軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【ミイラ盗り】⑩

ココルとメリナも、何事かと寄ってくる。

「羊皮紙? モンスターがドロップしたんですか?」

「そんなことあるかしら」

「たぶん、 思わせぶりな原典(フレーバー・テキスト) だろう」

視線を向けてくる三人へ、俺は説明する。

「まれにだが、モンスターがテキストの書かれた羊皮紙をドロップすることがある。たまたま飲み込んでいた……という設定なんだろうな」

「設定って?」

「この世界が箱庭なんだとしたら、そういう体裁だろうと思っただけだ。テトの言う通り、作った者の意思があるとすればな」

普通の生き物とは違い、モンスターが何かを食べることはない。

噛みつき攻撃はすれど、それだけだ。

「何が書いてあるんだろう?」

テトが羊皮紙を広げる。

他の三人がそれを覗き込む。

“赤から黄へ”

“黄から緑へ”

“緑から青へ”

“青から紫へ”

“そして日は沈み、闇に至る”

「これ……ひょっとして、出現モンスターのヒントかしら」

「あっ、たしかにそうです!」

言われて、俺も気づく。

これは上の階層からの、モンスターの出現順序と一致する。

赤は火属性モンスター。

黄色は麻痺モンスター。

緑は植物系モンスターやエメラルドゴーレム。

青は水や氷属性モンスター。

そしてこれより下には毒モンスターと、最下層には闇属性モンスターが出現する。

メリナが、少し残念そうに言う。

「もっと上の階層に置いておいてほしかったわね。今さらこんなの見つかっても……」

「そうだな。出現モンスターのパターンは、もう一通りわかってるからな」

こんな下の階層に置かれてもヒントにならない。

「でも、結局モンスターの出現法則はわからないままでしたね」

「そうね。別に属性で分かれてたわけでもなかったし」

「あれ……みんな、気づいてないの?」

「何がだ?」

俺が問い返すと、テトがきょとんとして答える。

「虹だよ」

「虹?」

「このダンジョンは、出現モンスターの色が虹と同じ並びになってるんだ」

言われてみれば、たしかにモンスターの色は階層ごとに分かれていた。テキストの内容はヒントではなく、答えだったということか。

だが……、

「……そうなのか?」

「えっとぉ、虹の色って、どういう順番でしたっけ?」

「二人ともさぁー」

「……合ってるわ」

考え込んでいたメリナが、静かに言う。

「赤、黄、緑、青、紫……ちゃんと、上から順番になってる」

「でしょ?」

「まさか、こんな法則だったなんてね」

よくわからないが、メリナが言うならそうなのだろう。

「だが……どんな意味があるんだ?」

「ひょっとして、ボス攻略のヒントになっていたりするんでしょうか?」

「さあ、ボクもそこまではわからないなぁ」

テトが言う。

「でも、さすがにこれだけじゃヒントにならないと思うから……ヒントじゃなくて、こういうテーマなんじゃないかな。ほら、落日って日が沈むことでしょ? それで最下層には闇属性モンスターが出てくるし」

「太陽? それとも色がテーマということか?」

「そういえば、色には順番があるって聞いたことあるわね。虹以外でも、同系統で色違いのアイテムをストレージ内で並び替えると、種類が違っても必ず一定の順番になるし」

「うーん……でも、残念ですけど攻略の役には立たなさそうですね。ボス部屋のギミックを予想できるかと思ったんですが……」

「たぶん攻略のヒントもどこかにはあると思う。でも、まだ見つけられてないね。もしくはもう見つけていて、ボクらが気づいていないだけか」

見つけていても、気づいていない、か……。

俺も考えてみるが、わからない。特に思い当たる要素はなかった。

「今は、進もう」

俺は、考え込む三人へと告げる。

「ここから下の階層で別のテキストが見つかることもあるかもしれない。少なくとも、ボス部屋の前までは問題なく進めるはずだ。考えるのはそれからでもいい」

三人は、思い思いにうなずく。

「そ、そうです! 進みましょう!」

「悩んでいても仕方ないものね」

「ボクもあんまり下には行かないからねー。見つけてないテキストがあるかも」

俺はふと笑い、前に立って歩みを再開した。

この四人パーティーなら、どんなダンジョンでも攻略できる。

なんとなく、そんな予感がした。

「テト」

「ん?」

俺が声をかけると、テトが小走りに寄ってきて横に並ぶ。

「三十三層のセーフポイントを確認しておきたいんだが、教えてもらえるか?」

「降りたところからそう離れてない場所にあるよ。じゃあ、まずはそこまでマッピングしようか」

「助かる」

「へへっ」

テトが俺を追い越し、後ろ向きに歩きながら言う。

「そうだ、どうせなら斥候もやろうか? 索敵スキルを持ってるから、だいぶ手前からモンスターの位置がわかるよ」

「助かるが、あまり先行しなくてもいい。いざという時に助けに入れないから、前衛の位置にいてくれ」

「オッケー」

再び横に並んだテトへ、俺は言う。

「テトが仲間になってくれてよかったよ。俺も気が楽になる」

「へへっ、そーお?」

テトが機嫌良さそうに言う。

「まーねー。前衛一人だと大変だったでしょ? ボク壁にはなれないけど、火力はそこそこあるし索敵もできるからね。その辺は任せて」

「いや、それももちろんなんだが……」

「?」

首をかしげるテトに、俺は少し声を抑えて言う。

「今までは男一人だったからな。さすがにちょっと、気を遣っていたところがあった。同性が入ってくれてありがたい」

テトが、無言で立ち止まった。

「……どうした?」

声をかけても、答えが返ってこない。うつむけた顔には影がかかっていて、どんな表情をしているかもわからなかった。

だが。

やがて唐突に顔を上げ――――テトが叫ぶ。

「ボ……ボクは女だっ!!」

「ええっ!?」

俺は、思わず驚愕の声を上げてしまった。

テトが言い募る。

「ア、アルヴィンもしかしてボクのことっ、ずっと男だと思ってたのっ!?」

「いや、そ、それは……」

てっきり、完全にそうだと思い込んでいた。

「だ、だが……名前がそうだったし、喋り方も……」

言いながら、自分でも言い訳臭く思えてくる。

男性名の女なんて珍しくないし、喋り方も、よくよく考えたら冒険者ならこんなものだ。

一度そうだと知ってしまうと、もうそういう風にしか見えなかった。装備のせいでわかりにくいが、面立ちや骨格や筋肉のつき方も、男性のそれとは違う。

むしろなぜ今まで勘違いしていたんだろうと思うくらいだ。

「アルヴィンさん、それはちょっと……」

「いくらなんでも失礼すぎない?」

ココルとメリナがそろって眉をひそめる。

その反応を見るに、どうやら二人は最初から気づいていたらしい。

テトは俺から距離を取って叫ぶ。

「ひどいっ!! バカ!! もう知らないっ!! 前衛なんてアルヴィン一人でやってろよっ! ボクは後ろでナイフ投げてるからっ!!」

「あら、そういう構成もありかしらね」

「その時は二人が中衛で、わたしが後ろからバフと 治癒(ヒール) 飛ばしますね!」

俺は思わず床に視線を落とし、力なく言う。

「……悪かった、許してくれ」

どうやら、これまで以上に気を遣うことになりそうだ。