軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

信楽から草津を考えていたが、街道で考えたら北伊勢の関からの方が安全であることがわかる。二か所から草津を取りに行く。とりあえず20万文撒きながら郊外を押さえに行く

博之は、信楽から草津を見るつもりでいた。

伊賀を越え、信楽へ入り、その先に草津がある。そういう感覚で考えていた。

信楽焼の道を伸ばせば、そのまま草津へ届く。そう思っていたのだ。

ところが、話を聞いていくうちに、別の筋が見えてきた。

「……関から草津へ入れるんやな」

博之がぽつりと言うと、ヨイチが帳面から顔を上げた。

「東海道筋でございますね。関から鈴鹿峠を越え、土山、水口を経て草津へ入る道です」

「知識不足やったわ。伊賀から信楽へ行く方が、信楽焼の道としては意味がある。

けど、草津を押さえるなら、関から入った方がええんちゃうか」

「距離はありますが、街道筋です。伊賀越えよりは、荷の道として安定する可能性があります」

博之は、畳に寝転がったまま天井を見た。

「やっぱりそうか。信楽焼の買い付け隊は今まで通り伊賀からでもええ。

あっちはあっちで意味がある。伊賀、名張、大和へ抜ける話もあるし、信楽焼を伊賀越えで

松阪や伊勢に持ってくる意味はまだ大きい」

「はい」

「けど、銭をさらに大量に持って行くなら、伊賀の山道は危ない。二十万文とか持って行くなら、

関から草津に入れる方がええな」

その瞬間、ヨイチとお花が同時にぴくりと動いた。

「旦那様」

「はい」

「今、二十万文とおっしゃいましたか」

「言うた」

「そんな大金を持っていくのですか」

「持っていく」

お花が少し眉をひそめた。

「草津に、そこまで入れますか」

「入れる価値があると思う」

博之は起き上がった。

「草津を押さえる意味は、かなりでかい。信楽の先としてだけ見てたらあかん。

関から草津に入れるってことは、伊勢のもの、松阪のものを街道筋で上げられる。

逆に草津から近江、京都、大津、瀬田の情報が降りてくる」

ヨイチはすでに筆を取っていた。

「関から草津への道。草津から信楽への道。二本の道を意識する、ということですね」

「そう。草津で郊外の拠点を得る。そこから、関と草津の間に一つ、草津と信楽の間に一つ、

中継の拠点を作る」

「二か所」

「うん。飯場、荷置き場、湯、簡単な寝床。最初から立派な横丁じゃなくていい。けど、

道中の寺社仏閣にはちゃんと寄進して、顔をつなぐ。道を作るというのは、道に銭を

落とすということや」

お花は静かに頷いた。

「伊賀で学んだことですね」

「そう。長野の若い衆が見てきたやろ。袴一つで通れるわけやない。飯、銭、顔、寺、荷置き。

全部そろって、ようやく道になる」

博之は指を折る。

「草津に拠点を持つことで、信楽の人らも商売しやすくなる。今までは信楽からこっちへ

持ってくる道が中心やった。でも草津へも出せるようになると、信楽焼の出口が増える」

「信楽側にも利がありますね」

「ある。しかも、草津に伊勢の小物や松阪木綿を持っていける。伊勢の青苔、鳥羽の干物、

松阪の木綿、肉あんの作り方、蜂蜜饅頭。そういうものを草津で見せられる」

「草津は交わる場所になりますね」

「そこや。草津は物流の交差点になる。東海道筋の人も来る。近江のものも来る。京都の情報も来る。

信楽の焼き物も来る。伊勢と松阪の品も置ける。これはただの飯屋の出店やなくて、買い付けと

情報の拠点や」

ヨイチが帳面に書き込みながら言う。

「郊外三、街中三、港三、という構想を以前おっしゃっていましたが、草津は港というより

街道と川筋でしょうか」

「港という言い方は違うかもしれんけど、水の便、荷の便、旅人の便はあるやろ。まずは郊外。

次に街中。そこから荷の集まるところ。三つずつは大きく見すぎかもしれんが、将来的には

それくらい見ておきたい」

「六角様への筋も必要です」

「もちろんや。草津に入るなら、六角様のお膝元ということもある。観音寺城への筋は、

ゆくゆく必ず通さなあかん。いきなり大きくやるんじゃなくて、寄進、飯会、買い付け、

寺社への顔出しからや」

お花が言った。

「京都も近くなりますね」

「そう。草津まで行けば、京都の情報がかなり近い。下手したら二日くらいで話が届く。

砂糖、薬種、紙、香、茶、針、染め物。全部、今より情報が早くなる」

「旦那様、これは確かに大きいですね」

「やろ」

博之は少し得意げになった。

「だからここで金を絞ったらあかん」

「金を絞ったらあかん、ですか」

「うん」

「それとも、金が余りすぎて撒きたいだけですか」

お花がすっと刺した。

博之は一瞬黙った。

「……両方やな」

座敷に笑いが起きた。

ヨイチはため息をつきながらも、筆は止めない。

「二十万文を持たせるなら、護衛、人選、道中の寄進、予備費、荷の種類、帰り荷まで決める

必要があります」

「分かってる。銭だけ持たせるのは危ない。伊勢小物、松阪木綿、信楽焼の見本、肉あんの道具、

青苔、蜂蜜饅頭。この辺を見せ荷として持たせる。銭は分けて持つ。寺社への寄進は別に包む」

「関から草津への道中で、一つずつ味方を作るわけですね」

「そう。道をこじ開ける。力で開けるんやない。飯と銭と礼で開ける」

博之は、少し真面目な顔になった。

「伊賀の道は、苦労して作った。だから大事にする。けど、草津の道はもっと広い意味がある。

ここが開くと、うちは京都の匂いを嗅げる。信楽も生きる。関も生きる。北伊勢にもつながる。

松阪木綿も外へ出せる」

「情報も入ります」

「それが一番でかい。京で何が流行ってるか。砂糖がいくらか。薬がどこから来るか。

茶の道具がどう動いてるか。足利将軍家がどう動いてるか。六角がどう見てるか。

そういう話が草津には集まるはずや」

お花が茶を差し出した。

「旦那様、今回はただの思いつきではなさそうですね」

「珍しくな」

「自分で言いますか」

「でも怖いわ。二十万文やで」

ヨイチがすぐに返す。

「旦那様が言い出しました」

「せやねん」

「では、やりましょう。ただし、帳簿に残します」

「帳簿かあ」

「二十万文ですので」

「逃げられへんな」

博之は茶を飲み、少しだけ笑った。

「草津は、急がず急ぐ。地元の人と仲良くできるなら進める。揉めるなら止める。

でも、情報収集は絶対にする」

「承知しました」

「関から草津。草津から信楽。この二本の道を作る。そこに飯場と荷置き場を置く。

寺社に寄進する。人を送る。交流させる」

博之は、最後にぽつりと言った。

「ここを開けたら、うちは一段変わる気がする」

ヨイチは帳面を閉じた。

「では、草津道開きとして記しておきます」

「名前つけるな」

「もうつけました」

「まあ、ええか」

座敷の外では、買い付け隊の者たちが荷を整えている。

伊賀の山道とは別に、関から草津へ。

信楽焼の道とは別に、草津の情報の道へ。

伊勢松坂屋は、また一つ、銭を撒いて道を作ろうとしていた。