軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伊勢の城主から御呼ばれしたので奈良のお坊さんを連れて会いに行く。お好み焼き実演を週一でやっていいよwwwあと伊勢神宮にもう一軒出していいよ(笑)

伊勢の城主から、また文が届いた。

「奈良のお坊様方も来ておるのだろう。近況を聞きたい。遊びにおいで」

文を読んだ博之は、しばらく黙った。

「……遊びにおいで、て」

お花が横から笑った。

「近況報告ですね」

「近況報告にしては、言い方が軽すぎるやろ」

奈良の僧の一人が、少し困ったように言った。

「伊勢松坂屋様は、ずいぶんお殿様方に呼ばれるのですね」

「私が聞きたいです」

博之は肩を落とした。

「でも、断る理由もないしな。伊勢の城主には、ずいぶん筋を通してもらってるし」

そうして、博之は奈良の僧を数人連れて、伊勢の城主のもとへ向かった。

道中、奈良の僧たちはすでに慣れたもので、伊勢松坂屋の袴を着た案内役について歩き、

飯場で食事を取り、ところどころで寺社や商人と挨拶を交わしていた。

「私どもも、だいぶ伊勢松坂屋殿の道に慣れてまいりました」

「慣れんでいいところまで慣れてますね」

博之が苦笑すると、僧は穏やかに答えた。

「しかし、この道があるから我々も来られるのです」

「それ言われると、まあ、よかったなと思います」

伊勢の城主の屋敷に着くと、すでに笑いながら迎えられた。

「おお、来たか。最近の伊勢松坂屋さんは忙しそうやからな」

「忙しくさせられてるんです」

「いやいや、自分で広げてるやろ」

「否定できないのがつらいです」

奈良の僧たちも挨拶を済ませ、座敷に通される。博之が持ってきた肉あん、鯛味噌の混ぜ飯、

魚のすり身揚げ、柚子蜂蜜湯が並ぶと、伊勢の上司は満足そうに頷いた。

「相変わらず飯がうまいな。で、聞いとるぞ。長野の件」

博之は顔をしかめた。

「もうその話ですか」

「そらするやろ。面白かったぞ」

「面白がらないでください。こっちは松阪の城主にも散々からかわれてるんです」

「からかうに決まっとるやろ」

伊勢の城主は、肉あんをつまみながら笑った。

「普通、飯屋が長野の懐に入り込むか。しかも、城下には手を出さず、港と郊外だけ押さえて、

収入は保証して、上っ跳ねを取る。いやあ、見事やないか」

「見事とか言われると怖いです」

「長野家は、もういつでも北畠のものにできそうやな」

「物騒なこと言うのやめてください」

「いや、ほんまやぞ。あの状態なら、外から叩くより、伊勢松坂屋を通した方が早いかもしれん」

「もっと物騒になってる」

奈良の僧たちも、苦笑しながら聞いている。

伊勢の城主は、今度は少し真面目な顔で言った。

「ただ、わしらも笑ってばかりはいられん。伊勢松坂屋さんにいつ北畠の懐を握られるか、

怖くて仕方ないわ」

「握りませんって」

「握らんつもりでも、お前は胃袋を掴んどる」

博之は黙った。

「それは……まあ、飯屋なので」

「飯屋なので、やない。人の腹を満たす。しかも、うまい。高いけど恨まれにくい。

寺社にも金を落とす。周りの店も潰さんようにする。従業員には外で飯を食わせる。そら怖いわ」

奈良の僧が、静かに頷いた。

「確かに、恨まれにくい力というのは、非常に珍しいものです。武家の力は、どうしても

恐れや反発を伴います。ですが、伊勢松坂屋殿の場合、飯と仕事と道を通じて、人が集まってくる」

伊勢の上司が笑う。

「そうやろ。恨まれるのが少ないって、ほんま羨ましいわ」

「いや、敵を作らないように頭下げてるだけです」

博之は慌てて言った。

「いろんなところに銭を撒いて、寺社にも挨拶して、地元の店にも迷惑かけないようにして、

頭下げて、ようやくです」

「それができるのが強いんや」

伊勢の城主は、柚子蜂蜜湯を飲み、少し間を置いた。

「でな。伊勢神宮の方から話が来とる」

博之の動きが止まった。

「……何ですか」

「お好み焼きの実演、今は二週間に一回やろ」

「はい」

「あれを一週間に一回にできへんか、という話や」

博之は、目を丸くした。

「週一ですか」

「そうや。評判がええ。ご縁に伊勢の潮風を、やったか。あれがよう受けとるらしい」

奈良の僧たちが顔を見合わせる。

「あの青苔を振る所作ですね」

「あれは確かに華がございました」

伊勢の城主はさらに続けた。

「それと、もう一つ。店を一つ出してもええぞ、という話も来とる」

博之は完全に固まった。

「……伊勢神宮に、ですか」

「そうや」

「え、もう一軒?」

「一軒くらいなら、という話や。おすすめとしては、肉あん屋を出してみいひんか、と言うとる」

座敷が一瞬静かになった。

博之は、手元の肉あんを見た。

「肉あん屋……」

「お前のところの肉あん、話題になってるやろ。小さい。食べやすい。会話になる。

肉あん五つに、海老あん一つやったか。あの仕掛けも面白い」

「伊勢神宮で肉あん……」

博之は、嬉しさと怖さが混じった顔をした。

「それ、めちゃくちゃありがたい話ですけど、めちゃくちゃ怖いですね」

「怖がれ怖がれ」

伊勢の城主は楽しそうに笑った。

「たぶん、長野の一件も効いとるぞ」

「長野がですか」

「伊勢神宮側も見とるわけや。伊勢松坂屋が津の港と郊外まで整えて、揉め事を飯と荷で鎮めた。

