軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いよいよ海鮮焼きを伊勢神宮で売るぞ。伊勢の城主に報告とあいさつ訪問。飯の火縄銃。周りの商いを壊すなwww

伊勢神宮の前で、いよいよ海鮮焼きを本格的に動かす。

その話が現実味を帯びてきた頃、博之は伊勢の城主のところへ顔を出していた。

もちろん、ただの挨拶ではない。まぜ飯、魚のすり身揚げ、肉あん、そして試作の

海鮮焼きを少し持ち込み、実際に食わせながら話を通すつもりである。

「まあ、いよいよやな」

伊勢の上司は、試作の海鮮焼きを箸でつまみながら言った。

「伊勢神宮の前で、これを本格的に出すか」

「はい。もうこの海鮮焼きが出せるようにと気を遣って伊勢神宮で半月に二十五万文も

買い付けてるわけですから。月にしたら五十万文ですよ。そら、形にしないと逆におかしいです」

「買いすぎやな」

「買いすぎです」

博之は素直に頷いた。

「しかも、この前、運用を試した時も大盛況でした。嬉しいような、怖いような、という感じでして」

「売れるのが怖いか」

「怖いです。売れすぎると、周りの店の飯を奪いますから」

伊勢の城主は、少し目を細めた。

「そこを気にしてるなら、まだええ」

「気にしないと終わります。伊勢神宮の前は、うちだけの場所じゃありません。お茶屋も、

土産物屋も、餅屋も、汁物屋も、小物屋も、みんなそこで飯を食ってます。そこに、見て楽しくて、

匂いが強くて、味も濃い海鮮焼きをぶつけたら、下手したら全部吸ってしまいます」

「飯の火縄銃やな」

「本当にそうなんです」

博之は苦笑した。

「だから、マグロの汁物は仕方ないとしても、魚のすり身揚げに関しては、朝と昼くらいの

限定販売にしようと思ってます」

「限定か」

「はい。数を半分ずつに分けて、朝に半分、昼に半分。売り切れ御免です。ずっと売り続けると、

客を抱え込みすぎます」

「もったいないとは思わんのか」

「思います。でも、それで金になるのは仕方ないとしても、周りの店に迷惑をかける方が悪いです」

伊勢の上司は、すり身揚げを一つ食べた。

「これもうまいからな。確かに出し続けたら売れる」

「だから止めるんです。売れるから止める。そこが難しい」

「贅沢な悩みやな」

「本当に贅沢です。でも、本当に悩みです」

博之は、今度は海鮮焼きの運用について話し始めた。

「海鮮焼きは、持ち帰り六個百五十文。店の中で信楽焼に乗せて食べるなら二百文。ここは決めました」

「強気やな」

「強気です。でも、伊勢神宮前なら、安売りする方が危ないです。安くして大量に売ると、

周りの価格を壊します」

「で、体験は?」

「完全予約にします」

「ほう」

「四百五十文。お礼札を五枚渡します。一枚十五文ですから、七十五文分。周りの店で使ってもらう」

「また札か」

「札です。札を配らないと、周りに銭が回りません」

伊勢の城主は、少し笑った。

「四百五十文で、札五枚。何か変な意味でもあるのか」

博之は少しだけ目をそらした。

「四十五縁がありますように、ということで」

「また駄洒落か」

「縁起物です」

「お前、伊勢神宮の前で駄洒落を商いにする気か」

「怒られたら変えます」

「怒られる前提でやるな」

城主は笑いながらも、止めはしなかった。

博之は続けた。

「体験は、一日三回か四回。十人ずつで、三回なら三十人、四回なら四十人。完全予約です。

焼き場に限りがありますし、女衆の負担もあります。飛び込みで入られると混乱します」

「十人ずつか」

「はい。店の中で、女衆がそばについて、くるくる回すところを教える。

自分で焼いたものを食べる。失敗しても、それも体験として笑える。お父さんが

子供にいいところを見せる。若い男が好きな女に焼いて見せる。お母さんが子供に焼いてやる。

そういう場にします」

「ますます利益やな」

「茶化さないでください。心配してるんです」

「心配してる顔ではあるな」

「この運用でも、まだパンパンになる可能性があります」

博之は本気で困った顔をした。

「持ち帰りも売れる。店内も売れる。完全予約も埋まる。そうなると、

結局人だかりができます。でも、だからといって“完売です”と札だけ貼ってガラガラに

してしまうのも違う。見物の熱が消えます」

「売れすぎても困るし、売れなさすぎても困る」

「そうです。見てもらうこと自体に価値があるんです。あの鉄板で、丸い種をくるくる回す。

味噌醤油をはけで塗る。青のりをさらっと振る。あれは、食べるだけじゃなくて見るものです」

「確かに、あれは目を引く」

「伊勢神宮に来た人が、“なんやあれ”と足を止める。それだけで強い。食べたらうまい。

自分で焼けたらもっと楽しい。だから衝撃があると思います」

伊勢の城主は頷いた。

「だからこそ、周りへの気遣いやな」

「はい。お礼札を配る。数を絞る。朝、昼、夕の売る時間を決める。体験は完全予約にして、

店内に人を入れすぎない。すり身揚げも限定販売にする」

「マグロの汁物は?」

「こちらも数を絞ります。汁物は腹にたまるので、出しすぎると周りの飯屋を食います」

「ほんま、売る側がそこまで考えるのも珍しいな」

「売りすぎて恨まれるのが一番怖いです」

伊勢の上司は、茶をすすってから言った。

「面白い。やってみろ」

「よろしいですか」

「よい。ただし、何度も言うが、周りの店を潰すな」

「はい」

「伊勢神宮の前は、お前の店だけで成り立ってるわけではない。むしろ、周りに店があり、

人がいて、土産があって、茶があって、餅があって、そこにお前の変な飯が混ざるから面白い」

「変な飯」

「褒めてる」

「褒め方が雑ですね」

「雑でも通じるやろ」

博之は苦笑した。

伊勢の城主は、海鮮焼きをもう一つつまんだ。

「しかし、これが伊勢神宮前で回ったら、また評判になるぞ」

「それも怖いです」

「怖がりながらやれ。怖がってるうちは、まだ周りが見える」

「はい」

「調子に乗ったら、すぐ怒る」

「怒られたくないので、丁寧にやります」

「ならよい」

こうして、伊勢神宮前の海鮮焼きの運用は、ひとまず固まった。

持ち帰り六個百五十文。

店内で信楽焼に乗せて食べるなら二百文。

完全予約の体験は四百五十文、お礼札五枚つき。

魚のすり身揚げは朝と昼に分けた限定販売。

マグロの汁物も数を絞る。

売れすぎないよう、しかし見物の熱は消さないようにする。

それは、飯屋でありながら、もはや興行に近かった。

博之は帰り際、もう一度だけ頭を下げた。

「一回、やってみます」

「やってみろ。面白いものは、まず動かさな分からん」

「はい」

「ただし、周りへの札と挨拶は忘れるな」

「そこは絶対に」

伊勢の城主は、少し笑った。

「飯の火縄銃を撃つなら、ちゃんと空に向けて撃て。人に向けるな」

「肝に銘じます」

博之はそう答えた。

いよいよ、伊勢神宮前で海鮮焼きが本格的に動き出す。

売れるのは分かっている。

だからこそ、売れすぎないようにする。

伊勢松坂屋にとって、それは新しい悩みだった。