軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

昼過ぎから京都郊外を2か所回る。色んな交渉事よりも郊外の炊き出しや市を見て感謝されている姿を見る方が落ち着くwww

昼過ぎから、博之たちは京都郊外の拠点を回ることにした。

午前中は、挨拶に来る者の相手で終わってしまった。小さな寺の取次、町の顔役、公家筋の使い、

三好方に近い者。話を聞くだけで、博之はだいぶ疲れていた。

「やっぱり、飯出してる方が楽やな」

そう言いながらも、午後は午後でやることがある。

京都郊外には、伊勢松坂屋が細々と関わっている場所が五カ所ほどあった。小さな飯場、

炊き出しの協力寺、布団や古布を置いている場所、小市を試している寺社の境内。

そのうち、今日回るのは二、三カ所だけにする。

「全部回ったら倒れる」

博之が言うと、夜市が頷いた。

「今日は三カ所までです。無理なら二カ所で切ります」

「珍しく優しいな」

「倒れられる方が面倒です」

「優しさちゃうかった」

一カ所目は、京都の中心から少し外れた寺の門前だった。

小さな店では、握り飯と汁、野菜の揚げ物、薄味の炊き合わせが出されている。

人の入りは派手ではないが、途切れてはいない。職人、下働き、寺の使い、近くの女衆が、

ぽつぽつと食べに来ていた。

博之が現れると、店の者たちは一気に緊張した。

「大旦那様、ようお越しくださいました」

「そんな固くならんでええよ。ちゃんとやってるか見に来ただけや」

博之は汁を一口飲んだ。

「うん。京向けやな。薄いけど、ちゃんと出汁がある」

料理番の顔が明るくなる。

「ありがとうございます」

そこから、博之は近くの住職にも話を聞いた。

「うちの者、ちゃんとやってますか。炊き出しで荒いことしてませんか。余計な顔してませんか」

住職は穏やかに笑った。

「今のところ、よくやってくださっています。特に、布団と古布は助かっております」

「ほんまですか」

「ええ。飯もありがたいですが、寝るものがあるというのは、年寄りや子どもには大きい」

「それはよかった」

「それと、小さな市も評判はよろしいです。伊勢の小物、松阪木綿、瀬戸物、

そういうものが少しずつ回ってくる。郊外の者には、それだけでも物珍しいのです」

博之は少し驚いた。

「そんなもんですか」

「都の中へ行けば、いろいろあります。しかし高い。人も多い。郊外の者には敷居が高いのです。

ここで、少しだけ珍しいものが見られる。それだけで楽しみになります」

その言葉に、博之の胸が少し温かくなった。

「なるほどなあ」

お花が小さく言う。

「郊外には郊外の喜びがありますね」

「そうやな」

博之は、店の端に置かれた小物を見た。伊勢の櫛、松阪木綿の端切れ、小さな瀬戸の器、

簡単な袋物。どれも高級品ではない。けれど、手に取る人の顔は明るい。

「うちの店としては、やっぱりこういう郊外の方が落ち着くんです」

博之が住職に言うと、住職は少し首を傾げた。

「そうなのですか」

「はい。私、もともと伊勢松坂の外れで、ボロ小屋みたいなところから飯屋を始めましたから。

都の真ん中より、こういう少し端の場所の方が、息がしやすいんです」

住職は笑った。

「伊勢松坂郊外から始めて、今や大膳亮として京都に来られる。すごいことですな」

「いや、本人が一番ついていけてません」

「それでも、道を作ったのでしょう」

「飯を出してたら、道ができてしまっただけです」

「それを人は、徳と言うのかもしれません」

博之は照れたように笑い、すぐに話を変えた。

「まあ、徳より飯ですわ」

住職も笑った。

一カ所目は、思ったより順調だった。

飯も悪くない。炊き出しの評判もよい。小市も喜ばれている。揉め事も大きくはない。

ただ、それだけ話を聞くだけでも、博之はすっかり疲れてしまった。

「次、二カ所目やな」

ヨイチが言うと、博之は荷車を見た。

「乗ってええか」

お花が呆れた。

「まだ一カ所目です」

「一カ所でも結構しゃべったやろ」

「京都へ来た大旦那が、荷車に乗って郊外を回るのは、あまり格好がつきません」

「疲れた大旦那やからしゃあない」

結局、博之は荷車の端に腰を下ろした。

ヨイチが前を歩き、お花が横を歩く。

博之は荷車に揺られながら、ぼそりと言った。

「大旦那っぽさがないな」

「自覚があるだけよいです」

「でも、歩くより楽や」

「そこが旦那様らしいです」

道中、博之はぼんやりと京都郊外を眺めた。

中心の華やかさとは違う、生活の匂いがあった。

小さな畑。

古い寺。

道端で休む老人。

水を運ぶ子ども。

荷を背負う女。

遠くに見える都の屋根。

都は大きい。

