軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦いが終わりました2

「いやぁ、あんなに堂々と隠しもせず人前で意見を述べる女性なんて、僕の周囲にはいなかったから、あまりに新鮮でね」

「殿下が悪食でよかったですよ。おかげで我が国は安泰だ」

ノゼッティ将軍の皮肉にも気分を害することなく、マクシミリアン殿下はゆったりと構えている。

そんな殿下を前に、伯爵翁様も詰めていた息を緩めた。

「やはりマクシミリアン殿下を推挙して正解でございました。他の王族の方々では今の世は作れませんでした」

「いやいやどうせ僕は政治の才も武芸の才も持たぬ、精霊にも指名されないセレスティア王家の落ちこぼれだからね。種馬くらいの役にしか立たないと言われても“その通りだな”としか思わないよ」

「いいえ。殿下の才は当時の王族の誰にもないものでございました。殿下をおいて他に誰もこの役目を果たせぬと思っておりました」

王族の生まれながらあまりに平凡で、家臣にすら馬鹿にされていた後ろ盾のない王子は、和平の証としてかつての敵国へ婿入りすることになった。彼の婿入りを厄介払いだの生贄だのと揶揄する貴族もいたが、彼の役目は政治上、この上なく重要なものであったことは、世事に通じた者は皆、理解していた。

そんな重要な役目を、この婿入りの意味を理解できない者に任せるわけにはいかない。当時の宰相、文部大臣、騎士団長が全会一致で推挙したのがマクシミリアン王子だった。背後で伯爵翁様も彼を推した。マクシミリアン王子は決して凡庸ではない。その柔軟さ、誠実さ、そして如才なく立ち回れる器用さ、状況を弁える力。凪いだ海のような性質は、やがてアナスタシア女王やその側近たちの心も動かした。セレスティア陣営が思っていた以上の働きで、彼は二国間をつないだ。

「ヴィオレッタ王女が安心して嫁げたのも、殿下のおかげですからね」

血の繋がった姪の行く末を、当時のノゼッティ隊長がまったく案じなかったわけはない。ヴィオレッタ王女が成長した頃には、トゥキルスの内情もまた大きく変化していた。

何よりあの苛烈な女王の手綱を握れるのは、この国においてもう彼しかいない。

「私もまた、殿下に頭があがらない人間のひとりですよ。事実、今日も助けられた」

先程の光景を思い出す。伯爵翁様から出された見学の申し出を、彼は両手をあげて歓迎できない状況にあった。彼の叔父であり、一族の誇りであったパオロ・ノゼッティ将軍は、強きを正しいとするトゥキルスにおいて英雄だった。共に戦場に立った若き頃のノゼッティ隊長にとっても、強い憧憬の対象だった。

だが将軍は戦後、位を降り、ひとり故郷に戻った。多くの人間が引き止めたものの頑として首を縦に振らず、「王宮に自分の居場所などもうない」と、それだけ言い残して、故郷に戻ってからも一族との付き合いを最小限に断ち、妻帯することもなく、数年前に亡くなったという。英雄の哀れとも思える寂しい末路は、子どもの頃から彼に憧れ続けたノゼッティ隊長にとっても悔やみきれぬものだった。

かつての英雄が舞台を降りたあと、王宮は目まぐるしく変わっていった。マクシミリアン殿下の存在を、女王への忠誠と愛情を抱く者として認めつつも、敬愛する叔父を表舞台から追いやった相手として、複雑な思いを持たずして見ることが難しかった。それでも長い時間が経ち、アナスタシア女王の治世が平和へと向かいはじめ、かつての英雄の面影を誰も思い出さなくなった今――。

彼の尊敬する叔父と愛すべき女王が唯一認める男、ジェシー・アッシュバーンがこの地を訪ねてきた。

どう応対すべきか心が定まらぬまま当日を迎えてしまった。そしてノゼッティ隊長がとった行動は——何もしないこと、だった。

だがその判断は将軍職が空位の今、第一部隊の将として軍を預かる者の判断として、決して正しいものとは言えない。自分と同年代か上の者の中には、かつてアッシュバーン前辺境伯と戦った者も、彼に愛する人を殺された者もいる。そんな兵士らを諌め、まとめあげる責務があったというのに、彼は何もすることができなかった。

そんな不甲斐ない自分の行動をあっさりと女王に見抜かれ、自分の代わりに彼女はジェシー・アッシュバーンの前に立ち、全身全霊でこの状況を打破して軍をまとめ上げた。清々しいまでの将としての在り方だった。

あのまま謹慎で済めば御の字だったろう。下手すれば隊長職の剥奪もありえた。それを、マクシミリアン殿下の機転でなかったことにしてもらえた。とばっちりを受けたリカルドには酷だったが、ノゼッティ隊長が今ここで杯を傾けていられるのはマクシミリアン殿下のおかげだ。

「本当に、貴殿らは戦い方がうまい。女王や叔父が手こずったのもわかるというものだ」

今ではマクシミリアンという存在がどれほど偉大か、ノゼッティ隊長にもわかっている。セレスティアが送り込んできた最大の刺客は、この国の礎になった。

かつて刃を交えた男たちの語らいは、日が傾いても尽きることはなかった。