軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

楽しい帳簿の時間www9月3週目。2週目末で1,573万文→2,094万文へ。伊賀方面の収支のめどがたつ

「旦那様。楽しい楽しい帳簿の時間でございます」

ヨイチが帳面を抱えて入ってきた瞬間、博之は畳の上で手を振った。

「もうええやろ。最近いろいろありすぎたやん。長野の若い衆が伊賀越えて、信楽行って、

伊勢ではお好み焼きの話が進んで、津はなんか反省して、大和も北伊勢も動いてる。

帳簿とか、もう今日はええんちゃう?」

「よくありません」

「即答やめて」

「こういう時こそ帳簿です。騒動がある時ほど、銭の流れを見ておかないと、

あとで訳が分からなくなります」

お花が茶を置きながら頷いた。

「旦那様、逃げないでください」

「帳簿から逃げてる時に限って飯が降ってくるんやけどな」

「今日は降らせないでください」

ヨイチは帳面を開いた。

「では、ざっくり申し上げます」

「ざっくりで頼む。細かく言われると倒れる

「松阪、伊勢、鳥羽は順調です。ここはもう稼ぎ頭です」

「まあ、その辺は分かる」

「松阪は本店として安定。伊勢は相変わらず内宮周りの力が強い。鳥羽は港飯と魚の流れが乗ってきました。鮪、すり身、干物、蛸、海藻。今後も伸びます」

「怖いなあ」

「次に、伊賀、名張、信楽です」

「そこは赤字やったやろ」

「それが、ほぼプラスマイナスとんとんになりました」

博之は起き上がった。

「ほんまか」

「はい。一口肉あん、包み焼きの応用が効いています。伊賀では山菜あん、名張では大葉と味噌、

信楽では漬物と味噌だれを使ったものが受け始めています」

「肉あん、やっぱり効いたか」

「効きました。もちろん信楽焼そのものの道としての利益もありますが、現地の横丁が自分の

飯を持てたのが大きいです」

お花が嬉しそうに言った。

「現地の人たちも、自分たちが支えられているだけではなく、稼げるものを持てたと感じている

ようです」

「それはよかったな」

「北伊勢も順調です」

ヨイチは次の頁をめくった。

「白子、関、亀山方面は、港と街道の組み合わせがよく動いています。紙、墨、青苔、灯り物、

宿場向けの小物。四日市へ向けた情報も集まっています」

「北伊勢は津より早いな」

「それは言わない方がよろしいです」

「言わん」

「大和八木については、郊外に加えて、城下町を立ち上げるところまで来ました」

「おお。あそこ、寺社とか筒井とか松永とか、ややこしい言うてたのに」

「ややこしいです。ただ、飯会を重ねたことで、少しずつ筋が見えてきました。すぐ大きくは

できませんが、城下に小さく入る準備は整いつつあります」

博之は腕を組んだ。

「ほな、全体では?」

ヨイチは、少しだけ間を置いた。

「まるっと、プラス五百二十一万六千文です」

博之は、目を閉じた。

「聞かなかったことにしてええ?」

「だめです」

「五百二十一万って何やねん」

「利益です」

「言われんでも分かるわ」

「あと、買い付け隊の増額分ですが、伊勢と松阪は予定通り十万文ずつにしておきました」

「おお、そこはちゃんとしたんやな」

「伊勢十万文、松阪十万文。これで伊勢にも松阪にも顔が立ちます。信楽方面、

北伊勢方面へ流す品も増えます」

「で、合計は?」

ヨイチは無表情で言った。

「二千九十四万文です。おめでとうございます」

「めでたくない。怖い」

「怖いですが、事実です」

「うち、別にでかい屋敷に住んでるわけちゃうねんぞ。一気に狙われたら終わりやぞ」

「ですから、抱え込まずに撒く必要があります」

「どんどん撒かなあかんな」

「はい。ただし、無駄に撒くのではなく、意味のある形で撒いてください」

博之は少し考えた。

「伊勢の謎の二十万文の内訳の中に、鉄板を入れといてくれ」

「お好み焼きの件ですね」

