軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旅立ち

「打ち首じゃぁあああああああああ!」

クズの野郎。俺の返答が相当お冠みたいだな。

「おっと、俺にギロチンの刃が通ると思うなよ?」

ガチャガチャと音を立てて、俺に詰め寄ろうとする騎士達とクズに向って言い放つ。

「波で他の勇者達がやられた相手を倒したのが俺だって事を忘れてないか?」

盾に手を添えて答えた。

騎士達は一歩も動けずにいる。

まがりなりにも勇者だ。何より今回の波での戦果を知る者なら不用意に近付いてはこない。

例え、それが半分ハッタリだったとしても。

「何をしている! その無礼者を即刻殺せ!」

「おい……」

ドスの聞いた声で俺はクズを睨みつけて、もう一度言う。

「分からないのか? 今の俺なら正面から城に入って、お前を殺し、正面から逃げ切る事だって出来るんだぜ?」

「ぐぬ……」

クズの奴、やっと立場がわかったらしい。物凄く悔しそうな顔をしていやがる。

「信じていないなら実際に受けてみるか?」

脅しとハッタリは相手と交渉する上で必要だとこの世界で学んだ。だから最大限使って、クズを牽制する。

「頼みの勇者も、その勇者を倒した奴を倒した俺に敵うと思っているのかな?」

「ぐぬぬぬ……」

歯軋りをして悔しがるクズ。

「そんな事を言っていられるのも――」

「俺の配下に手を出したら、殺すぞ?」

言うであろう可能性を先に潰す。

アイアンメイデンがどんなスキルなのかまだ解明は済んでいないので、クズを絶対に殺せるかどうかは分からない。

だけど、殺すことはきっと出来るだろう。

セルフカースバーニングの炎に巻き込めば傷は負わせられる。

クズの奴、表情を青くして、自身の立場を理解したらしい。

「もう二度と俺に関わるな、クズ。波が終われば俺は帰れるのだろう、それまで最低限協力はしてやる。だけど俺の邪魔をするな」

脅しはあくまでも強く、だけど簡単に切り札を使ってはならない。元々切り札とは、出来る限り切らずに存在する最後の手段なのだ。

こいつを今ここで殺しても何も解決しない。こいつの後釜のクズが現れて俺を指名手配にするだけだ。

それに俺だって、他の勇者に正面から戦って勝てるかと言われれば怪しい。

しかも3人揃って挑まれたらおそらく負ける。

「じゃあな」

俺は踵を返して、玉座の間を後にする。

「許さん! 許さんぞ盾ぇええええええええええええええええ!」

クズの絶叫が玉座の間に響き渡った。

「それはこっちの台詞だぁああああああああああああああ!」

俺は立ち去りつつ、クズを指差した。

玉座の間を後にして階段を降りたところで、貴族の女性っぽい人とすれ違う。

扇で口元を隠し、高そうなドレスを着ている。

顔はよく見えないが、整っていると思う。年齢は……幾つだろう?

おそらく20代後半くらいか……?

髪の色が紫だ……珍しい色をしているなぁ……。

「此度の活躍、お疲れ様でした……でごじゃる」

ぽつりとすれ違い気味に呟かれた。

ごじゃる?

やば、振り向きそうになった。

ん?

女性の後ろを小さい頃のラフタリアや人型のフィーロくらいの女の子が同行していた。

髪の色が青っぽい。こっちもあんまり見ない色だな。

身なりも良いし、子供か?

ただ、なんとなく誰かに似ているようなぁ……。

外見の良さは人型時のフィーロに匹敵する。何だかんだで鳥は人型だと美少女だ。

んー……。

どうも誰に似ているのか思い出せない。

ま、似ていても不愉快な相手だろう。思い出すだけ無駄だ。

そう、その時は、このすれ違いを何とも思わず歩いていった。

まさかこの時のガキが、この後の騒動の重要な鍵になるだなんて夢にも思わなかった。

ちなみに、ラフタリアとフィーロは別室で俺を待っていた。

俺が蛮行を起こすだろうと予測し、脱出の準備を進めていたという理解をされているのか、微妙な事をしていたのは蛇足か。

ともあれ、早々に合流を果たした。

翌日。

武器屋に顔を出す。依頼していた馬車が出来ているか聞きに行った。

「お、アンちゃん。頼まれていた馬車が完成したぜ」

「おお、早いな。だが親父、お前は金属系の頼みなら何でも達成するな」

「俺が窓口になって知り合いに掛け合っただけだよ。俺が作ったわけねえだろ!」

ま、製鉄所辺りで作ってもらったと言うのが妥当なのは当たり前か。

「いや、金さえあれば何でも出来るからそういう奴かと」

「アンちゃんにそう言われると何でも出来るように聞こえて悲しくなってくるな。俺はアンちゃんみたいに万能じゃねえよ」

「俺も万能じゃないのだが……」

親父は俺を何だと思っているんだ?

