軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

久しぶりの実家

「奥様、ご実家のお母様からお便りが届いておりますよ」

もうすぐ旦那様が帰ってくる時間なのでサロンで待機していると、侍女さんがお母様からの手紙を持ってきました。

あまり里帰りしない私に、たまに実家の様子をこうして知らせてくれるのです。

「ありがとう! あら、今日はやけに分厚いわね」

いつもはせいぜい便箋一、二枚程度なのに、今日の封筒はなんだか膨らんでます。何か同封してるのかしら?

いそいそと封を開け中身を取り出すと、お母様からの手紙と共に、実家の執事のオーキッドからの手紙が入っていました。それが分厚い原因でした。

「オーキッドからって、珍しいわね〜」

むしろ初めてかもと思いながらオーキッドからの手紙を開くと、そこには古くなって少し黄ばんだ手紙が包まれていました。

「なんだこれは?」

そう言いつつ開けたそれは−−。

「子供の頃に手習いで書いたやつじゃない−−」

年季を感じさせる紙には、『あなたのその優しい瞳が大好きです』などなど、幼き頃の私が丁寧に一生懸命書いた文字が書かれていました。

「上手に書けたからうれしくなって、オーキッドにあげたんだっけ」

「あら、オーキッド様は大事にとって置かれたのですね」

ステラリアが柔らかく微笑みました。

「みたいね〜。確か侍女の一人がとても字が上手だから、それを真似しなさいって、手紙みたいなものを渡されたんだったかな……? 今読み返すとこれ、恋文よね。私ったら知らずにこれを模写してたのか……」

わからないって恐ろしい。つーか、侍女! そんなものをテキストとして渡さないでいただきたい!

……まあ、昔のことです水に流しましょう。

お母様からの手紙には、フリージアが学校に行くのでそろそろ準備をしようとしていることが書いてありました。

そっかぁ、フリージアも学校に行く歳になったのかぁ。

妹の成長がうれしい姉です。

フリージアの制服姿を想像してニヤニヤしているところに、

「旦那様がお帰りになられました」

侍女さんの声がしたので慌てて手紙を片付けてエントランスに急ぎました。

「そろそろフリージアも学校に行く準備をするらしいんですよ。学用品とか服とか、色々揃えるんだろうなぁ」

母からの手紙のことを、食後のお茶の時に旦那様に話しました。

私が通っていた庶民派な学校ではなく、シスルが通っているセレブ学校にフリージアも入る予定です。ちなみにシスルは最初私と同じ学校に通っていたのですが、私が結婚してからセレブ校に編入しました。もちろん公爵家の意向で、なおかつ学費も公爵家持ち。

うちの両親は庶民派学校でいいと言ったのですが、「セキュリティの面やこれからのことを考えると あっち(セレブ学校) の方がいい」と、そこは旦那様に押し切られました。なんなら家庭教師を派遣するとも言われましたが、それは丁寧に辞退し、学校に通う方を選択したそうです。

「制服は家にまで採寸にくるだろう?」

「そうみたいですね。そんなことを母が言ってました。フリージアが制服かぁ、かわいいんだろうなぁ」

「フリージアはヴィーによく似てるからね」

「いやいや、フリージアの方が断然かわいいですよ! 私と比べるなんてめっそうもない!」

旦那様、フリージアに謝ってください! というのは冗談ですが、フリージアの制服姿は見てみたいし、できたら一緒に学用品も見に行きたい。

久しぶりにフリージアと手をつないで町中デートとか、超楽しそう!

私がフリージアとの楽しいデートに妄想を膨らませていると、

「ヴィー、なんか楽しそうだねぇ。なんだったら実家に帰って一緒に支度の手伝いすればいいんじゃないか?」

旦那様が何気なく言ってくださいましたよ珍しい! 思わず二度見してしまいましたが。

神ですかあなた!

「え? いいんですか?」

「行きたいんでしょ? お小遣いも渡すから、フリージアの好きなものを買ってあげればいいよ。きっとこれから要るものはたくさんあるだろうし」

神だわ、あなた。(断定)

「ありがとうございます!!」

「しばらくゆっくりしてきていいよ」

ニコッと笑って言う旦那様。超珍しい!

