軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

急な来客

特にこれといって用事のないいつもの日。ってまあ、私の場合それがほとんどですけどね。

朝から機嫌よくお仕着せを着て洗濯に没頭しいい汗かいてから、いつも通りお昼ご飯を使用人さん用ダイニングでいただきました。

そしてそのまま食後のお茶をいただいていた時、

「奥様、ただいまサングイネア侯爵令嬢様からの使者がいらっしゃっておりまして、こちらをお預かりしているのですが」

そう言ってロータスがダイニングにやってきました。その手にサングイネア家の家紋が入った封筒を持って。

アイリス様から? はて、何かご用でもありましたっけ??

お手紙なんてもらうことがほとんどありませんからね。なにせ友達なんていないに等しいですから。

私はロータスから手紙を受け取り、中をあらためました。

「なんでしょうねぇ? ……ふむふむ、美味しいお菓子とお茶が手に入ったので遊びに行ってもいいですか? って? え、今日? そんな急に? ワタシ的には別にこれといって予定ないから全然いいけど……。ロータスはどう?」

アイリス様からの手紙には『今日、公爵家の近くに行く用事があるので、せっかくだし遊びに行っていい?』というようなことが書いてありました。

別に私はいつでも暇ですけどね。これを今の時間ここで受け取ってる時点で暇確定ですし。

ワタシ的都合はオッケー、あとは 公爵家(うち) 的なものだけです。

私がロータスに都合を確認すると、

「問題ございません」

あっさり返ってきました。

「じゃあ、その旨使者の方にお伝えして」

「かしこまりました」

ロータスは一礼すると、ダイニングを出て行きました。

「急な来客ですね」

ステラリアが茶器を片付けながら言いました。

「そうね。アイリス様がいらっしゃる時間はあとでロータスに確認するとして、今は早くお着替えして準備しなくちゃ」

「そうでございますね」

今の私は下っ端メイドのヴィーちゃん仕様ですからね。お仕着せ来てお客様をお迎えなんてできません!

私は支度をするべく、寝室に向かいました。

着替えてお化粧して髪を結って、バタバタとしているうちにアイリス様がいらっしゃいました。

「今日は急にごめんなさい。珍しいリョクチャと、ヨウカンというお菓子が手に入りましたので、ヴィオラ様とご一緒できたらなぁと思いまして」

そう言って手土産に、珍しいお茶とお菓子を持ってきてくださいました。

「まあ、うれしいです! ありがとうございます。さあ、どうぞ」

私はアイリス様をサロンへと案内しました。

今日はなんの支度もしていませんから、庭園ではなくサロンでのおもてなしです。サロンからも庭園は見えるので大丈夫。

滅多に出回らない珍しいお茶だというのに、うちの侍女さんてば完璧に美味しく淹れられるんですねぇ。これもどこかで練習したのかしら。あとで聞こう。

まあ、それはいいとして。

リョクチャのいい香りがサロンに漂ってきました。

お茶を淹れている横では、ヨウカンが切られてお皿に盛り付けられています。アイリス様が急にいらっしゃったのは、このお菓子があまり日持ちしないからだそうです。

茶色いそれはお初にお目にかかる品物。一体どんな味なんでしょうねぇ、ちょっとワクワクします!

お茶とお菓子が目の前にサーブされて、まずは一口。

「甘くて美味しい! でもあっさりしていて、リョクチャの渋みとよく合いますのね!」

「そうでしょう? リョクチャはたまに手に入るんですけど、こちらのヨウカンはなかなか手に入らないレア物ですから、是非ヴィオラ様とご一緒したくなったんです」

そう言ってニッコリ微笑むアイリス様。いいお友達ができて、ヴィオラ、幸せですっ!!

「ああもうわざわざ……ありがとうございます」

半分うるっとしていた私だったのに、

「……というのは口実で。今日はヴィオラ様にひとこと申し上げたくて来ましたの」

さっきの微笑みは何処にか。真面目な顔してアイリス様がグッと身を乗り出してきました。

え、ちょ、態度急変とかどうしたアイリス様!?

