軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伊勢に到着するお坊さん一行。博之から買い食い代2万文をもらい困惑するが伊勢神宮に行き納得。お茶一杯30文の衝撃。魚のすり身が100文で売れている衝撃

船が伊勢の港へ近づくにつれ、奈良の僧たちは、まずその人の多さに目を奪われた。

港には荷を下ろす者、魚を運ぶ者、旅人を案内する者、飯を求める者が入り交じっている。

潮の匂いに混じって、焼き物、味噌、油の香りが流れてくる。

「……伊勢の港とは、これほど賑わうものなのですか」

若い僧が思わず呟くと、案内役は笑った。

「今日はまだ普通の方です」

「これで、普通ですか」

港の先には、伊勢松坂屋の横丁が見えた。遠目にも人の出入りが多く、女衆が茶を運び、

男衆が荷をさばき、旅人たちが腰を下ろして飯を食っている。

さらにその向こうに、内宮へ向かう人の流れが見える。

博之は、そこで懐から包みを出した。

「はい、これ」

年配の僧が受け取る。

「これは?」

「二万文あります」

奈良の僧たちは、目を白黒させた。

「二万文?」

「皆さん二十人ほどで動くでしょう。これは買い食い代です。うちの港の横丁で、

まず腹五分目くらいまで食べておいてください」

「腹五分目、でございますか」

「はい。マジで伊勢神宮は高いんで」

若い僧が、恐る恐る聞いた。

「これは……お小遣いとして、いただくということでしょうか」

「お小遣いというか、必要経費です」

僧たちは戸惑っていたが、年配の僧が静かに頷いた。

「いただいておきなさい」

「よろしいのですか」

「ここまで来て分かったでしょう。伊勢松坂屋殿が“金が溶ける”と言う時は、おそらく本当に溶ける」

博之は大きく頷いた。

「ほんまに溶けます」

僧たちはいぶかしげながらも、ありがたく受け取った。

そして内宮の方へ向かう。

そこで彼らは、さらに驚いた。

人の入りがまるで違う。

伊勢の国の中に、こんなにも人が集まる場所があるのか。奈良の大寺にも人は来る。だが、

ここの空気はまた違った。旅人、商人、武士、女衆、老人、子ども。祈りに来た者、

土産を探す者、飯を食う者。すべてが混じり合っている。

「これは……町そのものが参道なのですな」

年配の僧が感心したように言った。

道端では、茶が売られていた。

「茶一杯、三十文」

若い僧が札を見て、思わず声を漏らす。

「本当に三十文……」

「だから言うたでしょう」

案内役が笑う。

周囲には土産物屋が並び、櫛、布、小物、菓子、札、器、海の物、山の物、何やら

見慣れない品まである。奈良にも門前はあるが、ここは参拝客が銭を使うことを前提に、

町全体が動いているように見えた。

その角の一つで、香ばしい匂いがした。

魚のすり身を棒状にし、油で揚げたものが並んでいる。

「八十文、百文でございます」

と聞かされていた品だ。

僧たちは、値段だけ聞いた時には正直高すぎると思っていた。だが、目の前では、

それが飛ぶように売れている。

参拝客が足を止める。

熱々を受け取る。

その場でかじる。

同行者に勧める。

また一つ売れる。

「……売れておりますな」

「売れてますね」

「本当に、飛ぶように」

若い僧は、半ば呆然としていた。

「魚のすり身を揚げたものが、百文で……」

博之は少し得意げに言った。

「伊勢で、熱々で、参った後に食うから値がつくんです」

年配の僧は、目の前の人波を見つめた。

「場所、物語、人の流れ……先ほど九鬼様がおっしゃっていたことが、目で分かりますな」

まだ内宮の奥へ参る前である。

それなのに、奈良の僧たちはすでに何度も驚かされていた。

若い僧の一人が、思わず笑った。

「まだ伊勢神宮へ入ってもおらぬのに、もう腹も頭もいっぱいです」

博之も笑った。

「だから、先に腹五分目って言うたんです」

伊勢の賑わいは、奈良の僧たちが知っている寺社の世界とは、また違う形で生きていた。

祈りと商いと飯が、同じ道の上で息をしていた。