私が実家とか別棟に行くって言った日にゃ、「僕も行きます」とか「いつ帰ってくるの?」って言うのに。

……ん? なんか怪しい?

「−−何か企んでます?」

思わず疑いの眼差しで旦那様を見てしまいましたが、

「企んでないよ、なんでそうなる! ……うん、まああれだ。あんまり束縛するのもなんだと思ってね。重たい男って思われるのもなんだし……」

コホンと咳払いをし視線をあちこち彷徨わせ、バツが悪そうに旦那様が言いました。

そういうことでしたか!

耳まで赤くしている旦那様を見ていると笑いがこみあげてきます。

「クスクス。そんなこと思ってたんですか? 全然思ったことないですよ〜。ではお言葉に甘えて、フリージアのお支度手伝ってきますね!」

「帰るときは迎えに行くから、知らせて」

「は〜い! 事前にお知らせします!」

ということで、私の里帰りが決定しました。

久しぶりの実家、しかもゆっくりしてきていいよっていう旦那様のお墨付き。のびのびさせていただきますよ〜! って言ってもここは実家。働かざるもの食うべからずは相変わらずで、私も家事手伝いはさせられます。公爵家でも毎日やってるから苦にならないけどね☆

そうして実家で過ごしていると、学校指定の業者がフリージアの採寸にやってきました。

私が学校に通ってた頃、まわりの同級生たちが憧れていたセレブ校の制服です。まさか自分の弟妹が着るとは思わなかったさ。

採寸が終われば、次はいろいろ買出しです。

ペンとかペンケースとか、かわいい雑貨とか持ってるだけでも気分が上がりますからね! 軍資金も、旦那様からたくさんもらってきたから安心して!

「お姉ちゃまとかわいい雑貨屋さんに行こうか」

「うん! 行く!」

「お母様、フリージアとちょっと町へ買い物に行ってきていい?」

眼をキラキラさせて私に飛びついてくるフリージアを抱きとめて、お母様に向き直りました。

「いいけど気をつけてね。って、まあ、護衛がついてくるんだろうけど」

「なに?」

「いいえ。夕飯までには帰ってきなさいよ」

「「は〜い」」

私はフリージアと手をつなぎ、二人でルンルンしながら町へ繰り出しました。

護衛? そんなの知りませんよ??

「お姉ちゃま! 見て見てかわいいペン!」

「あらほんとね! ペンは二、三本持っていた方がいいわよ。壊れたりした時の替えにね」

「うん、わかった!」

「赤色のペンも忘れずにね」

「はーい」

フリージアと二人でゆっくり町の中を歩きました。

いろんなお店を回って要るものを買ったり、歩き疲れたらカフェで休憩したり。カフェといえば、前に旦那様と一緒に行ったレモンマートルのお菓子屋さんに行列覚悟で行ったのですが、なぜか店員のお姉さんが私のことを覚えていてくれて、特別に席を作ってくれました。ビップ待遇にドギマギしましたよ!

一日町中をうろうろして、夕飯までには家に帰り着いたのですが、

「学用品しか買えなかったね。もっとお洋服とか買ってあげたかった!」

タイムオーバーで悔い残りまくりです。

やっぱり服もいると思うんですよ。しかもフリージアは私と違ってかわいいから、何着ても似合うし。私は別にいらないけど、フリージアには買ってあげたーい!

私が一人騒いでいると、

「ヴィー、うるさい! じゃあまた明日行けばいいでしょ」

お母様に怒られてしまいました。

そうか、そうですよね! 明日があるさ!

