軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

話家見習い会が良すぎて周囲が練習しだす。野良の会が広がるwww下世話な話で女衆が泣くことがありお花さんが博之に苦情を言うwww

話家見習い会は、思ったよりも金になった。

それが分かった途端、買い付け隊や各拠点の若い者たちが、あちこちで勝手に練習を始めた。

最初は、伊勢松坂屋の本店でやっただけだった。

買い付け係が、大和、堺、京都、近江、尾張、伊勢の話をする。

客は一人五十文を払い、竹串を五本持つ。

面白かった者の壺へ串を入れ、その数に応じて銭が渡される。

それだけの仕組みだった。

だが、やってみると分かった。

話は、売れる。

飯ほど腹にはたまらない。

だが、人は思った以上に、知らない土地の話や、変な客の話、旅先で見た珍しいものの話を聞きたがる。

そして、笑いたがる。

本店で五十人も集めなくても、十人、二十人で小さくやれば、それなりに形になる。

料金も五十文でなくていい。

二十文、三十文に下げる。

竹串一本あたりの値も変える。

茶や小さな菓子をつける。

そうすれば、夜の少し空いた時間や、炊き出しの後、荷下ろしの終わった後などに、

ちょっとした会が開ける。

買い付け隊の者たちは、最初は練習のつもりで始めた。

「堺で、値切ったつもりが逆に高く買わされた話」

「信楽焼を運ぶ途中で、荷車がぬかるみに沈んだ話」

「大和で葛を見たら、思ったより地味だった話」

そういう話は、普通に受けた。

だが、問題は下世話な話だった。

これが、妙に人気が出た。

本店でやった男性限定の下世話会は、お花に冷たい目で見られ、博之が正座させられる結果になった。

にもかかわらず、男衆の間では、

「あれは面白かった」

「もっと聞きたい」

「俺も一つ話がある」

という空気になってしまった。

夜な夜な、店の裏や、拠点の片隅で、小さな話の会が開かれる。

最初は、酒で失敗した話。

女に振られた話。

客に怒られた話。

それくらいだった。

だが、だんだん話が荒れてきた。

誰かの身内話。

誰かの恋仲の噂。

女衆の失敗。

客の悪口。

名前を伏せているつもりでも、聞いている者には分かる話。

それが笑いになり、竹串が入る。

銭になる。

そうなると、話す方も調子に乗る。

数日後、お花のところに苦情が届いた。

「この前、私のことを話にされたみたいで、店の裏でくすくす笑われました」

「名前は出してないと言われましたけど、聞いたら私のことだと分かります」

「そんなつもりじゃなかったと言われても、嫌です」

中には、泣いている女衆もいた。

お花は、すぐに博之のところへ向かった。

博之は、いつものように畳に転がっていた。

「旦那様」

その声だけで、博之は嫌な予感を覚えた。

「はい」

「話家見習い会の件です」

「はい」

「ちょっと節度を持ってやってもらわないと困ります」

博之は、ゆっくり起き上がった。

「なんかあった?」

「あります」

お花の目が冷たい。

「下世話な話の会が、あちこちで勝手に開かれています」

「まあ、練習の場としてはええんちゃうか」

「それだけならいいです。でも、身内の女衆の話を勝手にして、笑いものにしている者がいます」

博之の顔が少し変わった。

「それはあかんな」

「はい。迷惑している女の人がいます。泣いている子もいます」

「泣いてる?」

「はい」

お花は、少し強い口調で続けた。

「旦那様が作った仕掛けです。だから、なんとかしてください」

「いや、わしが直接話させたわけやないけど」

「元を作ったのは旦那様です」

「それを言われると弱い」

ヨイチも呼ばれ、三人で話すことになった。

博之は腕を組んだ。

「練習の場としてやるのは、悪くないと思うんや」

「はい」

ヨイチが頷く。

「買い付け係や若い者が、人前で話す練習をする。土地の話を共有する。客の反応を見る。

これは有益です」

「やろ」

「ですが、野良で広がると管理が効きません」

「そこやな」

博之は天井を見上げた。

「金額は自由でもええと思う。十人、二十人で小さくやるなら、二十文、三十文でええ。

竹串一本の値も場所によって変えればええ」

「問題は内容です」

お花が言った。

「人を傷つける笑いは駄目です」

「うん」

「名前を伏せても、分かる人には分かります。女衆の容姿、失敗、恋仲の噂、客とのやり取り。

そういうものを勝手に話にしたら、本人は傷つきます」

「それはそうや」

博之は、少し真面目な顔になった。

「じゃあ、ルールを作る」

ヨイチが筆を取った。

