作品タイトル不明
プレゼントを選びましょう1
ライトネルとキャロルの、見た目は正反対だが性格はそっくりな双子たちのどちらかがこのハムレット商会を継ぐことになるが、今のところは出店が許されたキャロルの方が先んじているということらしい。
とはいえ先ほど見せてもらった本店のハムレット商会は貴族向けのお店。売り上げだけを見れば、平民向けのこちらの店舗よりあちらの方がずっと上だろう。ライトネルの貢献も悪いものではないと思う。
その辺りをショーンさんに尋ねると、「そうなのです」としみじみ頷かれた。
「お二人はどちらも優れた商才をお持ちなのです。ただ、そのタイプが違うだけの話でして」
未だいがみあう双子に優しい眼差しを向ける。
「キャロルさんは今までにない新しい商品を生み出す才能がおありです。また数字にも大変強く、仕入れ値や売値の決定も確かですし、どのくらい売れるか、その読みも外したことがありません。根っからの商売人なのでしょう。対してライトネルさんはアイデアの展開に長けています。新しいアイデアを思いついた上でそれを既成の概念にうまく溶け込ませて展開させていきますから、非常にスムーズなのです。本店の新しい商売も当初はほとんどの店員に不評でした。ですがライトネルさんは、もともとの外商スタイルはそのままに、ライト層という新しいターゲット層を発掘しました。さらにスタッフひとりひとりに対し粘り強く説得もしました」
本店は商会の屋台骨。その改革は決して「面白そうだから」という理由だけでは行えない。けれどライトネルは信念と丁寧なマーケティングの技術でそれを成し得たそうだ。
「無から有を生み出すキャロルさんの才は素晴らしいものです。ですが、もともとあったものから新しい魅力を見出すライトネルさんの才もまた、稀なものです。またキャロルさんが数字の交渉ごとに長けているのに対し、ライトネルさんは地道な交渉や説得が得意です。彼の才能は、もしかするとこの商会の商売だけにとどまらず、もっと大きなことが為せる器なのかもしれません」
「その2人が協力し合えば、ハムレット商会は王国一となれる可能性もありますね」
「いかにも」
今回キャロルが“ハムレット・マニア”を出店するに至ったのも、彼女の企画の方がより明確だったからだそうだ。コンセプト、扱う商品、仕入れの方法、初期投資費用、目標予算、今後の展望等々、小売店として必要な条件をすべて揃え、遜色のない計画を出してみせた。
対してライトネルは本店の改革案としただけで、扱う製品は今までと同じ、新たな取引先を生むこともなかった。そのためアイデアは採用されたが、彼自身が店を運営するまでには至れなかった。
だが彼のアイデアがハムレット商会を一段階押し上げることになったのは明確で、オーナーもそれは認めているらしい。
ちょうど新たな客が立て続けに入店してきたところで、2人のいがみあいはぴたりと終了した。「いらっしゃいませ! ハムレット・マニアへようこそ!」と掛け声のタイミングまで見事に合わせている。
別の店員がそれぞれの客に絶妙な距離で対応し始めたところで、2人はどうやら私の存在を思い出したらしかった。
「あらあらあらあら、わたくしとしたことが、お嬢様をお待たせしてしまいまして。それで、本日はどういったものをお探しでしょうか」
「あの、アンジェリカと呼んでいただいて結構です。私もキャロルさんとお呼びしてもいいですか?」
「まぁ、ありがとうございます、アンジェリカ様。それではわたくしが店内をご案内いたしますわ」
「どけ、キャロル。アンジェリカ嬢は俺が案内する。なんといっても俺の友達だからな」
「友達? ライト、あなたまさかミシェル様に使ったのと同じ手でアンジェリカ様のことも騙したのね!?」
「誰が騙すか! 人聞きの悪いこと言うな! それに俺がミシェルを騙したんじゃなくて、あいつに脅されたんだよ!」
ああぁ、またケンカが始まってしまう。そしてその話題、危険そうだからあまり聞きたくないヤツだ。私は慌てて2人の間に割って入った。
「あの、私、ライトとキャロルさん、2人に案内してほしいです!」
ライトとキャロルの視線が面白いくらいに同じタイミングでこちらを向く。
「まぁまぁまぁまぁ。アンジェリカ様の頼みであれば」
「もちろん、喜んで!」
にっこり笑って今にも揉み手でもしそうな雰囲気に、やっぱりこの2人よく似てるなぁとしみじみ思った。
キャロルにも事情を話して、カイルハート殿下に贈るものを一緒に考えてもらった。
「好奇心旺盛な殿下を満足させる、どきどきわくわくするものですね。ふふふ、ちょうどいいものがありますわ」
彼女は一旦私たちが通過してきた控え室に戻り、ある物を持ってきた。
「ずっと試作を繰り返していたのですが、ついに完成したところですの。試してみてよければ量産して店頭にも出す予定ですわ」
彼女が手にしていたのは両手で抱えるほどの大きさの箱だ。小柄な彼女が持てているほどだからそれほど重くもなさそうだ。
「今は時間的に不適切なので、ちょっと移動しましょう。ショーン、しばらくお店を頼みますね」
「かしこまりました。行き先は地下室ですね?」
「えぇ」
そして彼女は箱を手にしたまま、こちらへどうぞと別の通路に誘導した。小さな廊下の先にも何やら複数の扉がある。
彼女は左の扉を目線で示した。
「こちらは商談用のお部屋ですの。外商というほど大げさではありませんが、表の店舗では堂々と見せにくいお品などもありますので。うさみみの大人用とか」
大人用のうさみみ。きっとこんなふうにかわいいふわふわのケープではないんだろうな。ただただ「ソウデスカ」と相槌を打つだけにとどめ、それ以上の言及を控えた。
「そしてこちらが地下室ですわ。明かりはありますけれど、足元が暗いので十分注意してくださいね」
言いながらキャロルは右手の扉の前に立った。けれど両手が荷物で塞がっているため開けることができない。
するとライトネルが彼女の持つ箱をさっと持ち上げ「早く開けろ」と促した。振り向きざまミシェルに「アンジェリカ嬢を頼むぞ」と指示する。
自由になった手でキャロルが扉を開け、壁にかけてあった2つのランタンを手にした。手早く明かりをつけたあと、片方をミシェルに手渡す。
人がぎりぎり通り過ぎることができるくらいの幅の階段を、キャロルを先頭に進んでいった。キャロルはすぐ後ろに続くライトネルの足元が明るくなるようランタンの位置を調節しながら、ゆっくりと階段を降りていく。なんだかんだと言っても心底仲が悪いわけじゃない2人を見て、笑いがこみ上げそうになった。
「アンジェリカ、私たちも行こうか」
「はい」
ミシェルに差し出された手を借りて私もあとに続いた。半歩前を行くミシェルが足元を照らしてくれる。その歩みは不安なところがなく、安心してリードに任せることができた。
そうして私たちは地下の一室へと降り立った。