作品タイトル不明
博之44才9月1週目。4億7,926万文→5億770万文。船関係で1,000万文経費で引いても拠点利益が強いwww
ヨイチが帳面を抱えて、いつもの座敷へ入ってきた。
「旦那様。楽しい楽しい、帳簿の時間です」
博之は畳の上でごろりと寝返りを打った。
「楽しくない。もう向き合わなあかん時間やな、これは」
お花が茶を置きながら笑う。
「今回は、船の一千万文がありますからね。旦那様も、さすがに覚悟していただきましたね」
「いやいやいやいや、一千万文使ってんねんぞ。一千万やぞ。普通に小さな城下町が動く金やろ」
「旦那様が決めたんです」
「それはそうやけども」
ヨイチは容赦なく帳面を開いた。
「では、まず買い付け隊からです」
「はい」
「前回、買い付け隊の利益は一千七十五万文でした。今回は二拠点増えていますので、
七十五万文を追加します」
「二拠点で七十五万か。買い付け隊、相変わらず強いな」
「はい。酒、油、古布、布団、瀬戸物、小物の流れが太くなっています」
ヨイチは筆で線を引く。
「一千七十五万文に七十五万文を足して、一千百五十万文」
「うん」
「そこから、遊び代三十万文、布団代三十万文を引きます」
「そこまではいつものやつやな」
「さらに、船関係で一千万文を別枠支出として引きます」
博之は目を閉じた。
「来たな」
「はい。二百石船一艘、百石船四艘、九鬼水軍への運用・育成依頼、港の倉、干し場、
修理積立を含めた海運・難民対応準備金です」
「言い方は綺麗やけど、一千万文や」
「一千万文です」
ヨイチは淡々と言った。
「その結果、買い付け隊側の今回残りは九十万文です」
「九十万文」
博之は少し笑った。
「おお、だいぶちっちゃなったな」
「一千万文引けば、そうなります」
「そらそうやけど、九十万文がちっちゃい扱いになってるのもおかしいな」
お花が言った。
「感覚が完全に壊れています」
「壊れるやろ、こんなん」
夜市は次の帳面へ移った。
「次に、拠点です」
「拠点はどうや」
「近江、京都、尾張、石切。このあたりで、うなぎ屋を増やしています」
「うなぎ強いな」
「はい。うなぎは単価が高く、祝い飯にも使え、城下町でも港でも扱いやすいです。
職人育成の効果も出始めています」
「穴子もあるけど、うなぎはやっぱり格があるな」
「その分、扱える者を育てる必要があります」
「そこは師範代制度やな」
ヨイチは頷いた。
「拠点利益は、今回二千七百五十四万文と見ます」
「二千七百五十四万文」
「はい」
「で、買い付け側の九十万文を足すと?」
「二千八百四十四万文です」
博之は、しばらく黙った。
そして、あきれたように笑った。
「いやいや、一千万文使って、まだ二千八百四十四万文のプラスかい」
「はい」
「おかしいやろ」
「おかしいですが、帳面上はそうです」
お花が静かに言った。
「それだけ、拠点が強くなっているということですね」
「うなぎと買い付け隊が強すぎるな」
ヨイチは、前回の累計を示した。
「前回までの累計が、四億七千九百二十六万文でした」
「うん」
「今回の増加分、二千八百四十四万文を足します」
「五億……」
「五億七百七十万文です」
座敷が、一瞬静かになった。
五億七百七十万文。
ついに、五億文を超えた。
博之は天井を見上げたまま、ぽつりと言った。
「五億文、超えてきたか」
「超えました」
「一千万文使ったのに」
「使ったうえで、です」
「もう、飯屋の帳簿ちゃうな」
お花がすぐに言う。
「船を五艘作る飯屋ですから」
「それ言うな」
ヨイチは淡々と続けた。
「ただし、安心できる数字ではありません」
「分かってる」
「船は作って終わりではありません。九鬼水軍への育成費、船頭、水夫、修理、港の倉、
干し場、荷傷み、天候待ち。今後も皮を剥ぐように経費がかかります」
「皮みたいにかかるって嫌な言い方やな」
「実際、そのようにかかります」
「まあ、海は金食い虫やって言われたしな」