私はギョッとなって後退りしましたよ。怖いよぅ、何をひとこと言わわれるんだよぅ?

アイリス様の目をじっと見つめます。次の一言を待つ間が長い! 早く一思いに言っちゃってください!

ごくり、と私が生唾を飲み込んだ時、アイリス様がようやく口を開きました。

「そろそろ『ヴィーちゃん』と呼びたいんですけど?」

それかーい!

「だってぇ、公爵様だけの特別な呼び方かなって思って遠慮してたんです。でもかわいいから呼びたいし、やっぱり慣れ慣れしすぎるかしらってうじうじ考えてたんですよ私らしくなかったわ」

とアイリス様は教えてくださいました。必要以上に溜められたから、何を言われるのだろうかと無駄にドキドキしたじゃないですか。

「小さい頃から『ヴィー』って呼ばれていましたし、お義母様からも呼ばれています。遠慮なくどうぞ!」

どうぞどうぞお気軽に〜。

本音を言うならうちの使用人さんたちにも呼ばれたいんですけど。って、さすがにないですね。そろそろ諦めます。

「うれしいわ! ああ、そうそう、他の三人もヴィーちゃんて呼びたいと言ってますの」

「どうぞどうぞご遠慮なく」

「では三人のことも名前で呼んで差し上げてね。ナスターシャム侯爵令嬢がアマランスさん、クロッカス伯爵令嬢がサティさん、コーラムバイン伯爵令嬢がピーアニーさんよ」

「頑張って覚えます!」

名前で呼ぶと親しく感じますよね! 仲良しさんが増えました。

それからリョクチャやヨウカンのこと、最近の社交界のことについていろいろ話が盛り上がりました。ちなみにリョクチャはヒイヅル皇国原産で、たまにフルールに入ってくるそうです。リョクチャに合うお菓子はヨウカンの他、ヒガシというものやネリキリなどいうものがあるそうです。すごく食べてみたい。あとでロータスとカルタムにお願いしてみましょう。

「でも、今日は本当に名前だけのためにわざわざいらしたんですか?」

こんな要件ならお茶会のときにでもさらっとすればいいのに。わざわざ手土産を持っていらっしゃるなんて、と疑問に思ったのでアイリス様に質問すると、

「ヴィーちゃんに会いたかったのは事実なんですけど、本当は先ほどまで見合いの相手様とお会いしておりましたの。それがこの近くだったもので」

「まあ、そうでしたの」

ということでした。

ほほほ、と朗らかに笑ってますが貴女、お見合いの帰りだったのですね! でもえらくお早いお帰りじゃありません?

お見合いって、盛り上がってきたら『あとは若いお二人に任せて……』的なことを親たちに言われて二人きりにされて、もっとお互いを知るべくおしゃべりしたりするんじゃないんですか? あ、私お見合いとかしたことないんで、本やお母様が言ってたことを頼りに妄想してますが何か?

「相手様はどんな方でございましたの? アイリス様にふさわしい立派なお方だとよろしいのですが」

「見た目はいい感じのお方なのですけど……」

含みのある言い方をするアイリス様です。さっきまでの微笑みも消え、少し憂いのある顔になりましたが、どうしたのでしょうか?

「あら、何か引っかかるところがございますの?」

「それがね、どうも娼館に出入りしているという噂を聞きましたの。わたくしとしてはどうしたものかしらと思いましてね」

「まあ! それは由々しき問題ですわね! 噂は事実ですの?」

ナニソノ男! そんな男、アイリス様にふさわしくないです!

