軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異国人の正体が知れました

とはいえ、そう簡単に「ちょっと隣国行ってきまーす」というわけにはいかない。何せ私は9歳児。保護者の許可なくして無闇な行動には出られない身分だ。

案の定、常識人の父は首を振った。

「いくらマリウムが一緒で、リカルドさんとやらがそれなりな身分の方とはいえ、アンジェリカをひとりで旅には出せないよ」

ですよねーと心の中でひとりごつ。貧乏でも男爵令嬢だし、唯一の跡取り娘に何かあっては困るだろうし。

ただ、私としては少し残念な気持ちもあった。この国に転生したとわかってから勉強してきたことの中にはトゥキルスの言語や文化もある。あちらにポテト料理が広まっていることもあり、現地でどんなふうに調理されているのかなど、この目で見てみたい希望もある。

とはいえ前世のように簡単に外国に行き来できるはずもない。父が同行できるなら話は変わってくるだろうが、当主である以上、この地を長く離れることはできない。

「私が同行してあげられたいいのだけど……」

私が残念に思っていることを察したのだろう、継母が私の肩に手を置いた。女性の継母と私の二人旅など、絶対に許可されない。

そんな中、家族会議に一緒に参加していた執事のロイが、私に尋ねた。

「お嬢様、そのリカルド様、という方ですが……ほかに何か情報をお持ちではないですか? 私は研究に忙しくて、視察客についての情報はあまり持ち合わせていないのです」

「えっと、年齢は二十代半ばくらいかしら。戦争の記憶があるって言ってたから。いつも鮮やかな布を頭に巻いているから、それなりな身分の方だなって思ったの。付き人が常に付き従っているし。あ、そうそう、ロイはコリ芋って知ってる?」

「コリ芋ですか? トゥキルスで自生している芋類の一種ですよね」

「そうみたい。私は初めて知ったのだけど。そのコリ芋が、じゃがいもと同じアク抜き方法を使うことで食用化されたみたいなの。ロイは知ってた?」

「はい、もちろん。その話は研究所では有名です。コリ芋はトゥキルスの土壌でしか育たない性質のようで、我が国に流通させるのは不可能と判断されましたから、一般には広がっていない知識ですが」

「そうだったのね。そのコリ芋の食用化を成功させたのが、リカルドさんのいとこの方なんですって。彼はその功績で結婚できたらしいわ」

「なんですって!?」

冷静沈着なスーパー執事が突然大声を発したことで、両親も私も目を丸くして彼を見返した。

「ロイ? どうしたの?」

「お嬢様! リカルド様のいとこが、コリ芋の食用化に成功したとおっしゃいましたか!?」

「え、えぇ。そう聞いたのだけど……」

私の返事を聞くまでもなく、ロイは顔の色をさらに無くしていった。これは何かあると、私だけでなく家族全員が固唾を飲む。

そんな中、ロイはずれかけた眼鏡の位置を整え、厳かに告げた。

「……コリ芋の食用化に成功された方のお名前は、イヴァン・トゥキルス殿下。トゥキルスを治めるアナスタシア女王の御子息のおひとりで、トゥキルスの王太子殿下であらせられます」

「は?」

「お嬢様の情報が正しければ、リカルド様は、そのイヴァン殿下のいとこ君、ということになりますね」

「………」

数秒の沈黙の後――。

ダスティン家を揺るがすほどの大音声の悲鳴が、辺りに轟くことになった。