軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

博之43歳12月3週目。2週末の数値4,840万文→6,117万文www堺、京都は無理しない。京都は草津からと奈良からの2方向で目指して京都郊外で交わる算段。尾張はじっくり。

「旦那様。楽しい楽しい帳簿の時間でございます」

ヨイチが帳面を抱えて入ってきた瞬間、博之は畳の上で顔をしかめた。

「もう嫌や。お伊勢さんの肉あんの数字が乗ってくるんやろ。聞くだけで震えるわ」

「では、先に合計から申し上げます」

「やめろ。心の準備をさせろ」

「一千二百七十七万文、増えました」

博之は、しばらく完全に黙った。

「……どんだけ増えてんねん」

「増えました」

「増えました、やないねん」

ヨイチは淡々と帳面を開いた。

「特にお伊勢さんです。伊勢神宮内の肉あん、魚のすり身揚げ、信楽焼の器による話題性、

周辺店への流れ、買い付け隊の強化。このあたりがすべて乗ってきまして、お伊勢さん関連だけで

三百三十一万九千文ほど稼いでおります」

「お伊勢さんだけで三百三十万?」

「はい」

「どんだけ稼ぐねん」

「信楽焼の器で出す、赤い海老あんを一つ入れる、神宮価格で百五十文を取る。

それが当たりました。さらに、それに伴って各拠点の肉あんの値段も改定しましたので、

他の拠点も大きく上がっています」

お花が横で苦笑した。

「旦那様のせいですね」

「成功して怒られるの、納得いかん」

「成功しすぎたからです」

ヨイチはさらに続ける。

「大和高田は、まだ仕込みと拠点固めの最中ですので、マイナス三十万文です」

「それはしゃあない」

「一方で、奈良はすでにプラスに転じています。郊外の炊き出し、信楽焼を使った寄進会、

肉あんの試験導入、写経や香、薬草のやり取りが少しずつ回り始めました」

「最初あんなに揉めたのになあ」

「飯を出せば変わります」

お花が静かに言った。

「そして伊賀です。伊賀三拠点は、寄進、道中整備、護衛、炊き出し、わらじや宿の補修まで含めて、

マイナス十五万文です」

「まだ赤字か」

「はい。ただし、全部込みでマイナス十五万です。飯屋単体なら、ほぼトントンまで来ました」

博之は、そこで少し表情を変えた。

「それはええな」

「はい」

「伊賀の人ら、やる気出るやろうな。あそこはずっと苦しかったから」

「信楽焼の道、奈良への道、伊勢への道、その中継としての価値が数字に出始めています」

「そこは厚めに返したいな」

ヨイチは頷きながら筆を走らせた。

「伊賀還元策、継続検討。炊き出し、宿の補修、わらじ、読み書きそろばん、と」

「すぐ帳面にするなあ」

「忘れないためです」

博之は、ため息をついた。

「で、結局、総額はいくらになったんや」

「前回四千八百四十万文。今回、一千二百七十七万文増加ですので、端数整理前で六千百十七万文

ほどです」

「六千万超えたんか」

「超えました」

「もう嫌や。撒こう」

「撒きましょう。ただし、計画的に」

ヨイチは、ここからが本題だという顔をした。

「次をどうするかです。利益がこれだけ乗るなら、京都、堺、尾張がそろそろ見えてきます」

博之は、すぐに首を振った。

「京都はややこしい」

「でしょうね」

「公家、寺社、商人、武家、変な筋、全部おるやろ。いきなり京都の中へ入ったら揉める。

だから京都は郊外からや」

「郊外ですか」

「うん。しかも、京都へ向かう道は二つで考えてる」

ヨイチが筆を止めた。

「二つ?」

「一つは奈良方面から上がる道や。大和八木、大和高田、奈良の郊外を固めて、

その先で京都の南側へ向かう。奈良の僧侶さんたちとの縁もあるし、寺社筋の話も使える」

「はい」

「もう一つは、草津方面からや。信楽、草津、関の流れを太くして、近江側から京都の外へ入る」

「なるほど」

「京都の中に入るんやなくて、京都郊外でその二つの道が交わる形にしたい。奈良から上がってくる

道と、草津から降りてくる道。その交わるところに、飯場と荷置き場と炊き出しの場を作る」

ヨイチは、少し目を細めた。

「京都そのものを取りに行くのではなく、京都へ入る手前の人と荷の交差点を押さえる、

ということですね」

