軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仲直り

今日はお休みだという旦那様は、サロンで書類に目を通しているところでした。

「サーシス様! 四日も寝ずだとお聞きしましたが、どういうおつもりですか!」

バーンと大きくサロンの扉を開け、私がいきなり登場したので驚いていた旦那様でしたが、

「ヴィー! ちょっと落ち着こうか」

書類をまとめてテーブルに置くと、フーフーと逆毛を立てる私をなだめようとします。これが落ち着いていられますか! 睡眠不足は美容の敵! ……あ、それちょっとちがうな。健康の敵だ!

「落ち着いてられませんよ、もうっ!」

「わかったから。僕もヴィーとゆっくり話がしたいし、今から庭園にでも散歩に行こうか」

「……わかりました」

そう言う旦那様にいつものように手を引かれ、庭園に出ました。

私が一番落ち着けるところということで、庭園の隅っこ『ワタシ庭園』に行くことに。

今日は穏やかないいお天気で、風も気持ちよくて絶好のお散歩日和なんですが。

「あの日は本当にごめん! ごめんなさい! ヴィオラがかわいすぎるから、他のやつに見せたくないし見られたくなくてつい」

庭園に着いて開口一番、旦那様は私に向き直ると全力で謝ってきました。

「それ、いっつも言ってますよね?」

「でも本当なんだから仕方がないでしょ」

「いやいや」

旦那様、過保護というかなんというか。旦那様が気にするほど、私はモテたりしないんですけど?

というより。

「私が他の人を見るって、疑ってらっしゃるんでしょう?」

これでしょう。私、そんなに信用ないかなぁ?

そもそも他人、特に男の人になんて興味ない私ですよ? 旦那様以外の男の人を見るわけないじゃないですか!

……って、あれ。そういえば私、旦那様のことを『好きだ』とかそういう類のこと言ったことなかったですよね。

ピエドラでの告白の時も、私からの返事はペンディングのままだし。

そりゃ信用してもらえないわなぁ。

今更気付いた事実に、私があちゃーとなっているのに、

「そんなわけないでしょう! ただの僕のエゴです。疑うわけないでしょう! ごめん、本当にごめん!!」

旦那様は慌てて言い募っています。

あ〜、なんか、ごめんなさい!

私のせいですよね、私が態度をはっきりさせていないから。だから旦那様は心配になるんですよね。

「……私が、サーシス様以外の人に興味持つわけないじゃないですか」

恥ずかしすぎて小声になったのは許して! でもこれ以上は無理〜!

私の声が聞こえなかったのか、旦那様がぽかんとしています。

「え……、今なんて言った?」

「知りません!」

二度も言えませんよ!

「じゃあ、 僕には(・・・) 興味持ってくれてるってことでいいのかな?」

おい、旦那様……。ばっちり聞こえてるじゃないですか!

旦那様がうれしそうに目を細めながら私の顔を覗き込んできます。

いや、ちょっと、そんなにやけた顔されたら、こっちまで照れちゃうんですけど。

思い切って言ってしまったものの今更恥ずかしくなってきたので、そっぽを向いて旦那様から離れようとしたんですが、

「ヴィオラ、愛してる!!」

とか言った旦那様に後ろからギュッと抱きつかれてしまいました。

「わ!? ちょ、サーシス様!」

びっくりするやら苦しいやら。

私はジタバタとしましたが、旦那様は離れてくれる様子がありません。仕方ない、観念しようか。

「もうっ! サーシス様はぁ。……で、四日も寝ていらっしゃらないとか? ステラリアから聞きましたよ」

私は旦那様の腕の中でくるりと向きを変え、旦那様と向き合う形になりました。そしてそのままキュッと抱き返してみると、私の行動が意表をついたのか、旦那様がびくっとなりました。

「四日くらいどうってことないよ。どうせヴィオラのことが気になって眠れないんだから、ベッドにいるか外にいるかの違い」

「それかなり大きな違いですよ、休まないと身体によくありません! しかも騎士様は体力勝負なお仕事なんですから」

「いや僕の場合はむしろ頭脳勝負……」

「言い訳は要りません! 今日はお休みなのでしょう? ゆっくりお休みになられてはいかがですか?」

腕を解いて旦那様の綺麗な顔を見上げれば、やはりちょっとお疲れが見えますね。うっすらと目の下に見えるクマとか、少し充血した目とか。

これはもう、散歩とか悠長なこと言ってる場合ではありませんよ。

ここは平和な王都のフィサリス家のお屋敷です。緊急事態でもないんですから四日も徹夜とかダメ絶対!

