軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秀吉が率直に色々聞いていると博之が織田が伊勢に行く案を思いつく。停戦の150万文のうち75万文を蟹江、伊勢神宮、北畠の城主筋に寄進して伊勢神宮をお参りしましょう。

藤吉郎が文を渡し終え、織田信長からの申し付けを一通り話すと、博之はしばらく黙っていた。

そして、ぽつりと言った。

「ついでに言うと、伊勢への筋の通し方も少し、今、天から降ってきたんですけど、聞きます?」

藤吉郎は、思わず笑った。

「やっぱり何か出てくるんですね」

「出てくるって言い方やめてください」

「いや、殿の見立て通りですわ。率直に聞けば何か出してくる、と」

お花が横でくすりと笑う。

「木下様、旦那様は追い詰められると、わりと妙案を出します」

「追い詰めんといてください」

博之は頭をかきながら、藤吉郎に向き直った。

「では、率直に言います。蟹江の件で百五十万文を渡しましたよね」

「はい」

「そのうち、七十五万文……いや、まあ七十万文ほど使いましょう」

藤吉郎は目を細めた。

「七十万文を?」

「はい。まず二十五万文は伊勢神宮への寄進に使います」

「伊勢神宮へ」

「はい。織田様が伊勢を見るには、いきなり北畠の領分を見に行くというより、

“お伊勢参り”の形を取った方が筋が通ります。参拝です。商売や探りではなく、まず神宮へ

お参りする」

「なるほど」

「次に二十五万文は、北畠様、松坂、伊勢の上手の方々への交通費、警護、会食代として使います。

要は、ただで通してくれとは言いません、という形です」

「顔を立てるわけですな」

「そうです。北畠様の顔を立てる。松坂の殿様の顔も立てる。伊勢側の顔役にも銭を落とす」

「残りは?」

「二十五万文は蟹江に落とします」

「蟹江に?」

「はい。施しとして落とします。今回の蟹江の騒動で、織田様も国人衆も一向衆も、色々ありました。

だから“休戦になったので、お礼と詫びを兼ねて、蟹江でも炊き出しや復旧に銭を落とします”

という形にする」

藤吉郎は腕を組んだ。

「それで七十五万文では」

「細かいところは調整します。七十万文と言いましたけど、まあ大枠です。残りは、

織田様側の小遣いというか、参拝のための持ち銭として十万文ほど持っていく。

織田様が直に払う形が少しあってもいい」

「つまり、もともと織田が受け取った百五十万文の半分ほどを、伊勢を見るための筋通しに使う」

「そうです」

「乱暴ですね」

「でも、もともと私らから取った百五十万文じゃないですか」

「その言い方がまた乱暴です」

「どうせ人からもらった金ですし」

藤吉郎は思わず吹き出した。

「殿が聞いたら笑うか怒るか、どちらでしょうな」

「たぶん両方です」

博之は真顔で続けた。

「でも、伊勢に行く意味はめちゃくちゃあります。海鮮焼き、見たでしょう?」

「見ました。殿も見ました」

「あれが伊勢神宮前で、普通に売られている様を見たら、間違いなく価値観が変わります」

ヨイチが横から言った。

「旦那様、言い過ぎでは」

「いや、ここまで言ったから、ついでに言います」

博之は少し身を乗り出した。

「たぶん、木下様も織田様も、なぜ北畠が伊勢を見ず知らずの力に簡単に取られへんのか、

まだ分かってないと思うんです」

「北畠の強さ、ですか」

「軍勢の強さは知りません。けど、伊勢神宮、港、寺社、商人、飯場、寄進、海の道。

この辺が絡み合っている。単に城を攻めるとか、国人衆を切り取るとかだけでは、伊勢は取りにくい」

藤吉郎は黙った。

「私が、今の織田家が北畠をすぐ攻めない方がいいと言ったのは、そこです。今のまま攻めれば、

攻めあぐねて国力を減らすだけです。だから先に美濃と南近江をきれいに取り、二方向から

北伊勢を挟む方がいいと申し上げました」

「伊勢を見れば、それが分かると」

「はい。伊勢神宮前で海鮮焼きがどう運用されているか。値段はどうか。周りの店と

どう共存しているか。寄進がどう回っているか。北畠の顔役が何を見ているか。

それを見れば、学ぶことはあります」

「殿は、学ぶのが嫌いですよ」

「嫌いやと思います」

「言い切りますね」

「でも、海鮮焼きであれだけ衝撃を受けていたなら、その元の場所を見る価値はあると思います」

藤吉郎は、しばらく考え込んだ。

「織田信長が、北畠の顔を立てて、お伊勢参りをする。その名目で伊勢を見る。その費用は、

蟹江の百五十万文の一部を回す。伊勢神宮に寄進し、北畠側に交通費と会食代を渡し、

蟹江にも施しを落とす」

「はい」

「筋は通っていますな」

「筋だけは」

「ただ、殿に“騙されたと思ってやってみましょう。どうせ人からもらった金ですし”とは言えませんな」

「そこは木下様が柔らかくしてください」

「柔らかくするにも限度があります」

お花が笑った。

「でも、木下様。旦那様の案は、織田様にも北畠様にも蟹江にも顔が立ちます」

ヨイチも頷いた。

「しかも、織田様が伊勢を見る口実としてはかなり自然です。戦の前の偵察ではなく、

参拝と礼ですから」

藤吉郎は深く息を吐いた。

「やっぱり出してきますなあ」

「出させたのはそちらです」

「殿に報告します。ただし、かなり整えます」

「お願いします。私の言葉そのままやと殺されそうなので」

「そこは同感です」

藤吉郎は文をしまいながら、笑った。

「しかし、飯屋に聞けば、お伊勢参りの筋まで出てくるとは」

「飯の道を考えると、参拝の道も見えるんです」

「ほんま、何屋なんですか」

「飯屋です」

「もう、その返しにも慣れてきました」

博之は畳にごろりと転がった。

「でも、ほんまにやるなら慎重にしてくださいよ。北畠様の顔を潰したら、うちが怒られますから」

「そこも含めて、殿に伝えます」

藤吉郎は立ち上がった。

織田領内の飯場作り。

美濃へ染み込ませる人材育成。

そして、伊勢神宮参拝を名目にした伊勢見物。

また話が大きくなった。

だが、信長が言った通りだった。

率直に聞けば、博之は何か出してくる。

藤吉郎は心の中で呟いた。

これは、殿がまた面白がるな。

そして同時に、少しだけ胃が重くなった。