「そうそう。京都の中は難しすぎる。でも、京都の外で、奈良から来る荷、草津から来る荷、

伊勢から来る小物、大和から来る香や薬草、信楽焼、そういうものが交わる場所を作れば、

こっちは情報も取れるし、商いもできる」

「それは大きいです」

「ただし、焦らない。寺社に筋を通す。地元の飯屋を潰さん。炊き出しもする。

あくまで京都郊外の飯場や」

お花が頷いた。

「京都の中に踏み込むより、その方が安全ですね。奈良の僧侶さんたちにも相談できますし、

草津側の筋も使えます」

「そういうことや。二つの道が交わる場所を作る。そこから京都の様子を見る」

ヨイチは帳面に大きく書いた。

「京都方面。奈良筋と草津筋の合流。京都郊外に飯場、荷置き場、炊き出し場。市中へは急がない」

「それで頼む」

「堺はどうしますか」

「堺もややこしい。あそこは商人衆が強いやろ。伊勢松坂屋です、肉あんです、

言うて雑に入ったら嫌われる。だから堺も郊外と道からや。海側の話は九鬼水軍にも相談せなあかん」

「堺本体にはすぐ入らない」

「入らない。まずは周り。荷が通るところ、飯を出せるところ、寺社や港の外側。そこで小さく始める」

「尾張方面は?」

「尾張は伸ばしたい」

博之は体を少し起こした。

「今、織田家が斎藤とバチバチやり合ってるやろ。そっちで忙しいはずや。伊勢の飯屋が

飯を配りながら、少しずつ尾張方面へ入っていっても、いきなり敵とは見られんと思う」

「尾張は、桑名、熱田、常滑あたりを見ますか」

「そうやな。四日市、桑名、熱田、常滑。常滑焼もあるし、港もある。尾張に入るなら、

飯と買い付けで入る。戦う気はない。飯を配ってるだけ、荷を通してるだけ、

炊き出ししてるだけ。その顔で行く」

お花が少し不安そうに言った。

「でも、戦の気配がある場所です」

「だからこそ、無理せん。旗は立てへん。城下には入らん。郊外と港と道からや」

「六角の観音寺城方面は?」

ヨイチが聞くと、博之はすぐに首を振った。

「今はいい。草津と信楽と関の道を固めるので十分や。観音寺城まで真正面に行くと、

政治の匂いが強すぎる」

「承知しました」

博之は、ゆっくりと息を吐いた。

「利益がこんだけ乗ってるなら、まず足元や。伊勢、松阪、鳥羽、伊賀、奈良、津、草津、四日市。

ここを固める。炊き出しも続ける。お礼札で周りの店にも客を流す。寺社にも筋を通す。

地侍にもちゃんと渡す」

「はい」

「その上で、京都は奈良筋と草津筋を郊外で交わらせる。堺は外から。尾張は桑名、熱田、

常滑を見ながら、飯と買い付けで伸ばす」

「かなり堅実です」

「怖いからな」

ヨイチは頷いた。

「良い怖がり方です」

「褒められてる気がせえへん」

お花が茶を差し出した。

「でも、今は大勝ちした後です。こういう時こそ、丁寧に撒くのが大事です」

「せやな。雑に撒くと恨まれる。雑に伸ばすと潰れる」

「はい」

ヨイチは、帳面に今期のまとめを書き込んだ。

「半月利益、一千二百七十七万文。総額、約六千百十七万文。お伊勢さん関連、

三百三十一万九千文。肉あん価格改定により各拠点上昇。奈良は黒字化。伊賀は全費用込みで

マイナス十五万、飯屋単体ではほぼトントン。次期方針は、足元固め、京都郊外、堺郊外、尾張方面」

「聞くだけで疲れる」

「まだ来年の入口です」

「やめてくれ」

博之は畳に転がった。

「六千万文持って、京都、堺、尾張とか、ほんま何してんねん」

ヨイチは即答した。

「飯屋です」

「便利すぎるやろ、その言葉」

お花が笑った。

「ただし、飯をまずくしない飯屋です」

博之は、そこだけは少し真面目な顔で頷いた。

「そこは絶対や。どこ行っても、飯はうまいままやる」

「では、来年もそれで」

「ぼちぼちな」

「はい。ぼちぼち、しかし確実に」

年の瀬の帳簿は、恐ろしい数字を示していた。

しかし、博之は浮かれず、京都の中心へ突っ込むことも、堺を飲み込むことも選ばなかった。

奈良から京都へ。

草津から京都へ。

二つの道が郊外で交わる場所を作る。

堺は外から。

尾張は飯と買い付けから。

足元には炊き出しと寺社と道を残す。

金は増えた。

だからこそ、丁寧に撒く。

それが、伊勢松坂屋の来年の道になりそうだった。