「まず、話家見習い会の掟やな」

「一つ。本人が嫌がる話をしない」

ヨイチが書く。

「二つ。身内の女衆や客の噂話を、分かる形で話さない」

「三つ。名前を伏せても、誰か分かる話は駄目」

お花が付け加える。

「四つ。下世話な話は、時間と場所を分ける。女衆や子どもが通る場ではしない」

「五つ。話の前に、聞く側にも断る。これは男衆向け、これは旅の話、これは怖い話、

これは土地の話と分ける」

ヨイチが続けた。

「六つ。人を傷つける笑いではなく、自分の失敗や、土地の面白さ、商いの妙を話す」

博之は頷いた。

「そうやな。笑いはええ。下世話も、完全に禁止とは言わん。でも、人を泣かせて銭取るのは違う」

お花は少しだけ表情を緩めた。

「それを、ちゃんと旦那様の口から言ってください」

「分かった」

「あと、野良でやるなら、誰が開いたかを報告させてください」

ヨイチが言った。

「勝手に銭を取って問題が起きると、伊勢松坂屋の評判に関わります」

「それもそうやな」

博之はしばらく考えた。

「だったら、受け皿を作るか」

「受け皿?」

「寺社仏閣で炊き出しをする時に、話係をつける」

お花とヨイチが顔を上げる。

「炊き出しの後、すぐ帰るんやなくて、少し話をする。旅の話、土地の話、怖い話、

子ども向けの話。お寺の境内なら、ある程度公の場になる。変な下世話話もしにくいやろ」

「それはいいですね」

ヨイチが頷く。

「公に話せる場を作れば、話家見習いも練習できます。聞く側も安心できます」

「寺社の側も、炊き出しだけでなく人が集まる理由になります」

お花も続けた。

「ただし、内容は事前に分ける必要がありますね」

「うん」

博之は指を折った。

「昼は土地の話、旅の話、子ども向けの話。夕方は怖い話。夜に男衆だけで下世話な話をするなら、

場所を分ける。ただし、人を傷つける話は禁止」

夜市は帳面に書きながら言った。

「話家見習い会、正式制度化。野良会は報告制。寺社炊き出し時に公の話場を設置。

内容区分。人を傷つける笑いは禁止」

博之は苦笑した。

「わしは何屋やねん」

「飯屋です」

お花が即答した。

「でも、飯と関係ないやろ」

「旦那様が勝手に話の種まで広げるからです」

ヨイチも淡々と言った。

「そしてウケるからいけないんです」

「ウケるからいけないって何や」

「ウケなければ広がりません」

「それはそうやけど」

博之は頭をかいた。

「俺的には、ついでで考えてるだけなんやけどな」

お花の目が、再び厳しくなった。

「その“ついで”で泣いている人がいるんです」

博之は黙った。

お花は続ける。

「旦那様が美味しいご飯を出して、面白いことを考える。それで人が集まります。

人が集まるから、銭も動くし、笑いも生まれる。でも、そこで誰かが傷つくこともあるんです」

「……うん」

「だから、ちゃんと肝に銘じてください」

博之は、小さく頷いた。

「分かった。そこはちゃんとやる」

「本当ですね」

「本当や」

「にやにやしないでください」

「してへん」

「少ししてました」

「してへんって」

お花は、まだ少し怒っていた。

ヨイチは、帳面を閉じながら言った。

「制度を作るのはいいですが、今後は“広がった後に叱られる”のではなく、最初から枠を作りましょう」

「それ、ほんまにそうやな」

「旦那様の思いつきは、広がるのが早いので」

「そんなつもりないんやけどな」

「結果として早いです」

博之は畳に寝転がり、天井を見た。

話家見習い会。

最初は、買い付け係の情報共有だった。

それが、銭になり、練習になり、勝手に広がり、下世話な話で人を傷つけるところまで来てしまった。

飯もそうだった。

うまいものを作れば人が集まる。

けれど、集まった人をどう扱うかを考えなければ、場は荒れる。

話も同じだった。

「……なんでキレられてるのか、最初ちょっと分からんかったけど」

博之がぼそっと言うと、お花がすぐに睨んだ。

「まだ分からないんですか」

「いや、今は分かってる。分かってるって」

「本当に?」

「本当に」

女衆たちの視線は、まだ少し冷たい。

博之は小さくため息をついた。

「飯も話も、人を傷つけたらあかん。これやな」

お花は、ようやく少しだけ頷いた。

「はい」

ヨイチが最後に書き足した。

話家見習い会。

楽しませること。

学ばせること。

傷つけないこと。

博之はそれを見て、苦笑した。

「また掟が増えたな」

お花が静かに言った。

「旦那様が増やしたんです」

「それを言われると弱い」

座敷には、少しだけ笑いが戻った。

ただし、女衆の視線は、しばらく博之に厳しいままだった。