作品タイトル不明
松坂城主からお呼び出しwww師範代催し面白そうやからうちの料理人と城で5番勝負しようぜwww
松阪の城主から呼び出しが来た。
「なんか、お前のところで面白い催しをやっとるらしいな」
博之は嫌な予感を覚えながら、飯を持って屋敷へ向かった。
「いや、まあ、料理番の腕試しみたいなものです」
「それや。それを、うちでもやってみようやないか」
「うちでも、ですか」
「せっかくや。うちの料理番と、お前のところの料理番で対決せえへんか」
博之は、思わず天井を見た。
「また厄介な話を持ってきましたね」
「厄介とは何や。面白そうやろ」
「面白そうではありますけど」
「五番勝負や」
「五番勝負」
「品目は、つみれ汁、魚の焼き物、混ぜ飯。これは揃えたい。あと、わしが個人的に食いたいから、
うなぎと穴子の祝い飯も作ってこい」
「それ、勝負というより食べたいだけでは」
「それもある」
城主は悪びれなかった。
「残り二つは自由種目にして、食べ比べしようや。うちの料理番も出す。お前のところも、
腕の立つ者を出せ」
博之はため息をついた。
「便乗したいんですね、お殿様も」
「便乗ではない。見聞や」
「言い方が綺麗になりましたね」
「お前も、うちへ飯を持って相談に来るたび、何か始めとるやろ。
たまにはこちらが乗ってもええやないか」
そう言われると、断りにくい。
数日後、屋敷の庭には料理台が並べられた。
火鉢、まな板、包丁、鍋、串、皿、竹串の箱。
先日、寺でやった師範代催しを小さく整えたような形である。
今回は客を広く入れるわけではない。
上司、その家臣たち、料理番、博之たち、そして味を見る者が十人ほど。
上司は、自分の前に十品すべてを並べさせるつもりらしく、すでに妙に機嫌が良かった。
「わしは全部食う」
「食べすぎでは」
「少しずつや。お前の催しもそうやろ」
「まあ、そうですけど」
家臣たちは、庭の周りに集まり、出された料理をつつきながら、ああでもないこうでもないと
話す形になった。
「これは城の味やな」
「こっちは伊勢松坂屋らしい。塩が利いとる」
「このつみれ汁、酒が入っとるな」
「魚の焼き方が違う」
伊勢松坂屋側からは、師範代になった料理人たちが出ていた。
この前、竹串を集め、師範代に選ばれたばかりの者たちである。
彼らは、まさかこんなに早くお殿様の屋敷で料理を出すことになるとは思っていなかった。
それでも、港の催しや郊外の炊き出しを経て、人前で作る度胸は少しついている。
魚を焼く者は、炭の具合を見る。
つみれ汁を作る者は、酒と味噌の量を迷わず決める。
混ぜ飯を整える者は、彩りを意識して盛る。
一方、城の料理番たちは、明らかに緊張していた。
普段は奥で、お殿様向けに作る。
毒味もあり、手順もあり、体に障らぬ薄味や、整った味が求められる。
庭で火を使い、家臣たちに見られ、伊勢松坂屋の料理人と並んで作ることなど、ほとんどない。
手元は固い。
だが、さすが城の料理人である。
少し経つと、気持ちを取り戻し、丁寧な包丁、澄んだ汁、上品な塩加減で、しっかり勝負してきた。
博之はそれを見ながら、小さく呟いた。
「これはこれで、手堅いな」
お花が頷く。
「城の料理ですね。荒さはないですが、整っています」
「うちとは方向が違う」
ヨイチも記録していた。
「伊勢松坂屋は、客に食わせる飯。城は、主君に出す飯。評価軸が違います」
「そこやな」
やがて竹串の評価が始まる。
十人の評価役が、品目ごとの箱へ竹串を入れる。
つみれ汁。
魚。
混ぜ飯。
自由種目。
うなぎと穴子の祝い飯。
結果として、竹串が多く集まったのは、伊勢松坂屋の料理だった。
特に魚の焼き物と、うなぎの祝い飯は強かった。
塩の香り、炭の香ばしさ、酒を利かせた飯の華やかさ。
家臣たちも、思わず顔をほころばせていた。
「伊勢松坂屋は、やはり客を喜ばせるのがうまいな」
「飯が前に出てくる」
「城の飯は、上品やが、少し大人しい」
城の料理番たちは、悔しそうだった。
だが、荒れることはなかった。
上司は、全部を食べ比べてから、満足げに笑った。
「うむ。面白い」
「面白かったですか」
「面白い。だが、これはうちの料理番にも必要やな」
「必要、ですか」
「城の料理は、どうしてもおとなしくなる。毒味もある。体に障らぬようにする。