しかも買い付け隊が半月に十五万文、伊勢で買ってるんやろ」

「はい。今は十五万文です」

「月に三十万文やぞ。そんな買い付けを戻されたら、お伊勢さん側も無視できんわ」

博之は頭を抱えた。

「買い付け隊、効きすぎやろ」

「効くに決まっとる。月三十万文落とす飯屋やぞ。しかも客を連れてくる。

お好み焼きで人を集める。肉あんも売れる。そら、向こうも少し場所を出してでも、つなぎ止めたい」

奈良の僧が、感心したように言った。

「やはり、品を買うという行為そのものが、関係を作るのですね」

「そうです」

ヨイチがいれば間違いなく帳面を開いていただろう、と博之は思った。

「でも、店を出すとなると、値段設定を詰めないといけません」

「そらそうや」

「伊勢神宮の中やから、安く出したらあかん。周りの店を壊しますし、伊勢の値段感もあります。

かといって高すぎたら売れない。売れすぎても供給が追いつかない。売れなさすぎたら顔が立たない」

「その辺は、お前なら分かるやろ」

伊勢の城主が言う。

「すでに二件ほど出してるんやろ。松阪と伊勢の横丁で」

「はい。松阪、伊勢、あといくつかの拠点で試しています」

「なら、だいたい分かるはずや。伊勢神宮では安く出すな。ありがたみが消える。

けど、ぼったくりに見えすぎてもあかん。珍しさ、所作、話の種、縁起。その辺を乗せて売れ」

博之は、うなずきながら考え込む。

「肉あん六個入りを、神宮内では少し上げるか……。海老あん入りを特別にして、竹の包みも良いものにして。青苔の演出はお好み焼きと被るから、肉あんは香りの演出かな。柚子味噌か、

海老の赤を見せるか」

「もう考え始めとるやないか」

「いや、考えますよ。これは大事です」

伊勢の上司は、にやにやしていた。

「嬉しそうやな」

「嬉しいです。でも怖いです」

「それでええ」

奈良の僧が言った。

「肉あん屋が伊勢神宮に出るとなれば、他の拠点の肉あんの価値も上がるのではありませんか」

博之は、ぱっと顔を上げた。

「そうなんですよ」

伊勢の城主が笑う。

「ほら来た」

「伊勢神宮に店が出るってことは、“お伊勢さんで売っている肉あん”になるんです。

そうなると、松阪や奈良や草津で出す肉あんも、全部値段が上がる理由ができます。

うちの他の肉あん屋の利益がぶち上がります」

奈良の僧が、少し呆れたように笑った。

「さすが、考えるところが早いですね」

伊勢の上司は腹を抱えた。

「お前、本当に飯屋やな。嬉しいより先に、他店の利益が上がること考えとる」

「いや、嬉しいですよ。でも商売として大事じゃないですか」

「大事や。大事やけど、そこまで素直に言うのが面白い」

博之は少し照れた。

「ただ、女衆の所作も必要ですね。肉あんは小さいから、包みを開けた時の見せ方とか、

海老あんを誰が食べるかで会話になるようにするとか」

「またご縁やな」

「ご縁です」

「ただし、お前は前に出るなよ」

伊勢の城主が即座に言った。

「なんで皆それ言うんですか」

奈良の僧まで微笑んだ。

「旦那様が前に出ると、ご縁が逃げると聞いております」

「奈良まで広がってるんですか、その話」

「はい」

座敷に笑いが広がった。

伊勢の城主は、最後に真面目な声で言った。

「まあ、これは良い話や。週一のお好み焼き。神宮内の肉あん屋。どちらも、

伊勢松坂屋にとって大きい。だが、伊勢神宮に入るということは、それだけ気も使う」

「分かってます」

「周りの店を壊すな。安売りするな。けど、伊勢松坂屋の面白さは出せ」

「はい」

「それと、買い付けは続けろ。月三十万文落とす相手やから、向こうも顔を立てとる。

買わんようになったら、風向きは変わる」

「そこは続けます。むしろ、肉あん屋が出るなら、買い付けも少し調整します」

「また増えるな」

「増えますね」

博之は、自分で言ってから頭を抱えた。

「ヨイチに怒られる」

「怒られてこい」

伊勢の城主は、楽しそうに肉あんをもう一つ食べた。

「しかし、本当に怖い飯屋やな。津の懐に入り、奈良の寺を動かし、草津へ道を作り、

今度は伊勢神宮に肉あん屋か」

「怖がってるのは私です」

「それがええんや。怖がりながら進め」

奈良の僧も静かに頷いた。

「恐れを忘れぬ者の商いは、まだ人を壊しにくいものです」

「ありがたい言葉のようで、怖いですね」

博之は茶を飲み、深く息を吐いた。

「でも、伊勢神宮に肉あん屋か……」

口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。

伊勢の上司はそれを見逃さなかった。

「ほら、嬉しそうやないか」

「嬉しいです」

「素直でよろしい」

「ただ、帳簿が怖い」

「そこはヨイチに任せろ」

「任せたらもっと怖いんです」

座敷は、また笑いに包まれた。

伊勢松坂屋は、ついに伊勢神宮の中に、もう一つ足場を得ようとしていた。

お好み焼きは二週に一度から週に一度へ。

そして肉あん屋は、伊勢の物語をまとって、新しい看板になろうとしている。

博之は、嬉しさと恐ろしさを抱えながら、ぽつりと言った。

「ほんま、飯屋ってどこまで行くんやろな」

伊勢の城主は、すぐに返した。

「お前が一番分かってへんのが面白いんや」