作品タイトル不明
[ ]①
パーティーは、ダンジョンの最下層に到達していた。
「次、範囲攻撃来るよ! 三連!」
アビスデーモンに張り付き、ナイフを振るっていたテトが声を上げた。
それと同時に、人の背丈の倍以上もあるデーモン系モンスターの上位種が、おもむろにその大ぶりな鎌を振り上げる。
ある程度ヘイトを稼いでいた俺は、同じくダメージを与えていたテトの方へと走った。アビスデーモンは鬱陶しい近接戦闘職二人に狙いを定めるように、鎌をこちらに向ける。
これでいい。こうすることで、後衛のココルとメリナが範囲攻撃から逃れられる。
鎌が地面へと振り下ろされる。同時に発生した影の衝撃波が、大きく広がりながら俺たちへ襲いかかる。
アビスデーモンの範囲攻撃だ。
盾職(タンク) の防御を貫通して後衛まで届く、この手のモンスターで最も警戒しなければならない攻撃だが……ココルとメリナは俺たちの反対側へ移動することで、きっちりその範囲から逃れていた。
この程度の立ち回りは、全員何も言わずとも当然のようにこなす。
影に被弾するタイミングで、俺は【剣術】スキルの“パリィ”を発動。軽い衝撃に耐えつつ、影の攻撃を受け流す。これは技術ではなくスキルでの防御なので、実体のない攻撃だって防げる。
ただ、完璧に防ぎ切れたわけではなかった。さすがに四十層のモンスターだけあって、いくらかHPが減少してしまう。【短剣術】の防御スキルを使っていたテトも、おそらく同様だろう。
だがその時。体を光が通り抜けるような感覚と共に、HPが上限まで回復した。ココルの 治癒(ヒール) だ。理想的なタイミングだった。
アビスデーモンが再び鎌を振り上げる。HP残量が少ないのか、少し前から範囲攻撃は三連続になっていた。
刃先が地面へ振り下ろされようとしたその時――――後ろから飛来した巨大な光弾が、モンスターへとぶち当たった。弱点属性による大ダメージで、アビスデーモンに大きな 仰け反り(ノックバック) が発生。攻撃がキャンセルされる。
メリナの光属性魔法だ。呪文の関係で連発はしにくいが、彼女はこのパーティー最大の火力を持つ。
仰け反り(ノックバック) 後の硬直は、攻撃を叩き込むチャンスだ。
おそらくだが、敵のHPももうそれほど残っていないだろう。
俺は地を蹴り、敵との距離を一気に詰める。
そして膝をついていたアビスデーモンへ跳躍すると――――その首元へ、【剣術】スキル“強撃”を込めた剣を一閃した。
これを使うと、たった一撃分ではあるものの、与えるダメージ量を大幅に増加させることができる。
そして今は、その一撃で十分だった。
弱点部位を痛撃され残りHPを消し飛ばされたアビスデーモンが、派手なエフェクトと共に四散した。
ドロップした種々のアイテムが、辺りに散らばる。
それを見た俺は、ほっと一息ついた。
そして、共に戦ったパーティーメンバーを振り返って言う。
「お疲れ。思ったよりも余裕だったな」
「やりましたねっ、アルヴィンさん!」
「なんか、びっくりするほどあっけなかったわね」
「ほんとだよー。アビスデーモンなんて、普段出くわしたらヒヤッとするのに」
実際、中層なら中ボスとして現れることもあるモンスターだ。
通常モンスターとしてなら、四十層程度ではなかなか出くわすものじゃない。おそらくここ落日洞穴では、ボスを除いて最強クラスのモンスターだろう。
しかしながら、あっさり倒せてしまった。
俺はしみじみと言う。
「やっぱりこのパーティーは戦いやすい。ドロップや経験値ボーナスを気にせずにキルをとれるのはありがたいな」
これまでは、たとえパーティーを組んでいても遠慮ばかりしていて、思い切り実力を発揮する機会はなかったように思える。
「それに、 回復職(ヒーラー) も優秀だしな」
「えっ、わ、わたしですか?」
驚いた顔をするココルに、俺は言う。
「ああ。 治癒(ヒール) のタイミングが毎度完璧すぎた。神官のお手本を見ているようだったよ」
回復職(ヒーラー) は、その実パーティーの要とも言われる。冒険の成否どころか、パーティー全員の命に関わるため、非常に役割が重い役職だ。
しかし一方で、要求される 冒険者(プレイヤー) スキルも高い、難しい役職でもあった。
特に深層ともなれば、大ダメージの攻撃が連続で飛んでくることも多い。攻撃を見てからでは間に合わないこともあるため、仲間の被弾を予測してあらかじめ呪文を唱えておくなど、高度な技術が求められる。
ココルは当たり前にこなすが、それができる 回復職(ヒーラー) はごく一握りだろう。
