軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

下世話な話が男衆に受けている関係で博之が女衆からゴミを見る目で対応される。4日目に耐えられなくなり弁明の場を作るwww

下世話な話の会が、思った以上に男性陣に受けた。

受けたのは受けた。

笑い声は出たし、竹串も入った。小さな会でも銭が動き、話家見習いの練習にもなった。

だが、その代償として、博之は女衆からしばらくゴミを見るような目で見られることになった。

廊下を歩けば、視線が冷たい。

茶を頼めば、置き方が少し硬い。

話しかければ、返事は丁寧だが距離がある。

博之は三日ほど耐えたが、四日目に限界が来た。

「……ちょっと、女衆だけ集めて座談会しよう」

お花が眉を上げる。

「また何をする気ですか」

「弁明や」

「弁明で済みますかね」

「済ませたい」

そうして、伊勢松坂屋の本店の座敷に、女衆が集められた。

料理場、給仕、買い付け補助、湯浴み場、寝転び処、帳場の手伝い。普段なら明るく喋る者たちも、

この日は少し冷めた目をしていた。

博之は、その視線に耐えながら座った。

「えー、まず、このたびは下世話な話の会で、不快な思いをさせた方がいるということで、

申し訳ありませんでした」

女衆の一部が、じっと見る。

博之は頭を下げた。

「わしは、話家見習い会を作った時に、情報の共有とか、笑いとか、場を作ることばっかり考えてた。

けど、誰かを傷つける話が出るところまで考えきれてなかった」

お花が横で静かに頷いた。

「今後は、人を傷つける話、誰か分かる噂話、女衆を笑いものにする話は禁止にします。

下世話な話も、時間と場所を分けます」

そこまで言ってから、博之は少し顔を上げた。

「で、今日はそれだけやと重いので、前半は私の失敗談でも話します」

女衆の目が、少しだけ動いた。

博之は、苦笑しながら話し始めた。

「そもそも私は、ボロ小屋で飯を炊いてただけなんです。それが、なぜか豚汁屋になり、

津に呼ばれ、長野家の財政に首を突っ込み、北畠様に話が行き、気づいたら伊勢の

あちこちで店を出すことになりました」

女衆の一人が、少し笑いをこらえた。

「そこから、北伊勢でこじれた話がありまして。城の取り合いだ、難民だ、炊き出しだとなって、

飯を出していたら人が城下からいなくなって、戦が止まるという妙なことになりました」

「飯で戦が止まったんですか」

若い女衆が思わず聞いた。

「止まったというか、止まらざるを得なくなったというか。で、私は“炊き出ししてただけやのに”と

思いながら、なぜか仲介役みたいになりました」

座敷に小さな笑いが起きる。

「それで終わればよかったんですが、今度は織田信長公との付き合いです。

伊勢神宮へお連れしたら、“熱田神宮を伊勢神宮みたいにできんか”と言われました」

今度は、はっきり笑いが起きた。

「無理やろ」

「そう、無理なんです」

博之は大きく頷いた。

「私もそう思いました。けど、見に行ったら、熱田は熱田で余白がある。

肉あん、蜂蜜柚子湯、常設市、湯浴み、うなぎ。そうやって考えてたら、また仕事が増えました」

「旦那様、だいたい自分で増やしてますよね」

「そこは否定できません」

女衆の空気が、少しずつ柔らかくなっていく。

博之はさらに続けた。

「うなぎもそうです。最初は熱田の名物にしようと思って、松坂で試しただけなんです。

そしたら松坂のお殿様に食わせることになり、信長公に“風の噂で聞いたぞ”と拗ねられ、

九鬼水軍には“穴子もなんとかならんか”と言われました」

「飯屋というより、呼び出され係ですね」

「ほんまにそうなんです」

座敷に笑いが広がった。

前半が終わる頃には、最初の冷たい空気はかなり薄れていた。

博之は、そこで少し姿勢を正した。

「で、後半は、皆さんの話を聞きたい」

女衆たちが顔を見合わせる。

「わしは、正直に言うと、今回の話家会で少し気づいた。思った以上に、人は話を聞きたがるし、

笑いたがる。でも、それが人を傷つけることもある。だから、そこは直す」

お花が静かに見守っている。

博之は続けた。

「そのうえで聞きたい。今の待遇、どうや」

座敷が少し静かになる。

