少し肩をすくめた。

「でも、この二年半か三年で、根なし草同然からここまで来ました。そりゃ、一つや二つ、

面白い土産話は持って向こうへ行かないと駄目でしょう」

「向こうってどこですか」

「まあ、いつか行くところです」

「不吉ですって」

お花がまたため息をついた。

「もう十分面白いですけどね、旦那様は」

「十分か?」

「十分です。飯屋から始まって、官位をもらって、船を作って、京都へ来て、

比叡山に脅されて、今ニヤニヤしてます」

「並べるとひどいな」

「ひどいです」

ヨイチは静かに笑った。

「退屈はしませんね」

「ヨイチまで」

「いえ、本当に。旦那様の横にいると、退屈しないです」

博之はヨイチを見た。

「お前も、普段はさらさら帳面書いて、淡々としてるようになったけど、

根っこのところは全然あれやな。今、ちょっと生き生きしてるぞ」

ヨイチは少しだけ目を伏せて、それから笑った。

「そりゃ、ずっと横で見ていますからね」

「何を」

「旦那様が、金も地位もないところから、飯を出して、人を拾って、店を増やして、

また面倒を拾っていくところです」

博之は黙った。

「私も、根なし草だった頃を忘れていません。だから、こういう時に思うんです。

結局、食わせられるかどうか。逃げ道を作れるかどうか。そこなんだと」

「そうやな」

「今は、昔よりできることが多い。だから怖い相手が出てきても、昔みたいに

ただ逃げるだけではなく、逃がす側になれる」

その言葉に、お花の表情が少し和らいだ。

「逃がす側、ですか」

ヨイチは頷いた。

「はい。根なし草に戻るのではなく、根なし草の気持ちを忘れずに、逃げてくる人を受ける側になる」

住職が、静かに手を合わせた。

「よい言葉ですな」

博之は少し照れたように言った。

「ヨイチ、たまにええこと言うな」

「たまにですか」

「いつも言うと腹立つやろ」

「旦那様こそ、普段はごろごろしているのに、こういう時だけ目が冴えますね」

「失礼やな」

お花が小さく笑った。

重かった座敷の空気が、少しだけ軽くなった。

危険が消えたわけではない。

比叡山が何をしてくるかは分からない。

京都郊外、大津、草津、堅田に火の粉が飛ぶ可能性はある。

拠点を放棄する覚悟も必要になるかもしれない。

けれど、方針は見えた。

人命優先。

店はまた作る。

荷はまた買う。

逃げてきた者には飯と仕事を渡す。

脅しには銭を出さない。

実害があれば、三好と六角に治安維持の名目で銭を出す。

軍隊は持たない。

飯と銭で道を作る。

お花は二人を見ながら、複雑そうに言った。

「楽しむのは、本当にほどほどにしてくださいね」

「分かってる」

博之は頷いた。

「怖いのは怖い。でも、怖い相手に最初から膝をついたら、もっと怖いことになる」

ヨイチも頷いた。

「ここで線を引く必要があります」

住職が呆れたように笑う。

「まったく。比叡山に脅されて、根なし草根性を思い出して元気になるとは」

「元気になってるわけではないです」

博之が言うと、住職はすぐに返した。

「なっております」

座敷に笑いが広がった。

博之は地図を見下ろし、改めて言った。

「よし。今日は予定通り炊き出しをやる。見張りは増やす。荷の逃げ道も確認する。

で、大津と草津の催し準備も止めへん」

「攻めますね」

お花が言う。

「攻めるんやなくて、止まらんだけや」

ヨイチが小さく笑った。

「それが一番、旦那様らしいです」

博之も笑った。

「飯屋やからな。飯を止めたら負けや」

根なし草だった頃の感覚が、二人の中に戻っていた。

だが、それは昔に戻るためではない。

今度は、誰かが根を張れる場所を守るためだった。