軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

セカンドモード

フォーブレイから事件調査の名目でメルロマルクに凱旋した俺達は女王と謁見し、その日の内に正式にお義父さんの無実が証明されました。

そんな夜会の終わり頃ですぞ。

「ぶー! メルちゃん!」

「ちょっと、槍の勇者様、フィーロちゃんが嫌がってるじゃない。槍の勇者と言えど嫌がる相手を追い回すのは見過ごせないわ」

「く……婚約者め、フィーロたんはじゃれているだけなのですぞ……!」

俺はいつの間にかフィーロたんに纏わり付いていた婚約者と、言い争いをしておりますぞ。

どうして婚約者は迷わずフィーロたんと仲良くなれるのですかな?

もしや、これが運命なる力でしょうか。

さすがは婚約者ですぞ。

ですが、オレも負けませんぞ!

「あの元康が手を出さずに言い争いをしている……」

「婚約者と言ってましたよ」

「あれだな。特別フィーロと縁がある奴で、下手に手を出したら嫌われるのがわかっているって事だな」

声の方向に振り向くとお義父さんがいらっしゃいました。

これはこれはお義父さん、良い所に来てくださいましたな。

「丁度良いですな。お義父さん、婚約者にあまりフィーロたんと俺の愛の時間の邪魔をしないように言ってほしいですぞ」

「ふむ……確か、お前があの女王の娘で第二王女なんだったか」

「え、ええ……」

お義父さんと婚約者の視線が交差しますぞ。

婚約者はお義父さんの鋭い眼光を受けて、少し弱った表情になりました。

多分ですが、赤豚がお義父さんにした行ないに対して、負い目があるのでしょう。

非常に悔しいですが、婚約者は思慮深い奴ですからな。

そんな婚約者にお義父さんは言いました。

「フィーロも随分と仲良くしているようだし、勇者の立場関係なく、良い友人になってやってくれないか」

そう言われて婚約者がキョトンとしていますぞ。

ど、どういう事ですかな?

お義父さんが婚約者とフィーロたんの架け橋になっていますぞ。

「色々と精神的に疲れが出やすい立場でな」

お義父さんがそっとフィーロたんのローブの下を婚約者に見せますぞ。

魅惑のヴェールですな。

俺も見たいですぞ。俺も見たいですぞ。

頭や首を必死に動かして見ようとしましたが、お義父さんに遮られてしまいました。

「ちょっと……」

「ほら、ストレスからこういう行動に出たりするだろ? 俺もできる限りフォローはして来たんだが、アレがどうにもならなくてな……」

アレ? アレとは何ですかな?

フィーロたんに危機が迫っているなら、この元康、どんな事をしてでも解決してみせますぞ。

そうですな。とりあえずイグドラシル薬剤を作りますぞ!

「わ、わかったわ。盾の勇者様が頼むのなら、私のできる範囲で……フィーロちゃん」

「なーに?」

「これからはこういう事をしちゃだめよ」

こういう事とはなんですかな?

くっ……気になって気になってしょうがないですぞ!

「えーでもやるとスッとするんだよ?」

「よく考えてフィーロちゃん。それで抜けた羽を誰が拾うの? 嗅ぐの?」

「え!? やー! どうしたらいいの?」

抜けた羽を拾う?

フィーロたん、安心してくれですぞ。

目の付く範囲ではありますが、フィーロたんの抜け羽は全てこの俺が回収しているので、不審者に渡る事はありません。

「まずは生え揃うまで我慢。それからは十分に気を付けないとね。少なくとも抜いちゃダメ。私がフィーロちゃんを嫌ってるから言ってる訳じゃないのはわかるでしょ?」

「……うん」

フィーロたんは婚約者の助言を受けて、素直に頷きました。

やがて、そんな姿を見ていたお義父さんがフィーロたんに言いました。

「フィーロ」

「なーに?」

「第二王女と仲良くな。上手くすればアレから逃げられるぞ?」

フィーロたんが俺を見ております。

なので満面の笑みを向けますぞ。

イェア! イェア!