薄味になる。整える。もちろん、それは大事や」
上司は、伊勢松坂屋の魚をつまみながら言った。
「だが、時には荒い飯も知らんとあかん。港の者が喜ぶ飯、街道の者がかき込む飯、
祭りで人が笑う飯。そういうものを知らんと、料理の幅が狭くなる」
博之は、少し意外そうに城主を見た。
「それで、うちの催しに城の料理番も出したいと?」
「そうや」
城主はあっさり言った。
「野良の試合に、時々でええから、うちの料理人も出させてくれ」
「野良の試合って」
「お前のところの師範代催しや。あれは、城の料理番にはない場や。
客の前で作り、竹串で評価される。あれを経験させたい」
「それはありがたい話ですけど、かなり緊張すると思いますよ」
「さっきも緊張しとったやろ」
「はい」
「大丈夫や」
博之が城の料理番たちを見ると、彼らは揃って固い顔で頷いた。
「大丈夫です」
博之は苦笑した。
「いや、それ、大丈夫って言うしかないでしょ」
家臣たちが笑った。
城主も笑いながら言う。
「もちろん、ただで出せとは言わん。参加費も払う。品目も同じでなくてよい。
城の味を披露しながら、どれだけ竹串が集まるかを見る。それでよい」
博之は腕を組んだ。
「師範代の試験とは別枠にするなら、ありですね」
「別枠?」
「はい。城の料理番がいきなり師範代を取りに来る形にすると、
うちの料理番が変に構えます。なので、“城の料理番参加枠”とか“客人枠”にして、
品目別に評価はする。ただし、師範代審査に入れるかは、その時々で決める」
ヨイチがすぐに頷いた。
「それがよいと思います。外部参加枠ですね」
「外部って言うな。うちの殿様や」
「では、御屋敷枠で」
「それならよい」
城主は笑った。
「うちの料理番も、下働きも出せるか」
「下働きもですか」
「見込みがある者はいる。奥で包丁だけ持たせていても伸びん。お前のところのように、
客の前へ出した方が育つ者もおるかもしれん」
博之は、少し真面目な顔で頷いた。
「それはあります。人前で作ると、腕だけじゃなく、心も見えます」
「だろう」
「ただし、下働きに怒鳴るとか、客に横柄とか、不正とかあったら、そこは止めますよ」
「それでよい。むしろ、そういうところも見てほしい」
城の料理番たちは、ますます緊張していた。
博之は、少し気の毒になって言った。
「あの、軽い気持ちで言っていただけるのはありがたいですけど、作ってる料理人たちは
だいぶ緊張してますよ。大丈夫ですか」
城主は城の料理番に向かって言った。
「大丈夫か」
「大丈夫です」
即答だった。
博之は、思わず突っ込んだ。
「だから、それは大丈夫って言うしかないですって」
庭に笑いが広がった。
しかし、笑いながらも、博之はこの話の意味を考えていた。
伊勢松坂屋の催しが、城の料理番にとっても修行の場になる。
城の味と、飯屋の味がぶつかる。
薄味と濃い味。
整った飯と、荒い飯。
主君に出す飯と、客に食わせる飯。
その違いを比べることで、双方に得るものがある。
「定期的に、武者修行ならぬ飯者修行やな」
博之が言うと、上司は笑った。
「それや。飯者修行。よい言葉やないか」
「変な言葉拾わんでください」
「いや、使える」
ヨイチは、静かに帳面へ書いた。
御屋敷料理番、師範代催しへの客人枠参加を検討。 城の味と飯屋の味の比較。 飯者修行。
催しは、思った以上に盛り上がった。
勝負として見れば、伊勢松坂屋の方が竹串を集めた。
だが、城の料理番の丁寧さ、薄味の整い方、見た目の美しさも、確かに評価された。
上司は満足そうに、最後のうなぎと穴子の祝い飯を食べながら言った。
「やはり、飯は面白いな」
博之は疲れたように笑った。
「また仕事が増えそうです」
「増えるな」
「断言しないでください」
「だが、悪い仕事ではないやろ」
博之は、庭で片付けをしている料理番たちを見た。
伊勢松坂屋の師範代は、少し誇らしそうだった。
城の料理番は、悔しさと緊張と、どこか新しいものを見た顔をしていた。
「まあ、悪くはないですね」
博之は言った。
「飯屋としては」
「飯屋としてな」
城主は楽しそうに笑った。
こうして、松阪の屋敷での五番勝負は、また一つ新しい道を開いた。
師範代催しは、ただの店内制度ではなくなりつつあった。
城の料理番までもが、そこで腕を試す。
飯の道は、さらに妙な方向へ広がり始めていた。