「そうね、また明日行けばいいか! って、いつまで 実家(ここ) にいる気なのかしら私」

もう実家に帰ってきて四日は経っています。お迎えが来ないといつまでもいそうな自分が怖い。

私が真剣に言うと、

「早く帰ってあげなさい! 自分の旦那様をいつまでもほったらかしにしないの!」

「がーん! ごめんなさ〜い!」

お母様に怒られてしまいました。

そうですね、そろそろ帰らないとアノヒトまわりに迷惑かけまくるからなぁ。

『ヴィオラ切れだ!』とか言ってるだろう旦那様が浮かんできて、一人クスッと笑っていると、

「ああそういえば、今日あなたたちが出かけている間に騎士団の方が来られたわよ?」

「え? 騎士団の方?」

旦那様の部下の方でしょうか?

「えんじ色の制服着てた?」

「着てたわね。近衞騎士様だから、公爵様の部下の方でしょ?」

部下の方でしたか。でもなんで?? 帰宅の催促なら自分で出向いてきますよね、アノヒト。

「何の用だったの?」

「ヴィーが小さい頃に手習いで書いた手紙あったでしょ。あれを持ってきて『これは何か』と尋ねて行ったらしいわ。オーキッドが応対したから詳しくはわからないけど」

「あれ? それ先日オーキッドが私宛に公爵家に送ってくれたやつよね? なんでサーシス様の部下の方が持ってるのかしら? 恥ずかしいからやめてほしいんですけど……」

どうせ出元は旦那様でしょうけどね!

オーキッドからの手紙は、受け取ったあの日に片付けたはずなんだけど……? そういやあの時、旦那様が帰ってきたから慌てて手紙を片付けたんだっけ。私ってば、サロンに忘れてたのかしら。

どっちにしても恥ずかしいわ、あの手習い。もう一回恨んでおきますよ、侍女〜〜〜っ!!

「まあいいや。明日フリージアとお出かけするから、明後日にはお屋敷に帰るってサーシス様にお手紙書こうっと」

「迎えに来てもらうの?」

「帰りは知らせろって言われてるの〜。オーキッド〜、これをお屋敷に届けてくれる〜?」

「かしこまりました」

「……天下のフィサリス公爵殿を足がわりにできるお前はすごいよ……」

私がチャチャッと旦那様宛に手紙を書いたのをオーキッドに渡しているとお父様が遠い目をして何かつぶやきましたが、よく聞こえませんでした。

「お父様、何か言った〜?」

「いや……」

そうですか。

二日後。

お仕事帰りにユーフォルビア家に寄ってくださった旦那様と一緒に、私は公爵家に帰りました。

「今回は随分ゆっくりしてたね」

「はい! フリージアと買い物にも行けましたし、制服の採寸も立ち会えたし、充実してましたよ〜」

「それはよかった」

にっこり笑う旦那様ですが、ちょっとやつれました? 私がいない間、お仕事大変だったとか?

「サーシス様、ちょっとやつれてませんか? お仕事、そんなにお忙しかったんですか?」

「違う。これはヴィオラ切れを起こしてたからだよ!」

「…………」

やっぱりか。

一瞬ジト目になりましたが、まあこれは想定内。それよりも聞きたいことを思い出した私。

「あ、そうそう。先日サーシス様の部下の方がうちに来られたみたいなんですけど。どうして部下さんが私の書いたお手紙持ってたんですかね?」

「あ〜、あれは……。家の廊下に落ちてたのをたまたま拾って、誰宛かすごく気になったから調べただけで……」

旦那様が目を泳がせながら答えました。

誰宛もなにも、ただの手習いですから宛名なんて書かないですよ!

「あれは上手に書けたんで、オーキッドにあげたんですよ~。え? 廊下に落としてました? もお、恥ずかしいですね!」

片付けは慌てちゃだめですね!

私が書いた恋文じゃないけど、やっぱり恥ずかしいので真っ赤になっていると、

「できれば宛名を書いておいてほしかったですねぇ」

そしたらいらぬ騒ぎを起こさなくて済んだのに、と旦那様が付け足したのは聞こえなかったことにしておこう。

「? だってただの手習いですし」

「ソウデスネ」

「それに恋なんて一生しないと思ってましたからね!」

「……うちの奥さんが枯れ子だったの、忘れてた……」

そう言って旦那様が片手で顔を覆っています。失礼ですね!

「もう枯れ子じゃありません!」

「だね」