「そう。半月に一回、内宮に関わるイベントでやるなら、鉄板も丸型も、火の道具も、

青苔の竹筒も、ちゃんとしたものにせなあかん」

「承知しました。伊勢謎二十万文の中に、鉄板、丸型、火の番、竹筒、青苔仕上げ道具、寄進帳面、

女衆の支度代を含めます」

「女衆の支度代?」

「“よきご縁に、伊勢の潮風を”と言わせるのでしょう。見た目も大事です」

「それや。俺が言えへんぶん、女衆にきれいに言うてもらわなあかん」

お花がすぐに言った。

「旦那様は本当に言わないでくださいね」

「分かってるって」

「目が言いたそうです」

「我慢する」

博之は、さらに続けた。

「松阪と伊勢は、このお好み焼きのイベントを軸にして、内宮を目指す流れを作りたい。ご縁を焼く、

伊勢の潮風をかける。これを伊勢松坂屋の物語の一部にする」

「かなり強いです」

ヨイチもそこは認めた。

「ただし、半月に一度となると、仕組み化が必要です。鉄板だけでなく、人の配置、火の安全、

寄進の扱い、客の流れ、材料の調達。全部費用に入れてください」

「分かった。そこはケチらん」

博之は、今度は帳面の端を見た。

「あと、拠点の立ち上がりを早めるために、頭間工事というか、仮の小屋とか、荷置き場とか、

飯場とか、そういうのにもっと費用を出してもいいかもしれんな」

「仮設費ですね」

「そうそう。最初から立派な横丁にせんでも、雨風しのげるところ、荷が置けるところ、

飯が出せるところがあれば、人は安心するやろ」

「それは有効です。特に四日市、草津、大和八木の先では効きます」

「次はその辺やな」

博之は指を折った。

「四日市。草津。大和八木の先、大和高田。このあたりは特急で進めるのも悪くない」

「特急で、ですか」

「ただし、無理はせん。地元の人と仲良くやれるなら早める。揉めそうなら止める。

うちは武力で押し込む店ちゃうからな」

お花が頷く。

「土地の人が受け入れてくれるかどうかが大事ですね」

「そう。横丁は、建てたら終わりちゃう。そこで飯を食う人、働く人、周りの寺社、顔役、

他の店。全部と付き合わなあかん」

ヨイチは帳面に書き込んだ。

「四日市、草津、大和高田は重点調査。仮設費、飯場、荷置き場、火の番、現地人員の確保。

急ぐが、地元関係を優先」

「情報収集はちゃんとしてくれ。草津なら餅、瀬田ならしじみ、大津なら京都の情報。

四日市なら市と港。大和高田なら堺へ向かう道。そこを見んと、ただ店出しても意味がない」

「承知しました」

ヨイチが筆を止めた。

「それにしても、旦那様」

「なんや」

「二千九十四万文あります」

「言うな」

「使わなければ狙われます」

「だから撒く」

「撒きすぎれば帳簿が増えます」

「詰んでるやん」

お花が笑った。

「でも、旦那様。銭を抱えて震えているより、飯場や鉄板や買い付けに変えて、人を動かす方が、

旦那様らしいです」

「そうやな」

博之は畳にごろりと寝転がった。

「二千九十四万文か。もう怖すぎるから、次は何作ろかな」

「旦那様」

「冗談や」

「本当に冗談ですか」

「半分ぐらい」

ヨイチが深くため息をついた。

「では、次回の帳簿には“旦那様の思いつき対策費”をさらに増やしておきます」

「そんな項目作るな」

「もうあります」

「あるんかい」

座敷に笑いが起きた。

松阪、伊勢、鳥羽は稼ぎ、伊賀、名張、信楽は自分の飯を持ち、北伊勢は順調に伸び、

大和八木も城下へ近づいている。

銭は増えた。

怖いほど増えた。

だからこそ、抱えず、撒き、道にし、飯にし、人にする。

博之は天井を見ながら呟いた。

「まあ、急がず急ぐか」

ヨイチが頷いた。

「それがよろしいかと」

お花が茶を差し出した。

「まずは帳簿を閉じて、お茶にしましょう」

「やっと終わりか」

「いえ、休憩です」

「まだあるんか」

「二千九十四万文ありますので」

「ほんま怖いわ」

そう言いながらも、博之の顔には、どこか諦めたような笑みが浮かんでいた。