「裏に停めてあるから見てくれ」

「ああ、じゃあ見させてもらうかな。所で親父、ラフタリアの――」

俺が言い終わる前にラフタリアが俺の手を握る。

「どうした?」

「剣ならまだ大丈夫だと思います。今はそのお金を元に行動しましょう」

「ふむ……ラフタリアがそう言うのなら止めはしないが……」

まあ、今はフィーロが攻撃の要として動いてくれている。

ラフタリアは補助的に立ち回ってくれるのなら緊急に必要ではないか。

最悪、どこかで親父の店より良いものが手に入るかもしれないし。

武器屋の裏手に回ると、確かに金属製の馬車が置かれていた。

幌の部分も金属製で、昔親が買って来たブリキ製の馬車の置物を大きくしたような感じだ。

「わぁあ……」

人型のフィーロの目がこれまでにないくらいキラキラ輝いている。

よろよろと引く場所に入り、取っ手を掴む。

「フィーロが引いても良いんだよね!」

「ああ」

「やったぁ!」

凄くご機嫌のフィーロは両足をばたつかせて今にも出発が待ち遠しい。そんな顔をしている。

「とりあえず荷物を運び込むぞ」

「はい」

「はーい!」

波と城下町までの間だけ使っていた荷車から荷物を降ろし、新しい馬車に移す。

何だかんだで売り物や素材、道具を運び込むのに時間が掛かった。

「どうだい、アンちゃん」

暇を見て武器屋の親父が顔を出す。俺は良い仕事をしたと指を立てて答えた。

「ああ、期待通りの品だ」

「そうか、しかしかなりの重量らしいが……鳥の嬢ちゃんなら問題ないか」

「うん!」

「コイツ、馬車に荷車を3台連結させた状態で楽しく引いていたからな」

「そりゃあすげぇ」

「むしろ期待より軽くてガッカリとか言い出すかも知れない」

「えっとね。硬いのが良いの!」

フィロリアルの基準なのか? あれだ、引く物が良いフィロリアルが偉いとかそんな感じで。

「ははは、まあ頑張れや。所でアンちゃんはこれからどうするんだ?」

「どうするって?」

「聞いたぜ、城で何かかましたらしいな」

親父の奴、若干困り顔で俺に言う。

「耳が早いな」

「噂は楽しく生きるスパイスだぜ」

「まあ、な。あのクズが偉そうにほざくから立場を理解させてやったんだ」

「……何時かやらかすとは思ってたよアンちゃん」

「期待には応えるさ」

「出来れば応えないで欲しかったぜ」

「で、先ほどの質問だが、そうだな……クラスアップしにシルトヴェルトかシルドフリーデンに行こうと思ってる」

クズを脅して龍刻の砂時計の使用許可を得ると言う選択も無いことにはないが、クズの管轄でラフタリアやフィーロをクラスアップさせようなら何かされそうで怖い。

どういう物なのかもいまいち理解していないし、管理している側から何か介入できたりするのだと余計な不安が付きまとう。

ならば最初から問題のなさそうな、フリーパスらしいこの二つの国でクラスアップさせてもらうのが一番だろう。

「まあ、アンちゃんならいつかその国へ行くだろうと思っていたよ」

「は?」

親父の奴、納得の表情で頷いた。

どういう意味だ?

「オススメはシルドフリーデンだ。シルトヴェルトは極端な国だからなぁ……」

「そうなのか?」

「ああ、亜人絶対主義で人間は奴隷というこの国とは真逆の国だ」

なるほど……じゃあ人間である俺には不向きだな。

「だが――」

「参考になった。ではシルドフリーデンに行くとするよ」

積み込みが終わったので俺達は馬車に乗る。

「そうか、じゃあまた店に顔を出しに来るのを待ってるぜ」

「ああ、もしかしたら親父に幽霊とか魂属性の敵と戦う武器を頼むかもしれないしな」

「なるほど、アンちゃんもそのくらいの敵を想定するようになったか、じゃあ用意しておかないとな」

「材料の段階から揃えて安く作りたいものだ」

「アンちゃんには敵わないな。出来れば期限ギリギリに来ないようにしろよ。何処で材料が取れるか教えてやるからよ」

「分かった。余裕のある行程を考える。では行こう」

「はーい」

「じゃあな。親父」

「またな」

フィーロが馬車をゴトゴトと引き出した。

当面の目的はクラスアップだ。やや長い道のりだけど、今後の為にも行くとしよう。

フィーロを走らせて2週間の道のりだ。

「あれです!」

外から大きな声が聞こえる。

城下町を出る直前、金属の馬車を叩く音と声が響いた。

「見つけたわよ!」

「……なんだ?」

フィーロを止めさせて馬車から顔を覗かせると女の子が眉を跳ね上げて俺を指差していた。

見ると女の子の後ろに騎士っぽい奴が付いている。

先程俺達を見つけたのは後ろの連中だろう。

「父上に酷いことをしたのはアナタね!」

「は?」

なんだ? 見覚えがあるような無いような青髪の女の子が俺に詰め寄ってくる。

「いきなりなんだ」

「シラを切るつもりね! 隠したって知っているんだから! アナタはとても酷い極悪人なんでしょ! だって盾の勇者だもの」

うるさいクソガキだ。何処かの貴族か?

そういえば、貴族に安物のアクセサリーを売りつけた事があったな。

それも一度や二度じゃない。正直、身に覚えがありすぎて特定できん。

「そうかそうか、目利きができないお前の親父が悪いんだ。一つ賢くなったな」

「なんですって!?」

しかし、盾の勇者=悪人か……こんな子供にまで糾弾されるのも不快な気分だ。

まあ、今更な気もするが。

「お前の親父に伝えろ。今度は審美眼でも磨いておくんだな」

「む、む……絶対許さない! 母上が間違ってる! 盾の勇者は悪人だ! 成敗してやる!」

配下の騎士っぽい奴が女の子の命令に従って前に出てくる。

「ふん。相手してられるか。フィーロ」

「なーに?」

「行くぞ」

「うん」

「あ……」

クソガキがフィーロを凝視して何か惚けている。

「神鳥?」

「ふぇ?」

フィーロが首を傾げるクソガキに合わせて顔を傾ける。

「早く行け!」

「はーい」

フィーロは頷くと前を向き、馬車を急発進させた。

「あ、まてーーーーーーーーーーーーーー! にげるなぁああああああああああああああ!」

クソガキの声が見る見る遠くなっていく。

やっぱり城下町は鬼門だ。買い物に来る以外、来たくないな。