「はい。しかも、船が動けば人も必要になります」
博之は起き上がった。
「そこやな。目先の目標は、人材や」
「はい」
「師範代制度で、料理の優秀なやつを増やす。料理番、まとめ役、見立て役を育てる。
拠点の飯を回せるやつを増やす」
ヨイチが書く。
「料理人材。師範代制度。拠点ごとの飯の底上げ」
「それと、人集めやな」
お花が頷いた。
「船を扱える者は、普通の下働きとは別ですね」
「そうや。船を扱える者に、いきなり飯場の下働きからやらせるのは違う」
ヨイチも言った。
「船頭、水夫、船大工見習い、荷積み係、港倉の管理、干し場の管理。これは別枠で
雇う必要があります」
「求人を分けた方がええな」
「はい。飯場の下働きとは別に、船手見習い、港荷役、倉番、干し場係として募集するべきです」
「船手見習い、ええな」
博之は少し考えた。
「ただ、九鬼水軍の顔もあるからな。勝手に船乗りを大量に抱えるような見え方は避けたい」
「九鬼水軍の指導を受ける、伊勢松坂屋の荷船要員、という形ですね」
「そうそう。戦船やない。荷船や」
お花が言った。
「布団を濡らさない係も必要です」
「そこも別枠か」
「必要です。船で運ぶなら、積み方、包み方、降ろした後の干し方を知っている人がいります」
「布団奉行やな」
「変な名前をつけないでください」
「でもいるやろ」
「必要ですが、名前は考えてください」
座敷に少し笑いが戻った。
ヨイチは帳面にさらに書き込む。
「今後の課題。一、船手要員の募集。二、港倉と干し場の管理者。三、師範代制度の定着。
四、各拠点の料理人育成。五、海運費用の継続把握。六、難民対応時の米・味噌・布団の動線確認」
「多いな」
「旦那様が増やした仕事です」
「はい」
博之は素直に認めた。
「でも、銭を銭で持ってるよりはええと思うねん」
「それは、私もそう思います」
夜市は珍しく少し柔らかく言った。
「五億文を超えた今、ただ溜め込むだけでは危険です。船、人材、料理制度、布団、倉。形あるもの、
動くもの、人を育てるものへ替えるのは、理にかなっています」
「ありがたい」
「ただし、使い方を誤ると、金食い虫になります」
「船やな」
「船です」
お花が茶を注ぎ足した。
「でも、今回の支出は意味があります。北伊勢が荒れた時、海から飯と布団を
動かせるかどうかは大きいです」
「そうやな」
博之は地図を見た。
「松阪、津、白子、桑名、常滑、熱田、三河。紀州も見る。船が動けば、飯の道が増える」
「人の逃げ道も増えます」
「そこも大事や」
ヨイチが帳簿を閉じる前に、もう一度数字を読み上げた。
「買い付け隊、船支出後の残り九十万文。拠点利益、二千七百五十四万文。
合計、二千八百四十四万文の増加」
「うん」
「前回累計、四億七千九百二十六万文。今回累計、五億七百七十万文」
「五億七百七十万文」
博之は、少し笑った。
「五億文あっても、全然楽にならんな」
「楽をするための銭ではありません」
ヨイチが言う。
「動くための銭です」
「またええこと言うな」
「何度も言っています」
「そうやったな」
お花が微笑んだ。
「それだけ、旦那様が動いているということです」
「動きすぎやな」
「でも、止まれないところまで来ています」
博之は、ごろりと畳に戻った。
「とりあえず、次は人やな」
「はい」
「料理の人、船の人、倉の人、干し場の人、拠点を見る人。人を集めて、育てる」
「それが次の目標です」
ヨイチは帳面の最後に、大きく書いた。
五億七百七十万文。 次の課題は、人材。 料理の腕と、海の道を育てる。
博之はそれを見て、ぽつりと言った。
「飯屋って、ほんま大変やな」
お花がすかさず返す。
「船を五艘作る飯屋ですからね」
「それ言うなって」
座敷に笑いが広がった。
帳簿は締まった。
しかし、伊勢松坂屋の仕事は、また増えた。
五億文を超えた銭は、ただの蓄えではない。
船になり、人になり、飯になり、いずれ誰かの命をつなぐ道になっていくのだった。