軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見られた!

公爵家全体を巻き込んでの夫婦げんかもなんとか仲直りすることができ、私と侍女さんたちは本館へ戻ってきました。プチ家出は終了です。

仕事がお休みだという旦那様が一日中離れてくれませんでしたが、これも家出の反動かと思うと邪険にはできません。気が済むまでくっ付いていていいですよ。どうせ掃除も洗濯も何もできませんからね。

夫婦喧嘩騒動の後、出入りの業者さんが変わりました。前の業者さんは旦那様が出入り禁止にしたんでしたっけ。お父さんの方はともかく、娘、許すまじ。私だって怒るときは怒るんですよ! 旦那様、グッジョブです。

それからは何気ない、いつもの穏やかな日常が戻ってきました。

旦那様がお仕事に出て行ってからは、お仕着せを着て使用人さんたちと一緒にお仕事です。掃除も洗濯も、誰に気兼ねすることなくできるようになりましたしね〜。昼食は、使用人さん用ダイニングで賑やか賄いランチです。

それに、しばらく社交もしなくてよいという許可をもらいました。たくさん送られてくるというパーティー・お茶会の招待状はロータスフィルターで選別されていて、重要なパーティーはしばらくなさそうだということです。

サファイアの売れ行きも上々、むしろうれしい悲鳴状態らしくて、宣伝の必要もなさそうでなによりです。

ああ、結婚当初の約束通りのお気楽使用人ライフが戻ってきましたよ! あ、うれしすぎてちょっと泣けてきたわ。

でもなぜか庭いじりはさせてもらえなくなりました。おかしい。なんでさ?

「どうしてよぉ〜! 庭いじりはお義父様たち公認じゃないのよぉ〜」

ダリアたちに泣きつきましたが、

「大規模な植え替えをするので、しばらく庭園のあちこちを掘り返すのです。深めの穴がそこらじゅうにできてしまいますので、危険ですから近寄らないでくださいと、ベリスが申しておりました」

と説明されました。

「植え替えなんて聞いてないよ〜。うう……、でもそっか。また素敵なお庭になるんなら、ちょっとくらい我慢するか……」

「ええ、そうしてくださいませ」

ダメと言われてるのに立ち入って、魔王様降臨とかヤバすぎる。しかも私のことだ、うっかり穴に落ちてまた騒動起こしそうでコワイし。

私がおとなしく引き下がったのを見て、ダリアたちがホッとしています。あまり困らせてはいけませんしね、ここは我慢です。

庭園では何やら作業が始まっているらしく、ベリス以下庭師さんチームや侍女さんたちまでが、忙しそうにあちこち動き回っていました。

どんなお庭になるか、今から楽しみですね!

ということで、洗濯とお屋敷の掃除に専念すること数日。

今日も朝からいい天気、お掃除するにはもってこいの日です。

旦那様をお見送りしたら、ソッコーお仕着せにチェンジです。

「今日は洗濯物がよく乾きそうね! ふふふ〜、張り切るよ〜!」

「良家の奥様とは思えないセリフですが……まあ、よしとしておきます」

ステラリアも諦めモードです。そう、諦めって大事よ☆

髪を一つにまとめてもらって、お仕事開始です。

ランチまでに洗濯物を終えてしまい、午後からは窓を磨くことにしました。高いところは 使用人さん(プロ) にお任せ、私は手の届く範囲をひたすら磨きます。高いところは脚立に乗って磨かないといけないので『危険ですからおやめください!』とロータスたちにきつーく止められているからです。ちょっとくらいやらせてくれてもいいのになぁ。ほんとにみんな過保護なんだから。

まあいいさ〜と、私と使用人さんは部屋から部屋へと窓を磨いていきます。

テキパキ、キュッキュ。ふう、私も随分手慣れてきましたね。まだまだ一流とは言えないけど、結構普通の使用人さんレベルには達したんじゃね?

なんて、自画自賛が過ぎました。すみません。

窓拭き隊(私含む)がエントランス横の部屋に到達しました。

ここは公爵家に出入りする人がよく見えるんですよね〜。そういえば、ここを掃除していたときにロータスとアマリリスのデート(から帰ってきたところ)を発見したんですよね。ここ、何気にいい観察スポットなんじゃない?

あの日のロータスたちの姿を思い出して、私はニヤニヤしていたのですが。

バチ。

……バッチリ目が合いました。誰とって? それは、エントランスに向かってくる旦那様と……。

ええええ〜っ!? 旦那様!?

ちょっと待ってよ、まだ帰ってくるような時間じゃないじゃない!

私もびっくりして固まっていますが、旦那様もこっちを見て瞠目しています。やばい、私、今、お仕着せ〜!!

「サーシス様よサーシス様! 出たぁ!!」

「ええっ!? 旦那様がお帰りになられたんですか!?」

「大変! 奥様、早く寝室へ!」

「片付けは私たちがやっておきますので、早く!!」

「わかった! 後はよろしく!!」

いるはずのない時間に旦那様が現れて、お掃除隊はパニックです。

私は使用人さんたちに言われるまま、お掃除グッズもそのままにして、寝室へ一目散にダッシュです。早く着替えてアリバイ作ってしらばっくれなきゃ!!