「うん! メルちゃん友達! 一緒にあそぼ!」

「キャ! ちょっとフィーロちゃん!?」

「ダッシュー!」

仕舞いにはフィーロたんが婚約者と一緒に出掛けてしまいました。

ここで婚約者に負ける訳には行きません。

フィーロたんの友好度を稼いで勝たねばいけないのですぞ。

「あー! 待ってほしいですぞ、フィーロたーん!」

「元康、お前は俺との話が残っている!」

うう……お義父さんに止められてしまいました。

お義父さんの命令は絶対。

非常につらいですが、ここは我慢ですぞ。

「俺の冤罪とか諸々が一気に解消されたのは良いが……それに比例して波の到来スケジュールが物凄く速くなった挙句、増える羽目になったぞ」

「錬と樹の抜けた穴は大きそうですな。ですが俺とフィロリアル様達がいれば不可能ではありませんぞ!」

元よりお義父さんなら乗り越えられない壁はありませんからな。

「お前は調子だけは無駄に良いな……負けイベントっぽい話がある癖に……」

「何事も諦めない事が重要なのですぞ」

「はいはい。で……元康、次がカルミラ島って場所でのイベントでその後は霊亀か……被害は最小限に合間を縫ってラフタリアの村の復興か……」

「やることはまだまだありますな」

クズが何か仕出かす前にゼルトブルで虎兄妹を連れてくれば多少はどうにかなりますかな?

なんて感じに俺の知識を元にお義父さん達は着実に事を進めて行ったのですぞ。

カルミラ島は言うまでもありませんな。

霊亀は勝手に復活するので、出てくると同時に俺とお姉さんのお姉さんが力を合わせて沈めました。

タクトのいない鳳凰や麒麟等、この頃には脅威にすらなりませんでしたな。

転生者らしき連中の駆除もそれなりに済み……順調その物ですぞ。

お姉さんの村も絶賛復興作業中ですぞ。

キールが昔住んでいた家を守ろうと立ちはだかったのが印象的でしたな。

「キールくん、その家はもう無理。住める形じゃないし、危ないの。ルナの言う事を理解して」

ルナちゃんが懸命に家を守ろうとするキールを抱えて注意していますぞ。

なんとお優しい。

ルナちゃんは人の気持ちを理解出来る優しい子に育ちましたな……。

「だけどここは俺の家族の大事な思い出が詰まった家なんだ」

「……そんなにこの家を守って住みたいの?」

「おう!」

「じゃあ何かあってキールくんがケガをしないように一緒に住む。ルナの羽毛の中にずっと一緒に――」

「父ちゃん母ちゃん! 俺、みんなの事を忘れない! 大事な家だけど新しく建て替えてみんなを守れる家にする!」

そんなキールを見て、凄い早業だとお義父さんは唸っておりました。

お前はそれで良いのですかな?

「そう……ルナとキールくんのかわいいを集めた夢の家」

「そうじゃねえ! ルナは本当にブレねえな!」

こんな風に問題なく開拓は進みました。

ちなみにシルトヴェルトが密かにドラゴン等の差し入れをしようとしていた様ですが、フィロリアル様が多い村では喧嘩の元となると言う事で転売し、処理されました。

ドラゴン等、不要ですぞ!

それこそお姉さんのお姉さんが何か知り合いが出来たとかでそれなりに使えなくは無いですぞ。

距離は置けましたので、ライバル共が入りこむ余地はありませんぞ。警戒は大変ですがな。

ここにドラゴン不要論を提唱しますぞ。

クズに関しても消沈したクズに治療した虎兄妹を会わせたらそこそこ大人しくなりましたな。

そんなある日の事ですぞ。

「フィーロたん! お義父さん! とうとう完成したのですぞ!」

俺はさっそく出来上がった特製タイヤをフィーロたんとお義父さんにお披露目する事にしました。

日夜研究に研究を重ね、ドライブモードに適した新開発の特製タイヤですぞ!

丁度タイミング良くお義父さんやお姉さん、フィーロたん、そして不服ですが婚約者と共におります。

「やー! きたー!」

フィーロたんは婚約者の後ろに隠れるようにしておりますな。

キター! ですな!

