軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

年の瀬の奈良でお坊さんと炊き出しをしながら交流してから変わったということをしみじみと話す。肉あんが炊き出しでウケてる

奈良にも、博之からの年末の手紙が届いた。

肉あんは値を改める。

しかし十二月は、炊き出しを厚くする。

炊き出しにも肉あんを入れる。

稼いだ分は、できる範囲で町へ返す。

ただし、すべてを救おうとして店を壊してはならない。

周りの飯屋を潰してもならない。

寺社、町、商人と相談しながら、身の丈でやること。

その文を受け取った奈良の僧たちは、しばらく顔を見合わせた。

「……年末に、炊き出しを厚くせよ、か」

「しかも、肉あんを入れよとある」

「伊勢神宮で話題になった、あの信楽焼の器で出したという肉あんですな」

「さすがに信楽焼では出せませぬが、炊き出しで出せるだけでも十分でしょう」

奈良の郊外では、すでに小さな炊き出しが何度か行われていた。最初は人の集まりも悪かった。

伊勢松坂屋との一件は、まだ悪い噂として残っていたからである。

百五十万文。

銭でこじ開けられた交流。

伊勢の飯屋に頭を下げた寺。

そう見る者もいた。

しかし、実際に飯を出し、僧自身が椀を配り、子どもや年寄りが温かい汁をすすっている姿を

見れば、少しずつ空気は変わっていく。

その年末、奈良の郊外だけでなく、城下に近い場所でも炊き出しを試すことになった。

寺の前には大釜が置かれ、伊勢松坂屋から届いた米、味噌、干物、野菜が並ぶ。そこに奈良の

豆や薬草も加えられ、香りのよい汁が炊かれていった。

僧たちは、慣れない手つきながら、椀を並べ、飯をよそい、列を整える。

伊勢へ行った年配の僧が、ふと笑った。

「まさか、今年の終わりに、我らがこうして飯を配っておるとは思いませんでしたな」

隣の若い僧も頷いた。

「本当に。これまでは、説法があるから来ていただき、檀家衆から寄進をいただく。

それが当たり前でした」

「年末なら、挨拶や法事の形で集まっていただくことはあった。だが、寺の方から飯を炊き、

人を呼ぶというのは、あまりなかった」

「今年は変わりましたな」

「変わりました」

年配の僧は、釜から立ち上る湯気を見つめた。

「格式や歴史に頼ることも、もちろん大事です。しかし、伊勢で見た松阪郊外の和尚様の寺は、もっと

地道でした。飯を出し、子どもに読み書きを教え、町の人と顔を合わせる。原点に立ち戻るとは、

こういうことなのかもしれません」

そこへ、伊勢松坂屋の者が、木箱を抱えてやって来た。

「肉あん、届きました」

蓋を開けると、小ぶりな肉あんが丁寧に並んでいる。

「今日は、お一人に一つずつでお願いします。数に限りがありますので、まずは子ども、年寄り、

病み上がりの方から」

「承知しました」

列に並んでいた子どもたちは、肉あんを見ると目を丸くした。

「これ、伊勢神宮で売ってるやつ?」

伊勢松坂屋の者が笑った。

「同じものです。ただし、伊勢神宮では信楽焼の器に乗せて出します」

「信楽焼?」

「遠いところの焼き物です。今日は器までは持って来られませんが、味は同じですよ」

子どもは大事そうに受け取った。

年配の町人も、肉あんを一口食べて驚いた。

「炊き出しで、こんなうまいものが出るんか」

「普通は、もっと粗末な飯やと思ってたわ」

「これはありがたいな」

その声を聞いて、僧たちは顔を見合わせた。

炊き出しというと、どうしても「食えない者へ最低限を配る」ものだと思われがちだった。

だが、今日の飯は違う。温かく、具があり、肉あんまでついている。

粗末な施しではなく、人を迎える飯だった。

若い僧が、静かに言った。

「飯がうまいと、人の顔が変わりますね」

伊勢松坂屋の者は頷いた。

「はい。飯を食べて、少し安心してもらう。そこから話を聞いてもらう。うちも、

最初はそれだけでした」

「これを続けられれば、寺も少し変わるかもしれません」

「変わると思います」

年配の僧は、少し先を見据えるように言った。

「信楽焼が名張や伊賀を通って奈良へ届く。その器を檀家衆に見せ、寄進をいただく。

その銭で炊き出しをする。炊き出しで人が集まり、寺へ足を運ぶ。その中の子どもに

読み書きそろばんを教える。字が読めるようになれば、伊勢松坂屋殿の売り場や荷場で

働けるかもしれない」

「はい。すぐには無理ですが、そういう口はあります」

「順繰り順繰り、回していくのですな」

「そうです。飯、器、寄進、学び、仕事。全部を一度にやるのは無理ですが、少しずつなら回ります」

僧は、列に並ぶ人々を見た。

最初は警戒していた者も、椀を受け取り、肉あんを食べると表情が和らぐ。子どもたちは

寺の庭で湯気を浴びながら笑い、年寄りは「またやってくれ」と言って帰っていく。

その一言が、僧たちには何より重かった。

「今回の騒動で、寺の評判は少し落ちました」

年配の僧がぽつりと言った。

「ですが、こうして一つずつ積み上げれば、また信を得ることもできましょう」

「はい。寄進を求めるだけではなく、まず飯を出す。寺参りに来てもらう。話を聞く。そこからですね」

「来年も、こういう形で続けたいものです」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

伊勢松坂屋の者が頭を下げると、僧たちも深く頭を下げた。

炊き出しが一段落した後、寺の縁側で温かい湯を飲みながら、僧の一人がふと言った。

「それにしても、伊勢松坂屋殿は、来年あたり京や堺へも伸ばすのでしょうな」

伊勢松坂屋の者は、苦笑した。

「旦那様なら考えているかもしれません。ただ、あの辺りは難しいです。京も堺も、力のある旦那衆、

寺社、武家、公家、いろんな筋がありますから」

「一筋縄ではいきませんな」

「はい。伊勢や奈良のようにはいかないと思います。じっくりです」

「じっくり、ですか」

「ええ。まずは奈良の炊き出しを続ける。信楽焼の会を整える。読み書きそろばんを始める。

そこからです」

年配の僧は、静かに笑った。

「確かに、京や堺の前に、足元ですな」

「旦那様も、怖がりながら進めると思います」

「怖がるのは良いことです」

冬の奈良に、炊き出しの湯気がまだ白く残っていた。

変な始まり方をした縁だった。

銭でこじ開けたような交流だった。

けれど、その縁は今、飯と器と学びを通じて、少しずつ町に根を下ろし始めている。

奈良の僧たちは、それを確かに感じていた。

来年もまた、この釜に火を入れよう。

人を呼び、飯を出し、話を聞き、少しずつ信を取り戻そう。

そう思える年の瀬になっていた。