軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

藤井寺から届いた金型の試作機でお好み焼きの種を焼きタコやイカの下処理したあしを刻んだものを入れひっくり返す。回線焼き。みそだれと青のりを振りかける。かわいい。焼き姿がいい。

藤井寺の鍛冶場から届いた金型の試作品は、松阪の台所に大きな騒ぎを起こした。

黒く重たい鉄板には、半円のくぼみが二十ほど並んでいる。そこへ菜種油を引き、

火にかけると、じわりと鉄が温まり、油が薄く光った。

博之は上機嫌だった。

「来たな。これで丸い飯ができる」

ヨイチは、まだ納得していない顔をしている。

「旦那様。十万文の試作品ですからね」

「分かってる。だからこそ、ちゃんと試すんや」

お花は横から覗き込みながら言った。

「竹串で返すとおっしゃっていましたけど、普通の竹串では細すぎますね」

「せやな。最初は竹串で刺すみたいに考えてたけど、それはちょっと違うな」

博之は鉄板を眺めながら考え込んだ。

「中の種が別に串に刺さるわけでもないし、焼きたては熱すぎる。無理に串で持たせるより、

信楽焼の器に乗せる方がええかもしれん」

「また信楽焼ですか」

ヨイチが反応する。

「肉あんで当たったやろ。今回も、丸い海鮮焼きを信楽焼にころころっと乗せる。

見た目もええし、熱いものを直に持たせずに済む」

お花は頷いた。

「それなら品よく見えますね。伊勢神宮や伊勢の港なら、信楽焼の器に海鮮焼きが三つ、

青のりがかかっているだけで、かなり見栄えします」

「やろ」

「ただし、食べ歩きとは少し違いますね。器だと座って食べる形になります」

「そこなんよ」

博之は、種を流し込みながら言った。

「持ち運びもできるようにしたい。信楽焼は店で食べる用。持って歩くなら、木箱か、

笹で作った船みたいな入れ物やな」

「笹の船」

「そう。細長い笹の葉を敷くか、木の薄い箱に入れる。そこに海鮮焼きを三つか五つ乗せる。

青のりを振って、味噌醤油を塗って、ちょっと見栄えよくする。食べ歩きにもええし、

弁当みたいに持ち帰ることもできる」

ヨイチは、すぐに帳面を開いた。

「店内用は信楽焼。持ち歩き用は木箱、または笹船。用途で分けるわけですね」

「そうや。伊勢神宮なら信楽焼で見せる。港や市では笹船で歩かせる。旅人には木箱で渡す」

「なるほど。器を変えるだけで値段も変えられます」

「怖いこと言うな」

「事実です」

そうしている間に、金型の中で種が焼け始めた。

博之は、粉を溶いた種を半円の穴に流し込む。そこへ、湯がいたタコを細かく切ったもの、

イカ、ネギ、刻んだ野菜を入れていく。

「生のまま入れると火の通りが怖いから、タコとイカは先に湯がいておく。これ大事やな」

「はい。食べて腹を壊したら終わりです」

「飯屋はそこを絶対に外したらあかん」

しばらくすると、香ばしい匂いが台所に広がった。

粉の焼ける匂い、魚介の香り、ネギの甘い香り。見ていた女衆や若い料理人たちも、

自然と近づいてくる。

「ええ匂いやな」

「これ、本当に丸くなるんですか」

「それを今から見るんや」

博之は、太めの竹べらのような道具で端をそっと持ち上げた。

「竹串で刺すんやなくて、返すための道具やな。先が少し細くて、でも強いものがいる。

先だけ鉄にして、持ち手を木か竹にするのもありや」

「その道具も作らせるんですか」

「たぶん必要になる」

ヨイチは無言で帳面に書き込んだ。

やがて、半円の生地が固まり始めたところで、博之はくるりと返した。

一つ目が、思った以上にきれいに回る。

「おおっ」

周りから声が上がった。

「丸くなった!」

「かわいいですね」

「これは見てるだけでも面白いです」

博之は、次々に返していく。

少し崩れるものもある。形がいびつなものもある。だが、二十個のうち多くは、丸い形になった。

「最初でこれなら十分や」

焼き上がったところで、表面に味噌醤油を薄く塗る。じゅっと香りが立つ。

