軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アイアンメイデン

赤い竜炎……成長して憤怒の盾Ⅱに変わった盾を黒い影へと向ける。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

俺の叫びに世界が共鳴するかのように空気が振動する。

「な……」

敵がフィーロから目を外してこちらに振り返り絶句する。

やばい、初めて憤怒の盾を押さえつけた時の比じゃない程心が荒れ狂う。

これは憤怒の盾が成長……グロウアップとやらをした所為か?

くっ……視界が歪む。

「ナオフミ様」

ふと、優しく触れる感触。

ラフタリアだろう。

俺は……ここで失うわけには行かないのだ。

黒い影を振り払い、視界を取り戻す。

そして眼前の敵をこの眼でしっかりと捉える。

「う……うううああああああああ」

くっ!?

見ると、何故か俺の鼓動に合わせてフィーロからも黒い……炎を宿らせている。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!」

猛禽のようにフィーロは目を鋭くさせて敵に向って蹴りを加える。

おそらく、俺の盾に連動するドラゴンの核を喰らった所為だ。

「な、なんですか、これは。先ほどよりも重い……」

フィーロの攻撃に敵も狼狽している。

しかし、フィーロの方は自我がないのか、目に当たるもの全てを攻撃しているかのようで、一度敵から目を離すとメチャクチャに暴れる。

「何をしたのです」

敵がこちらに詰問するように近づいてくる。

「お、奥の手だ」

まだ、俺は自我を保てている。

大丈夫だ。どんな怒りであろうとも、俺を信じてくれる相手に応える想いには負けない。

俺は冷や汗を押さえながら敵に挑発する。

そしてラフタリアに距離を置くように目で指示を出す。

「大丈夫ですか?」

「ああ、まだ抑えられる」

俺は敵に向けて近づいていった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

専用効果、咆哮。

空気の振動で相手を怯ませるものだろう。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!」

咆哮に応じて、暴走するフィーロが敵にターゲットを合わせて突進する。

「ぐ……」

「舐めないでください!」

「させるか!」

敵がフィーロに鉄扇で薙ごうとする。俺はその合間に入った。

ガギン!

よし、キメラヴァイパーシールドの比じゃない程攻撃が軽い。

これなら構える必要がない。

俺を中心にダークカースバーニングが発動する。

この炎は俺の怒りに合わせて火力が増減する。辛うじて自我を保てるほどに怒りを抑えているという事は殺傷力はそこまで高くはないだろう。

だが、その炎は呪いの力が宿っている。

「何!?」

俺の炎を察したのか、暴走するフィーロは即座に下がった。

よし!

黒炎が敵をなぎ払う。

「ぐ……しかし、耐え切れない攻撃ではありません!」

……治療を遅らせる炎だけど、相手に致命傷を与えるには至っていない。

「輪舞破ノ型・亀甲割!」

鉄扇を引いて、強く前方。俺へ突き出した。鋭い光の矢のようなモノが飛んでくる。

危ない!

そう思って盾を構える。

ガツンという重い衝撃。そして全身への痛み。

盾を伝って俺の体にダメージが入った。

「くっ……」

「な、この攻撃で倒れないのですか……」

痛みで平静を保ちづらい。だけど、ここで我を失うわけにはいけないんだ。

「中々の攻撃だったな」

おそらくは貫通系の攻撃……ゲームではありがちな性能だ。

どんなに防御力が高くても、無視されれば意味が無い。

あるいは相手の防御力が高い程、与えるダメージが増える、という可能性もある。

これが勇者達の言っていた盾の弱さか?

経験則だが、ネットゲームは古くなればなる程、極端になる事が多い。

この世界に準じた、奴等のゲームがどんなものだったかは知らないが、俺の知識の範囲で何個か上げられる。

単純に敵の攻撃力が高すぎて盾職が弱いパターン。

次に、避けゲー。即死攻撃などを多くの敵が使ってくるパターン。

最後に火力ゲー。防御職の役割である防ぐという必要性が無い、攻撃力で押し切るパターン。

今まで盾が弱いとされる理由を俺なりに考えてみたが、どれも当てはまっている様には感じない。

……わからん。

ともかく今は前にだけ集中する。

ファストヒールを唱えて傷を治す。

相手はどのような原理で傷を癒しているのか分からないが、長期戦にする訳にはいかないんだ。

「アナタの攻撃の短所は分かりました」

敵が堂々と宣言する。

「黒い炎は近接攻撃をすると発動する。遠くからの攻撃では発動しない。そして眷属の者はアナタの叫びによって敵を指し示す」

ぐ……痛いところを分析してくる。

相当の武人なのだろう。洞察力が凄い。こんな奴が何人も居たら負けているな。

波とは一体何なんだ? ただの災害じゃなかったのか?