喜んでくれている様で凄く嬉しいですぞ。

「なんだ、元康?」

「やっと俺の特製タイヤが出来たのですぞ」

「特製ねぇ。ゴム製のタイヤを再現した程度で自慢されても……微妙にフレームが付いてるのな」

「自転車に似てますね?」

この世界では勇者が広めた自転車も一応存在するのですぞ。

ただ、メンテナンスがやや面倒なので馬車などの方がメジャーですがな。

一部の国や地域を除いて、車道用に舗装された道が少ないのも理由だと思いますぞ。

「これは俺が長時間ドライブモードが出来る様に考案した新概念のパーツですぞ」

ちなみにフレームは背負う形で持って来ております。

一見、椅子の様にも見えるでしょうな。

「それ以前に、まだそれをするのか」

「フィーロたんは元より、フィロリアル様と長時間のツーリングをする為には必要かと思ったのですぞ。それに普通のドライブモードには色々と難点がありますからな」

両手両足が塞がってしまうので細かな動きが難しいのですぞ。

フィーロたんがドリフトなどをするとこちらも大きく曲がらねばなりません。

それに前しか見えないので乗っているフィーロたんを堪能できませんからな。

ドライブモードでフィロリアル様を乗せた際に判明した最大の難点ですぞ。

なのでその問題点を解決する為にフレームとタイヤを用意しました。

タイヤはより速度を出しながら破損を最大限減らす工夫をしております。

木製のタイヤでは限界が来ますからな。

如何に壊す事無く、長時間のドライブモードを維持し、どんな悪路でも進んで行けるか、をベースに考えております。

ゴム製なのもその辺りの配慮ですぞ。

「……まずドライブモード自体に問題があるとは思わないのな」

「それで、これで何をするのよ?」

婚約者が眉を寄せながら特製タイヤとフレームに意見していますぞ

フハハ! 飛んで火に入る婚約者ですな。

多少はフィロリアル様の趣向を研究しているみたいですが、まだまだですぞ。

「ではお披露目ですな! 見ていてくださいフィーロたん! 俺の雄姿を! ドライブモード・セカンド! とうっ!」

俺は高らかに飛び上がり、お義父さんが前によく使用していた浮遊する盾の槍版である浮遊槍を出現させて特製タイヤに通しますぞ。

錬と同じく俺はこの手のフロート系はそこまで使いこなせないのですが、今回は単純な指示しかしないので問題ありません。

そしてフレームに連結させ、仰向けで着地しました。

もちろん、足にもタイヤの軸となる槍を付けておりますぞ。

「うわ……」

「ひっ……」

お義父さんを始め、お姉さんや婚約者が揃って声を上げました。

そうでしょうそうでしょう。

反応もまずまずですな。

つまり、この体勢でいる事で、俺に乗った者の顔を見続ける事が出来るのですぞ。

自転車レースに詳しい豚が教えてくれた、リカンベントとは違いますぞ。

そしてハンドル代わりに俺の両手を掴む事で搭乗者の落下の可能性を極限まで減らす事が出来ます。

何だかんだでこの世界は悪路が多いですからな。

落下対策は重要ですぞ!

そして何より指を絡めてのドライブですぞ!

おお……我ながら自分のアイデアを絶賛したいですな。

フィーロたんと恋人繋ぎしたいですぞー!

「変身完了! ですぞ」

「ギャアアアアアアアアアア!?」

フィーロたんがまたも声を上げました。

今からでも走り出したい衝動があるのですな。

「どうですかな? お義父さん。これで完璧ですな!」

「それでフィーロをどこに……いや、ハイエースする感じか」

「ハイエースとはなんですかな?」

なんかカッコいい言葉ですな。

きっとハイなエースなのでしょう。

俺はハイテンションな勇者なのでエースでもありますぞ!

時代の先取りですな!

これから俺はハイエースですぞ!

「ちなみにフィーロたんとお義父さんが乗るのはここですぞ」

俺はポンポンと自分のお腹を叩いて鳴らしますぞ。

自由になった手のお陰で精密な作業が可能になりました。

ちなみにセカンドモード中に新たな槍を出現させ、前方の敵を倒しながら進む事も可能ですぞ!

同様にスキルを発動させ……例えばブリューナクを使う事も出来ます。

「……」

やがてお義父さんは無言で俺に近づいてきました。

これは……乗ってくれるのですな!

感動の騎乗シーンですぞ!