「男中心の世の中で、うちほど女衆を多く雇ってるところは、あまりないと思う。

別に立派な考えがあったわけではなく、困ってる人に手を差し伸べたいとか、

あんまり男女こだわらずに採ってきたら、こうなった。」

女衆の一人が、ぽつりと言った。

「給料は、よそよりかなりいいです」

別の者も頷く。

「飯もあります。寝床もあります」

「湯浴みも使えます」

「いい方の湯あみも、たまに使わせてもらえます。高いですけど」

そこで少し笑いが起きた。

お花が言った。

「だから、旦那様に厳しい目を向けすぎるのも違う、という気持ちはあります」

博之が少し安心しかけた時、別の女衆が手を上げた。

「でも、旦那様」

「はい」

「面白いことをすぐ考えはるのは、諸刃の剣です」

「諸刃の剣」

「はい。飯も遊びも話も、すぐ広がります。広がると、助かる人もいるけど、傷つく人も出ます」

博之は黙って聞いた。

「旦那様に悪気がないのは、みんな分かってます」

別の女衆が言う。

「でも、悪気がないから困る時もあります」

「それは……はい」

「旦那様のことが嫌いなわけではありません」

博之は少し顔を上げた。

「え、じゃあ、わしのこと嫌いなんやと思ってた」

座敷のあちこちから、すぐ声が飛んだ。

「嫌いではないです」

「むしろ、みんな大好きです」

「ご飯も食べられへんかった私らを、ここまでしてくれてますから」

「仕事もくれましたし」

「寝床もありますし」

「だから、厳しく言うんです」

博之は、少し目を丸くした。

「そうなんか」

「そうです」

お花が言った。

「旦那様がどうでもいい人なら、誰も怒りません」

若い女衆が、少し照れながら言う。

「旦那様が面白いのも、魅力があるのも分かってます」

「ほんまか」

「ほんまです」

「じゃあ、今のわしと結婚したら、従五位下の大膳亮の妻やぞ」

その瞬間、座敷の空気が少し冷えた。

お花がため息をつく。

「そういう肩書きに価値を見いだす旦那様は、私たちは嫌いです」

「ええ……」

女衆たちが笑う。

「肩書きじゃなくて、こうやって話を聞こうとしてくれるところがいいんです」

「ご飯をちゃんと食べさせてくれるところです」

「困った時に見捨てないところです」

「変なことを考えるけど、ちゃんと形にするところです」

「魅力は、めっちゃあります」

博之は、少し照れた。

「めっちゃあるんか」

「あります」

「ただし」

お花が言った。

「旦那様がにやにやしていると、やっぱり嫌です」

女衆たちが一斉に頷く。

「それです」

「にやにやが嫌です」

「下心が顔に出てます」

「せっかくいい話をしても、あの顔で台無しです」

博之は両手で顔を押さえた。

「そんなにか」

「そんなにです」

「もう少し、朗らかな笑いはできませんか」

「朗らかな笑い……」

博之は試しに笑ってみた。

女衆が黙った。

お花が静かに言う。

「それは作り笑いです」

「難しいな!」

座敷に大きな笑いが起きた。

博之も、つられて笑った。

今度は少しだけ、いつものにやにやではなかった。

お花がそれを見て、小さく頷く。

「今のは、まだましです」

「まだまし」

「そこからです」

博之は、少しだけしょぼんとした。

だが、座敷の空気はもう冷たくなかった。

女衆たちは、笑っていた。

厳しいことも言う。

呆れもする。

でも、それは嫌っているからではない。

伊勢松坂屋で働く者として、博之にちゃんとしてほしいからだった。

博之は頭を下げた。

「分かった。人を傷つける笑いはやめる。話家会も、ちゃんとルールを作る。

あと、にやにやは……努力する」

「そこが一番大事です」

お花が即答した。

「そこなん?」

「そこです」

また笑いが起きた。

博之は、女衆たちの顔を見回した。

最初はゴミを見るような目だった。

それが、今は少し柔らかい。

厳しいけれど、温かい。

「……やっぱり、座談会してよかったな」

博之が言うと、お花が笑った。

「旦那様は、黙っていればかっこいい時があります」

「喋ったら?」

「だいたい余計なことを言います」

「ひどい」

女衆たちは、また笑った。

伊勢松坂屋の座敷には、久しぶりに、男衆の下世話な笑いではない、

女衆の明るい笑い声が広がっていた。