そこへ青のりをさらりと振った。

「磯の香りを乗せて……いや、長いな」

「長いです」

「海鮮焼きでええか」

「分かりやすいです」

まずは信楽焼の小皿に、丸い海鮮焼きを三つ乗せた。

丸い焼き物が、信楽焼の土の色に映える。青のりの緑が散り、味噌醤油の照りがある。

お花が、少し目を細めた。

「これは、かなり見た目がいいです」

「やろ」

「肉あんよりも、丸い分だけ可愛らしいですね」

「女衆や子どもにも受けると思う」

ヨイチも一つ食べた。

「熱いですね」

「そら焼きたてやからな」

「だからこそ、信楽焼の器に乗せるのは正解です。直に持たせると危ない」

「せやろ」

お花も一つ口に入れた。

「あつ……でも、おいしいです。外が香ばしくて、中が柔らかい。タコのぷりっとした

感じもいいですね」

「イカもええやろ」

「はい。海の町では流行りそうです」

続いて、笹を敷いた小さな木箱に海鮮焼きを並べてみた。

信楽焼ほどの高級感はない。だが、これはこれで祭りや市に合う。手に持って歩ける。

蓋をすれば少し運べる。

博之はそれを見て、満足そうに頷いた。

「これやな。店で食べるなら信楽焼。歩くなら笹船。持ち帰りなら木箱」

「売り方が三つできますね」

「そうや。伊勢神宮では信楽焼で見せる。年末市や港では笹船で食べ歩き。旅人には木箱。

これなら場所に合わせられる」

ヨイチは、冷静に言った。

「値段も分けましょう。信楽焼で出すものは高め。笹船は中くらい。木箱は箱代込み」

「また帳簿が細かくなるな」

「旦那様が増やしているのです」

博之は、今度は山の具材の話を始めた。

「海がないところでは、海鮮焼きだけやと弱い。だから山の恵み包みもいる」

「ごぼう、生姜、山菜、きのこですね」

「そう。ごぼうはそのままやと火が通りにくいから、先に味噌や塩で下味をつけて炊く。

細かく刻んで入れる。生姜も少し入れると香りが立つ」

「奈良や伊賀、大和高田向きですね」

「そうや。伊勢や鳥羽、津、桑名は海鮮焼き。奈良、伊賀、高田は山の恵み包み。

甘い方は福福焼き。小豆と砂糖が手に入れば、甘味にもできる」

お花は、少し呆れながらも笑った。

「旦那様、もう三種類できています」

「まだ試作や」

「試作の時点で三種類です」

ヨイチは帳面に書き込んだ。

「海鮮焼き。店内信楽焼、食べ歩き笹船、持ち帰り木箱。山の恵み包み。福福焼き。

返し道具の改良。金型追加四枚到着待ち」

「よう書くなあ」

「書かないと、後で全部増えます」

博之は、信楽焼の器に乗った海鮮焼きを眺めた。

「これは、化けると思う」

「十万文分、化けてもらわないと困ります」

「化ける。見た目がええ。焼いてる姿が面白い。中身を変えられる。しかも持ち歩ける」

お花が頷いた。

「お好み焼きは座って食べる楽しさがあります。これは歩きながらでも、少しずつ分けながらでも

食べられる。市や参道に向いていますね」

「そうそう。若い男女が二人で笹船を持って、一つずつ食べるとかもあるやろ」

「旦那様、またそこに戻るんですね」

「戻るやろ」

「表には出ないでください」

「まだ何も言ってへん」

台所に笑いが起きた。

藤井寺の職人たちが「十万文の飯遊び」と笑った金型は、たしかに飯遊びのようでもあった。

だが、その鉄のくぼみから出てきた丸い海鮮焼きは、食べる者の顔を明るくした。

信楽焼に乗せれば品が出る。

笹船に乗せれば歩ける。

木箱に入れれば持ち帰れる。

海では海鮮。

山では山の恵み。

甘くすれば福福焼き。

博之は、最後の一つを口に入れて、熱さに顔をしかめながらも笑った。

「これは、来年の目玉になるで」

ヨイチは静かに答えた。

「また帳簿が忙しくなりますね」

「それは知らん」

「知ってください」

お花は、信楽焼の器に残った青のりを見ながら言った。

「でも、これは当たりそうです」

博之は、得意げに頷いた。

「せやろ。器は使ってこそ、飯は見せてこそや」