軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秋の収穫の時期に向けた飯を考える。焼きおにぎりは序章。本命はうなぎとだし巻き卵を細かく刻んだ混ぜ飯。穴子の白焼き版でも試す。店の者も混ぜる前の見た目に満足

夏の流しそうめんが思った以上に受けたことで、博之の頭の中には、

また別の考えが浮かび始めていた。

「夏はそうめんでええ。じゃあ、秋は何やろな」

畳の上にごろごろしながら、博之はそんなことを言った。

お花が茶を置きながら聞く。

「また何か思いついたんですか」

「収穫の時や」

「収穫?」

「米や。米が取れた時に、余ってる米というか、祝いの米を使って、なんかできへんかなと思って」

ヨイチが帳面を開いた。

「米を使った催しですか」

「そう。炊き出しでもええし、祝いでもええ。秋の収穫、正月、節目。そういう時に、

“今年もよう頑張ったな”って思える飯が欲しい」

「また行事化ですね」

「そうや。飯は行事になる」

博之は起き上がり、台所へ向かった。

まず作らせたのは握り飯だった。

炊きたての米を少し冷まし、手に塩をつけて固めに握る。そこへ、味噌を酒で少し伸ばしたもの、

醤油に少し甘みを足したもの、天ぷらのつゆを煮詰めたものを用意させた。

「これを、刷毛で塗る」

「刷毛で?」

「うなぎと一緒や」

握り飯に薄く味噌だれを塗り、炭火で炙る。

少し焼けたところで、もう一度塗る。

表面がぱりっとし、香ばしい匂いが立ち上がった。

「……あ、これは匂いが強いですね」

料理番の若い者が言う。

「米が焼ける匂いはええやろ」

博之は少し得意げだった。

醤油だれの方も試す。

こちらは、焦げた香りがより強い。

天つゆを煮詰めたものは、少し甘く、優しい味になった。

「焼きおにぎりやな」

博之が言うと、お花が一つ手に取った。

「名前はそのままですね」

「そのままが一番分かりやすい」

試食した者たちは、すぐに頷いた。

「味噌が強いです」

「醤油も香ばしい」

「天つゆのやつは子ども向けかもしれません」

「炊き出しでも出せますね」

ヨイチが言う。

「ただの握り飯より、かなり満足感があります。米が余る時期には良さそうです」

「やろ」

博之は頷いた。

「これは普段でも使える。けど、今日の本命はもう一つや」

そう言って、博之は大きめの桶を用意させた。

炊きたての白飯に、少しだけ酒を振る。

「酒ですか」

「香りづけや。あと、飯を少しなじませる」

「酢ではなく?」

「酢も考えたけど、まずは酒でいく。祝い飯っぽくしたい」

飯を軽く混ぜ、湯気を飛ばす。

そこへ、うなぎの蒲焼きを細切りにしたものを用意させた。

さらに、出汁を入れて柔らかく焼いた玉子を、細く切る。

黄色い玉子。

艶のあるうなぎ。

白い飯。

それを、いきなり混ぜるのではなく、まず桶の上にきれいに敷き詰めた。

博之は、皆を呼んだ。

「ちょっと、混ぜる前に見てくれ」

料理番、女衆、ヨイチ、お花が集まる。

桶の中には、飯の上にうなぎが並び、その隙間を細切りの玉子が彩っていた。

茶色と黄色と白。

派手ではないが、祝いの膳としては十分に目を引く。

「……きれいですね」

お花が素直に言った。

「やろ」

「これは見た目がいいです」

夜市も頷いた。

「祝い事に向いていますね。桶で出せば、十人前くらいになります」

「そこなんよ」

博之は嬉しそうに言った。

「どんぶりで一人ずつ出すのもええ。けど、これはみんなで食べる飯や。桶を真ん中に置いて、取り分ける。祝いの時にええやろ」

「うなぎ桶飯、ですか」

「名前はまだや」

「またそのままになりそうですね」

「うなぎ祝い飯とか、うなぎ混ぜ飯とか」

「後で考えましょう」

まずは、うなぎと玉子を飯に混ぜる。

甘辛いタレが飯に少し移り、玉子の出汁の香りが全体を柔らかくする。

一口ずつ取り分け、皆で食べた。

「……うまい」

料理番の一人がすぐに言った。

「うな重より軽いです」

「でも、うなぎの味はちゃんとあります」

「玉子が入っているから、まろやかですね」

「これは大人数で食べやすいです」

博之は満足そうに頷いた。

「うな重はごちそうや。これは祝いの分け飯やな」

次に、穴子でも同じことを試した。

蒸してふっくらさせた穴子の白焼きに、薄くタレを塗る。それを細切りにする。

同じように、出汁巻き玉子を細く切り、飯の上へ敷く。

うなぎより色は淡い。

だが、その分、上品に見えた。

「こっちはこっちで、きれいですね」