ですが。

「どういうことかな? 説明してくれる?」

ニッコリ。

旦那様が一足早くエントランスに入ってきていて、そこで仁王立ちしていました。

終わった。私の楽しい使用人ライフは終わった……。

結婚したての頃でしょうか、さっきみたいな場面があったにはあったんですが、その時はバレずに済みました。あの頃の旦那様は私に興味なんてひとっ欠片もなかったから、『また若い使用人が入ったんだな』くらいにしか捉えてなかったんですよ。でも今は……。

お仕着せのままサロンに連行された私は、いつもの定位置、旦那様と隣り合わせで座らされています。

「こんな格好をして、何をしていたのかな? ヴィーは」

ちらりとお仕着せのエプロンの裾を掴んで持ち上げた旦那様。

責めるというふうではなく、むしろ口調は優しいかも。逆にそっちの方が怖い?

「えーと、使用人さんに混じってお掃除していました」

できる限り小さくなって、小さくなりついでに小さな声でぼそぼそ答える私。

嘘ついても仕方ないですから(だってバッチリ現場見られてるもん!)、私は正直に答えました。

「だろうね。そうにしか見えなかったよ。で、いつからこんなことしてるのかな?」

「朝からです」

「いや、今日の始めた時間じゃなくて、時期ですよ、時期」

「あ〜。このお屋敷に来て結構すぐです。えへっ☆」

よっしゃここは得意の『笑ってごまかせ』だ! 私はニカっと笑いました。

すると旦那様は、一つ深いため息をついてから、

「……ロータスたちはこのこと……知らないわけないか」

「はい」

後ろに控えるロータスに向かって言いました。そりゃそうですよ、知らないわけないでしょ。

ロータスとダリアも神妙に頷いています。

でもこれって、ロータスたちが怒られる流れっぽい? いやいや、それはダメでしょ!

私が無理やりお願いしたんだから、ロータスたちに罪はない! 怒られるのは私です。

「私が渋るロータスたちに無理やりお願いしたんです。深窓のお嬢様でもない私は、日がな一日お屋敷の中でじっとしてる術なんて知らなかったので、どうせなら使用人さんたちと一緒に働きたいって」

使用人さんと一緒に働き始めた経緯を旦那様に説明すると、

「どうしてそういう考えに至るのか、ちょっと……」

旦那様が頭を抱えています。

「え? だって私の場合、いつお役御免になってこのお屋敷を追い出されるかわからなかったでしょう? せっかくだから超一流の使用人さんスキルを習得しておこうって思って。そしたら手に職、いつでも働きに出れます!」

お一人様バッチコイやぁ、どやぁですよ。

私が自信満々に言うと、

「……ヴィーはそんなこと考えていたのか?」

旦那様が呆然としてしまいました。ちょっとぶっちゃけすぎました?

「はい!」

今度は私がニッコリ笑っていいお返事すると、

「僕がヴィーをお役御免にするわけないでしょ! むしろ日に日に大事に愛しくなっていくっていうのに! 冗談でもそんな悲しいこと言わないでください!」

「きゃー!!」

なんだか一人で盛り上がった旦那様に抱きつかれてしまいました。

「別に、ヴィーがやりたいなら好きにしていいよ。 公爵家(うち) のことが 外部(そと) に漏れることはないだろうから。そうだろう、ロータス?」

「はい」

旦那様の言葉に頷くロータスです。

「現にずっと漏れてなかったしな。僕も含め……って、僕は外部か!? え? え??」

旦那様、自分の言葉に自分でツッコミいれてますよ。しかも自分で言っときながら自分でショック受けてるし。使用人さんたちの肩が震えてます。そういう私も笑いをこらえるのが大変ですが。

でもとにかく、旦那様から『好きにしていい』言質、いただきました〜!

「ありがとうございます! これからもサーシス様が帰ってきたときに、気持ちよく過ごせる家を目指して頑張ります!」

ヴィオラさん、力強く宣誓です☆

「そんなかわいいこと言われたら、ダメなんて言えるわけないでしょ。ああもう。でも、危険なことはしないように。いいね」

「はーい! って、今までもさせてもらえませんでしたよぉ〜」

「じゃあこれからも徹底するように。ロータス、ダリア、頼んだぞ」

「「かしこまりました」」

旦那様に念押しされ、キリッと顔を引き締めるロータスとダリアです。これは、脚立に乗って上の方の窓拭きをする日は来なさそうですねぇ。

「ところで、サーシス様はどうしてこんな早くに帰ってこられたんですか?」

いつもの時間に帰ってきてたならバレずに済んだのに……ちがくて。

お仕着せ着ている説明をしてもなお、いつもの旦那様の帰宅時間よりも早い時間です。体調が優れなくて早引けしてきたとかではなさそうですけどね?

旦那様は私の質問に何かを思い出したような顔になると、

「ああ、そうだった。庭園の様子を見に帰ってきたんだった」

なんとも意外な答えが返ってきました。

旦那様が庭園の様子を? ベリスに任せっきりじゃなくて?

「庭園、ですか?」

「そう。どうだ、順調に進んでるか?」

私に答えた後、ロータスに尋ねる旦那様。

「はい。順調でございます」

「そうか。じゃあちょっと今からでも様子を見にいこうか。図面を忘れずに。あ、ヴィーはここにいて。穴ぼこだらけで危ないからね」

旦那様がロータスを連れて出て行こうとするので、私も立ち上がって付いて行こうとしたのですが、強制的にソファーに座らされ止められてしまいました。なんでさ〜! 庭園がどうなってるのか、私も見に行きたいさ〜!

「ええ〜! 私も見たいです!」

「だーめ。ダリア、ヴィーを頼んだ」

「かしこまりました」

ダリアにお願いされてしまった私は、渋々旦那様が庭園に出て行くのをお見送りするのでした。

まあ、庭園はできてのお楽しみってことで納得しておきます。

それより何より! お仕着せ&使用人さんライフを旦那様に認めてもらえましたよ! やったね☆