今度は私が旦那様の手を引き本館に帰ろうとしたんですが、

「わかったわかった。休むから……ああ、そうだ。せっかく気持ちのいい日だから、ここでゆっくりするっているのでどう?」

旦那様がそう提案してきました。

「ここで、ですか?」

「うん」

そりゃ、ここにはふかふかの芝生を植えて、くつろげるスペースも作ってますけど……。私がここでだらだらするのとわけが違うと思うんですが。

しかし、旦那様があまりにもニコニコとうれしそうに言うので、絶対ベッドじゃないとダメとか言いにくくなってしまいました。

「そうですねぇ。本当はちゃんとベッドで横になってほしいですけど。まあ、少しだけなら。ステラリアに敷物と上から掛けるものを用意してもらいましょう」

ちょうどいい気候ですから、風邪をひくこともないでしょう。

「ステラリア、敷物と、身体にかけるものを持ってきてくれる?」

「かしこまりました」

私は少し離れたところに控えていたステラリアに声をかけ、本館からいろいろ持ってきてもらいました。

何重かに敷物を敷き、クッションを置いてお昼寝スペースが完成です。

旦那様の寝心地を考えてクッションを整えていると、

「クッションじゃなくてヴィーの膝枕がいい」

……旦那様、こんな白昼堂々、真顔で何言ってんですか。

思わずじとんと旦那様を見てしまいましたよ。

「クッションの方が寝やすいですよぅ。ほら、ふっかふかだし」

「いや、ヴィーの膝の方がよく眠れる気がする!」

私はさらにクッションを推したのですが、旦那様は頑として譲りません。仕方ないですねぇ。ここは旦那様に休んでいただくのが第一です。

「はいはい、これでよければどうぞ」

私がストールを畳んだものを膝の上に乗せて準備すると、

「では遠慮なく」

そこに旦那様がゆっくりと頭を載せてきました。

なんかこれ恥ずかしい! まあ、見てるのはステラリアとロータスくらいだから気にしないでおこうか……。

私の膝に頭を載せてくつろぐ旦那様越しに、きれいに咲いた花たちが見えます。ここに植えてあるものは旦那様から買っていただいたものが多いんですよね。

「ああ、そう言えば私、サーシス様にお花を見せてませんでしたよね」

「何の花?」

「前に町で買ってもらった花ですよ。ほら、戦に行く前に」

「ああ、あれね」

「きれいに植えたから見せようって思ってたんですけど、あれからバタバタしていてチャンスを逃してました」

「そうだね」

「それから、ピエドラで買っていただいたアンドレアナムも」

「どれかな?」

「ほら、あそこです。わぁ! 今日はとっても綺麗に咲いてますよ、見てください!!」

以前に買ってもらった花を、やっと旦那様に見せることができました。切り花と違って何度も花を咲かせては、私たちの目を楽しませてくれています。それにしても今日はいつもよりきれいに咲いてる気がするけど、気のせいかしら?

「うん、綺麗に咲いてるね。やっぱり苗を買って正解だった」

優しいそよ風が吹いてきて、サラサラときれいな旦那様の濃茶の髪を乱していきました。整えようと手を伸ばしたら、手触り良くってついついナデナデと……。

すると旦那様の手が伸びてきて、私の手を捕まえました。

あっ、失礼いたしました! いい大人の頭をナデナデなんて。

慌てて手を引っ込めようとしたら、

「気持ちいから、そのまま」

意外にも止められてしまいました。あら、いいんですか? じゃあ、この手触りを存分に堪能させていただきますね!

「あれから何度も咲いてくれてるんですよ。やっとサーシス様に見せられてよかったです」

「うん、僕も見れてうれしい……な……」

旦那様のおしゃべりが、突然スローペースになりました。

「あら、サーシス様?」

「うん、……なんかヴィオラと仲直りできて安心したら……眠たくなってきた……」

「徹夜なんて無理なさるからです。ふふふ、ちょっとお昼寝してください」

「うん……そうする……」

そう言い終えるか否かのうちに、旦那様の瞼が完全に閉じられました。長い睫毛が頬に影を落としています。

私の膝枕でくつろぎながらまどろむ旦那様。……あれ、こんな構図、どっかで見たことあるな。

いつだったっけ? どこだったっけ??

思い出せないとモヤっとするんですけど。

「あ~、なんかこんな図見たことありますねぇ……いつだったかしら? ああ、そうだ。旦那様が別棟で、彼女さんにこんな感じで甘えてたのを見たんだった」

そうだそうだ、思い出したぞスッキリ☆

私は思い出してモヤモヤが晴れたんですが、ブツブツ呟いていたのが聞こえたらしく、

「ゲホッ!! ゲホゲホゲホ……」

それまで気持ちよさそうにウトウトしていた旦那様が飛び起きたのでした。