ムカついた私の声が自然と低くなってしまいました。

「確定ではないのですけどね」

「でもでも、結婚する前、というかお見合いする前にそんな浮名を流すなんて、よくないですわ!」

「ヴィーちゃんが怒ってくれなくてもいいのですよ。ありがとう」

私が怒ったからか、アイリス様がなだめてくれました。でもアイリス様、だまされちゃダメですよそんな男! ……アレ?

「わたくしの家が婿を欲しがっているのを見て、足元を見ているのですわね、きっと!」

「まああ!! 人の弱いところを突いてくるなんて!! 人としてどうなのでしょう?!」

アイリス様もじわじわきているようで、声音がムッとしています。

……アレアレ??

「もしこの噂が本当だとしたら、きっと結婚したとしても浮気をされるのが見えているわよね」

何かを決意したようにアイリス様の声が力強くなりました。

「それはもはや女の敵ですわね!」

私も賛同の声をあげるのですが、さっきから発言すればするほど誰かさんが眼に浮かぶんですけど……気のせいですよね! そうだ気のせいだ!

「まあ、そんな男なんてこっちから願い下げですから? 速攻お断りさせていただきましたわ! なめんじゃねえ、ですわよ、おほほほほ~」

吹っ切れたのか、さっぱり言い捨てているアイリス様。かっこいいです。

「そうですわよね~! アイリス様ならもっとイイオトコをゲットできますわ!」

「うふふ、ヴィーちゃんありがとう! あらやだすっかり長居をしてしまいましたわ。あ~楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ」

「次はぜひ我が家にご招待いたしますわね。ではごきげんよう、ヴィーちゃん」

「ごきげんよう。今日は美味しいお茶とお菓子をありがとうございました」

私は帰り支度をしたアイリス様を先導して扉に向かいました。

そして外開きの扉を勢いよく開けたその時。

ゴッ……!

何かにぶち当たった手応えと、鈍い音。

二人で顔を見合わせました。

「……ヴィーちゃん? 今なんかすごい鈍い音がしたんだけど……?」

怪訝な顔でアイリス様が私に聞いてこられましたが、私にも訳が分かりません。

「私も、今ものすごく手応えがあったんですけど……?」

誰かが扉の前にモノでも置いたのかしら? だとしたら危ないですねぇ。

私は謎の手応えを確認すべく、

「う〜ん、おもーい!! えいっ!」

半分しか開かなかった扉をぐいっと力技で押し開け、向こう側に顔を出すと。

「旦那様!? そんなところで何やってるんですか?」

額を押さえて蹲る旦那様の姿がありました。

……さっきの手応えって、まさか、旦那様……? まさか、ね。まさか。あはははは〜……どうしましょう!!

とりあえず旦那様をロータスにお願いし、アイリス様をお見送りしてサロンに戻ってくると、旦那様は侍女さんが用意してくれた冷たい手ぬぐいを額に当ててぐったりソファーに座り込んでいました。

大変です! 旦那様の元気がありませんよ!

「サーシス様! 大丈夫ですか? ごめんなさい、力一杯開けてしまったから痛かったでしょう?」

急いで駆け寄りその額に手を置くと、そこだけポッコリ。ああ、お美しい旦那様のおでこに立派なたんこぶ作っちゃいましたよどうしましょう!

せめてもと、温くなった手ぬぐいを冷たい水で冷やし直してまた額に戻してあげると、

「ヴィー。僕は本当に本当にヴィーのことを大事に思っているからね!!」

私の手を取り握りしめ、真剣な顔をして言ってくる旦那様。

「はい? もちろん大事にしていただいてますわ? どうなさったんですか、サーシス様?」

何を今更そんなことをおっしゃっているのでしょう? そんなことは重々わかっていますよ……って、

……はっ!! まさか、打ち所が悪かったとか?!

うわーん、ごめんなさいサーシス様!! 私のせいでおかしくなっちゃったんですね! 早く治ってください! ……でもこれ、額のたんこぶが治ったら一緒に治るものなのかしら?

とにかく私は心を込めてサーシス様の手当てを頑張らせていただきましたよ!