「穴子はやっぱりしっとりしてます」

「うなぎより軽いです」

「年寄りにはこっちの方がいいかもしれません」

試食の声は上々だった。

お花は、少し考えながら言った。

「うなぎは祝いの勢いがあります。穴子は、少し上品ですね」

「そうそう」

博之は指を鳴らした。

「うなぎは“今日はめでたいぞ”って感じや。穴子は“ええもん食べたな”って感じやな」

ヨイチが帳面に書き込む。

「うなぎ祝い飯。穴子祝い飯。桶で十人前。収穫、正月、節目、寺社行事向け」

「そうや。これ、寺社にも持っていける」

「寄進飯ですか」

「うん。神様にも振る舞うし、上主にも見せられる。見た目がきれいで、みんなで取り分けられる。

炊き出しほど質素ではなく、うな重ほど一人向けでもない」

お花が笑う。

「飯に映えを求め始めましたね」

「映えってなんや」

「見た目で喜ぶことです」

「見た目は大事やろ」

「それはそうですが、旦那様が“映える”とか言い出すと、また変な方向に行っている気がします」

「ええやんけ。きれいやったら嬉しいやろ」

博之は少しむきになった。

「飯は味だけやない。見る。待つ。分ける。食べる。全部込みや」

ヨイチが頷いた。

「それは分かります。特に祝い事なら、見た目は大事です」

「そうやろ」

「ただし、毎回これを炊き出しに出すのは難しいです」

「分かってる」

博之はすぐに言った。

「毎度毎度、うなぎや穴子を入れたら銭が飛ぶ。これは節目や。収穫の時、正月、開店祝い、

寺社の大きな寄進、従業員の祝い。そういう時に出す」

「従業員向けにも?」

「出したいな」

博之は桶を見ながら言った。

「普段よう働いてる者たちに、“今年も頑張ってよかったな”って思ってほしい。

米が取れた時に、みんなで桶を囲んで食う。そういうの、ええやろ」

お花の表情が少し柔らかくなった。

「それは、とてもいいと思います」

「やろ」

「うなぎや穴子が少なくても、玉子と飯でかさが出ますし」

ヨイチが現実的に言う。

「うなぎを細く切ることで、全員に行き渡ります。うな重より原価は抑えられますね」

「そこも大事や」

「ただし、見た目を保つには盛り付けの訓練が必要です」

「また訓練か」

「旦那様が見た目を気にするなら、必要です」

「分かった」

博之は、古参衆を呼んで正式に試食させることにした。

夜市、お花、料理番のまとめ役が並ぶ。

まず焼きおにぎり。

味噌。

醤油。

天つゆ。

それぞれを食べ比べる。

「味噌は強いです。働く男衆に向きます」

「醤油は香りがよいです。茶屋でも出せます」

「天つゆは子ども向け、年寄り向けですね」

次に、うなぎ祝い飯。

桶の姿を見せてから、混ぜて取り分ける。

「見た目はかなり良いです」

「香りが強いです」

「十人前で出すと、場が盛り上がります」

最後に、穴子祝い飯。

こちらは、うなぎより淡い味で、するすると食べられた。

「穴子は上品ですね」

「酒席にも合います」

「年寄りや女衆にはこちらの方が受けるかもしれません」

評判は上々だった。

博之は満足そうに腕を組んだ。

「よし。これは秋までに形にする」

ヨイチがすぐに言う。

「名前を決めましょう」

「うなぎ祝い飯、穴子祝い飯でええんちゃうか」

「分かりやすいですね」

お花が少し考える。

「収穫祭では、“豊年うなぎ飯”“豊年穴子飯”でもいいかもしれません」

「それええな」

博之の目が光る。

「豊年飯か」

「米の収穫と合います」

「豊年うなぎ飯、豊年穴子飯。ええやん」

ヨイチが帳面に書く。

「秋の収穫行事。豊年飯。焼きおにぎり。寺社寄進、従業員慰労、祝い事向け」

「これや」

博之は、少し嬉しそうに言った。

「こういう飯を考えたいんや。戦や調略やなくて、今年も飯が食えてよかったなって思えるやつ」

お花が静かに笑った。

「今日の旦那様は、いい顔してます」

「ほんまか」

「にやにやではなく、楽しそうです」

「それ褒めてる?」

「褒めてます」

博之は少し照れた。

台所には、焼きおにぎりの香ばしい匂いと、うなぎの甘辛い香り、穴子のやわらかい湯気が残っていた。

夏のそうめん。

秋の豊年飯。

冬の葛湯。

春には、また何か考えればいい。

季節ごとに、飯が人を集める。

人が集まれば、笑いが生まれる。

博之は、桶の中に残った飯を見ながら、小さく呟いた。

「やっぱり、飯はこういうのがええな」

古参衆は、それぞれ頷いた。

評判は上々。

伊勢松坂屋の秋の行事に、また一つ、新しい飯が加わろうとしていた。