けれど、その端にいる人たちは、松阪や伊勢の郊外の人たちと、どこか似ていた。

二カ所目は、もう少し小さな炊き出し場だった。

ここでは、伊勢松坂屋の者が直接店を出しているというより、寺と協力して

週に何度か飯を出している。今日も、薄い汁と握り飯、少しの野菜が用意されていた。

博之は、まず炊き出しを受け取る人たちを見た。

「並び方は落ち着いてるな」

「はい。最初は少し揉めましたが、今は札を配って順番にしています」

寺の若い僧が説明する。

「伊勢松坂屋の方が、列の作り方や鍋の置き方を教えてくださいました」

「うちの者が荒い言い方してませんか」

「いえ。むしろ、こちらの者より慣れておられます」

「それはよかった」

博之は、炊き出しの汁を少し味見した。

「これはちょっと薄いな」

料理番が緊張する。

「すみません」

「いや、炊き出しならこれでもええ。けど、今日は少し味噌が足りてないかもしれん。

薄い時は、ねぎとか、干物のだしとか、少しだけ工夫した方がええな」

「はい」

ぽん、と見習い印。

料理番は、少し悔しそうだが、安心した顔もしていた。

「悪くない。続けてくれ」

その言葉で、場の空気が少し緩む。

炊き出しに来ていた年寄りが、博之へ頭を下げた。

「この飯があるだけで、助かっております」

「こちらこそ、食べていただいてありがたいです」

「都の端は、都の中より寒い時があります」

「分かります」

「布団をいただいた寺もあると聞きました。うちにも、いつか少し回ればありがたいです」

博之はヨイチを見る。

「記録しといて」

「はい」

ヨイチはすでに書いていた。

「二カ所目、布団不足。年寄り向け優先」

「全部は無理ですけど、順々に回します」

博之がそう言うと、年寄りは深く頭を下げた。

二カ所目を出る頃には、日が傾き始めていた。

「三カ所目はどうしますか」

ヨイチが聞く。

博之は少し迷ったが、首を振った。

「今日はやめとこ。二カ所で十分や。明日また回る」

お花も頷いた。

「その方がいいです。今日は朝から挨拶もありましたし」

「ほんま、京都は一日が長いな」

帰り道、博之はまた荷車に乗った。

もう格好など気にしていない。

「京都の中心は怖いけど、郊外はちょっと落ち着くな」

お花が横で言った。

「旦那様は、やはり端の人ですね」

「褒めてるんか、それ」

「褒めています」

ヨイチが淡々と補足する。

「郊外の困りごとを拾えるのは、伊勢松坂屋の強みです」

「そうやな」

博之は、今日聞いた話を思い返した。

小物が嬉しい。

都の中は高い。

布団が助かる。

炊き出しがあると安心する。

薄い汁でも、食いつなげる。

郊外にも人の暮らしがある。

松阪の外れで、ボロ小屋のような飯屋を始めた頃と、どこか同じ匂いがした。

夕方、元の京都郊外の寺へ戻ると、博之はすぐに座敷へ倒れ込んだ。

「一日、結構大変やったな」

お花が言う。

「二カ所しか回っていません」

「二カ所“も”や」

ヨイチは帳面を開きながら言った。

「一カ所目、小市好評。伊勢小物、松阪木綿、瀬戸物に需要あり。二カ所目、炊き出しは安定。

布団不足。味噌不足気味」

「ちゃんと書いてるなあ」

「それが仕事です」

住職が顔を出し、今日の様子を聞いた。

博之は、郊外の店や炊き出し場のことを話した。

「京都の端にも、ちゃんと困ってる人はおるんですね」

住職は頷いた。

「都は広うございます。中心がにぎやかでも、端まで満ちるわけではありません」

「うちは、そういう端っこを見た方がいい気がします」

「大旦那には、その方が合っておられるかもしれません」

「やっぱりそう見えますか」

「ええ。都の真ん中で大きく見せるより、端で飯を出す方が、らしいですな」

博之は苦笑した。

「大膳亮なのに、端っこ飯屋ですか」

「それがよいのです」

その言葉に、少し救われた気がした。

夜、博之は布団に入ると、すぐに眠気が来た。

京都の中心より、郊外の人たちの顔の方が頭に残っている。

小物を手に取って喜んでいた女。

薄い汁をありがたそうにすすっていた年寄り。

布団があれば助かると言った声。

店で緊張していた料理番。

京都に来た意味は、朝廷への礼だけではない。

こういうところにも、ちゃんとあった。

「明日も郊外やな」

博之は小さく呟いた。

お花が灯りを落としながら答えた。

「はい。無理のない範囲で」

ヨイチは帳面を閉じた。

「大津と草津の催し準備も進めます」

「……それもあったな」

「あります」

博之は少し笑って、目を閉じた。

京都郊外の夜は、静かだった。

伊勢の大膳亮は、その静けさの中で、ただの疲れた飯屋の旦那として、ゆっくり眠りについた。