「ほら、ここですぞ。お義父さん!」

俺はそう言って、お義父さんを手招きしました。

そして――突如お義父さんがゴスッと後輪を力強く蹴ってきました。

「おわっですぞ!」

思わずバランスを崩しそうになったので立て直そうとした所……。

「シールドプリズンⅩ!」

続け様にお義父さんが体勢を立て直そうとした俺を盾の檻に閉じ込めてしまいました。

この体勢では前にも後ろにも動けませんぞ!

「お義父さん! いきなり何をするのですかな!?」

俺の声に対しての返事が聞こえません。

「おい! 急げ!」

「ですが――」

「良いから早くしろ!」

「ええ! このままだとアレで走り出すつもりなのよ!」

婚約者が何やら喚いていますな。

HAHAHA! まだ試運転をしていませんからな。

これはアレですな。

俺の姿を皆にお披露目する為に俺を隠したのでしょう。

わくわくですな!

では皆に見せるために派手に出ますぞぉおおおお!

俺は顔を上に向け……確認しながら魔法を詠唱しますぞ。

この為に手から魔法を出せる様にしたのですからな。

これにより、撥ね飛ばす以外でも魔物との対処が出来るようになりました。

もちろん、腿辺りに槍を付けてエイミングランサーで狙う事も出来ます。

戦闘用のバイクですぞ!

「ドライファ・ラビットファイアⅤ!」

お義父さんが出した盾の檻……天井部分に魔法を放ち、派手に現れますぞ!

盾の檻を駆け上がり、脱出。

そして地面に着地しました。

更に、かっこよさを意識してウィリー走行しますぞ!

「ウィリイイイイイィィィィィですぞ!」

……おや? お義父さんとフィーロたん達以外、観客が居ませんぞ。

少し早すぎましたかな?

「打ち合わせはこれくらいで良いですかな?」

と、お義父さんの方を見るとフィーロたんがフィロリアル姿になっており、お義父さんが急いで背に乗ってお姉さんを乗せる最中でした。

婚約者は何とフィーロたんの後頭部にしがみついております。

悔しいですが、なんとなく似合っている様に見えますな。

「くそ! もう出てきやがった!」

「お姉ちゃん!」

「ラフタリアさん、早く!」

「は、はい! ドライファ・ミラージュ!」

おや? お姉さんが魔法を唱えると、無数のお義父さん達を乗せたフィーロたんが現れました。

ふぉおおおおお! パラダイスですぞ!

フィーロたんが沢山ですぞおおおおぉぉぉぉん!

幻でもフィーロたん達を消す事など出来ませんぞ!

「行け! 早く!」

お義父さんの声に合わせてフィーロたん達が走り出しました!

ど、どれが本物のフィーロたんですかな!?

俺が目移りをしている間にフィーロたん達は四方八方走り出して行ってしまいました。

なるほど、次はセカンドモードの早さを確認する事にしたのですな!

どれが本物かはわかりませんが追い掛けますぞ!

「ブルンブルーン!」

タイヤを高速回転させて俺はお義父さん達の後を追いますぞ。

やがてお姉さんの魔法の効果が切れたのかフィーロたんがフッと消えてしまいました。

なので匂いを頼りにお義父さん達を追い掛けますぞ。

そんな感じでお義父さん達との追いかけっこが始まりました。

「な、なんだアレ!? 槍の兄ちゃん!?」

「まさか盾の勇者様達が凄い形相で逃げてたのって!?」

「あらー……楽しい事をしてるわね、ナオフミちゃん達」

キールとお姉さん達が俺を見て応援してくださっている様ですぞ。

なので俺はキラッと微笑んで親指を立てました。

微笑むだけしか出来なかった最初の形態との大きな違いですぞ!

その気になれば食事をしながらでも運転出来ますからな。

「いや、槍の兄ちゃん。誇らしげにしても、こっちが困るだけだぜ……」

なんてキールが仰っていますが返事をしようとする前に遠ざかって行ってしまいました。

後で何が困ったのか改めて聞くとしましょう。

まずはフィーロたんとお義父さんを追い掛ける事が先決ですぞ。

それからフィーロたんとお義父さんは俺の追跡から逃げに逃げ回り、時にはポータルスキルまで使って俺の追跡から各地へと移動して行きました。

これは……まさしくセカンドモードの耐久性テストとみんなに広報しているでしょう。