「さすが、ボス戦を何度も経験してるだけある」
「えへへ。そんな……わたしなんかより、メリナさんの方がすごいです」
「私?」
意外そうなメリナへ、ココルがうなずく。
「はい。メリナさん、さっき一回も唱え直しがありませんでしたよね? それでいてヘイトを稼ぎすぎないギリギリまでダメージを与えてましたし。しかも全然被弾しないですし」
「それは、まあ……そうね」
魔法は、詠唱中は問題ないが、放つ時には動きを止めていないと 失敗(ファンブル) する。それゆえ、詠唱が終わるタイミングでは必ず立ち止まるというのが、魔法職の鉄則だ。
しかしそのせいで、放つタイミングで敵の攻撃が来そうになると、回避を優先して魔法をあきらめざるを得ないことがある。これが、いわゆる唱え直しだ。
冒険者(プレイヤー) スキルが高い冒険者ほど少ないと言われるものの、これを完全に無くすのは難しい。敵の行動は予測しきれないからだ。あえて被弾覚悟で放つような魔導士もいるが、あまり誉められた立ち回りではないし、逆に機を見極めるあまりダメージを稼げないのも本末転倒だ。
そういう意味で、メリナは非常に優秀だった。
唱え直しがなく、被弾もなく、それでいてダメージは稼ぐ。
魔導士としては理想の立ち回りだろう。
「わたし、途中からはずっとメリナさんにくっついてましたもん。その方が確実に攻撃を避けられるので。敵の行動パターンの把握、なんでそんなに完璧にできるんですか? しかも一回しか見てないモーションの所要秒数まで覚えてませんでした? 変化したタイミングでも注意してくれましたし……あの時、わたし全然気づいてませんでした」
「ちょ、ちょっとそういうのが得意なだけよ! それに……買いかぶりすぎ。私だって唱え直しはするし、被弾することもあるわ」
メリナが誤魔化すように言う。
「私より、テトでしょう」
「え、ボク?」
名前を呼ばれるとは思ってなかったのか、テトが呆けたような声を上げる。
「あなた、一番 仰け反り(ノックバック) 引いてなかった? 私の方がダメージ出るはずなのに。どうなってるのよ」
「あー、あれ? あれはねー、攻撃モーションの時を狙ってダメージ入れてたからだよ。タイミングが限られるけど、なんでもない時よりもずっと低いダメージで 仰け反り(ノックバック) が引けるんだ」
それは、俺も聞いたことがあった。俗に 返り討ち(カウンター) と呼ばれる現象だ。
だが、それを狙ってできる冒険者がどれだけいることか。
そもそも、有効なタイミングがわからない。本当に短い時間に限られるようで、見極めることすら困難だった。
モンスターの攻撃モーションなど無数にあり、とても覚えきれるものでもない。実用に耐えないと思い、俺も習得をあきらめた過去があった。
それを考えると、テトの戦闘センスは頭抜けている。
「それって、 返り討ち(カウンター) のこと? あなたそれ狙ってやってたの……? そんなことができる冒険者がいるとは思わなかったわ」
「そーお? 一番納得できるタイミングを狙うと、割とうまくいくんだけどなぁ」
大したことでもないように言っているが、テトはどこかうれしそうにも見える。
「というか、ボクよりアルヴィンだよ」
「俺か? 俺は別に、特別なことはしてなかったと思うが」
「うーんとねー……」
そこで、テトは黙ってしまった。
俺は堪らずに言う。
「おい、そこで黙られるのが一番傷つく。何もないなら最初から言うな」
「あははっ、違う違う。そうじゃなくて」
テトが笑いながら答える。
「アルヴィンはなんというか……全部上手いんだよね」
「まだ苦しいぞ」
「あ、でも、それわかります!」
「言いたいことはわかるわ。私も同じこと考えてた」
「えっ」
意外にも、ココルとメリナが賛同した。
テトが続ける。
「なんでもできるよね、アルヴィン。戦闘では普通に強いし、パーティーのこと考えてヘイト管理もするし。戦闘以外でもルートを決めたり、指示出したり、ボクたちが疲れてないか見ててくれたりもするし」
「たぶん、ダンジョンやモンスターのこと一番詳しいのもアルヴィンさんだと思います!」
「冒険が上手い、って感じね。うまく言えないけど」
「そう、か……」
そんなことを言われたのは初めてだった。
「……今までは、自分よりも低いレベルのパーティーにばかり入っていたからな。冒険のアドバイスや、レベル上げの手伝いを求められることが多かった。そのおかげかもしれないな」
あの時の経験が役に立っているとしたら……何度もパーティーを追放されたことも、決して無駄ではなかったのかもしれない。