「ですがそれまでです。眷属を倒し、アナタを遠くから攻撃すれば勝機はあります!」

敵はフィーロに攻撃の目標を切り替える。

「がああああああああああああああああああ!」

「させるか!」

く、フィーロと敵の足が速く、距離を取られると追いつくのに時間が掛かる。

何か……何か手は無いのか。

そこでフッと浮かぶ。

チェンジシールド(攻)とアイアンメイデン。

憤怒の盾に備わっているスキルだ。

一か八かの可能性に掛けてみるのも悪くは無い。

確か……シールドプリズン→チェンジシールド(攻)→アイアンメイデンだったな。

おそらく、これはこのスキルを連続で唱える事によって発動する類のスキル。

コンビネーションスキルなのだろう。

「シールドプリズン!」

俺は敵に向けて盾の檻で囲むスキルを放った。

「簡単に止められると思わないでください!」

しかし、動き回る敵を盾の檻は捕らえる事が出来ない。

く、暴走したフィーロは善戦しているが、理性がない分、隙が多くて危険だ。

いつ致命傷を受けるか分からない。

檻は虚しく消えて、クールタイムだけが残る。

「ナオフミ様、何かお考えが?」

「ああ、どうにか、奴の足止めが出来ないものか」

隙を見て檻を出すのが一番なのだが、そう何度も放っては気付かれる危険性が高い。

「分かりました。頑張ってみます」

「だ、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。ナオフミ様のお陰でまだ戦えます」

剣を前に構え、ラフタリアは意識を集中する。

尻尾が逆立ち、何か……魔法を唱えているのが理解できた。

「私が足止めしますので、タイミングを合わせてくださいね」

「ああ!」

尻尾に淡い光を宿したラフタリアが敵に向けて駆け出していった。

「でりゃあああああああああ!」

「真正面からとは愚かな!」

敵が鉄扇で俺に放った光の矢をラフタリアに放つ。

ラフタリアは姿勢を低くして矢を避ける。

「でええい!」

剣を振りかぶって敵を切りつけた。

「隙だらけです!」

振りかぶる体勢のラフタリアを敵は横に薙ぐ。

スー……っとラフタリアが陽炎のように散った。

「何!?」

ザシュっと音が響く。

するとラフタリアがいたはずの方角とは反対からラフタリアが突然出現して敵を横薙ぎにする。

「今です!」

「おう!」

俺はラフタリアの指示に合わせて叫んだ。フィーロは既に俺の放つスキルの気配に距離をとっている。

憤怒の盾に操られているかのようだ。

「シールドプリズン!」

「な――」

盾の檻が敵を包み込む。

何度も重い攻撃を受けて、檻が今にも砕けそうだ。

させない。このラフタリアが作ったチャンスを俺は逃すはずも無い。

「チェンジシールド(攻)!」

叫び方はチェンジシールドと同じだ。

どの盾に変化させるか浮かぶ。

俺が選んだ盾はビーニードルシールド!

「――!」

ガキンと内側に向けて盾が変化し、内部に居る者を攻撃する。

その衝撃が檻を通じて伝わる。

アイアンメイデン!

そう発しようとした時、頭の中に文章が浮かぶ。

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は鉄の処女の抱擁による全身を貫かれる一撃也。叫びすらも抱かれ、苦痛に悶絶するがいい!』

「アイアンメイデン!」

詠唱と同時に巨大な鉄で作られた拷問器具、アイアンメイデンが空中に現れて、門をこじ開け檻ごと敵を包み込んだ。

「――――――!」

盾の檻が砕け散り、アイアンメイデンに閉じ込められ、叫び声すら許されず敵を貫く!

同時に俺のSPが0となった。

こ、これは使い手のSPを全て犠牲にして放つスキルだったのか。

そしてアイアンメイデンは効果時間が切れたのか消失した。

「グフ――」

敵が全身を貫かれながら、息も絶え絶えに立ち上がり俺達を睨む。

「非常に不服ですが……一度撤退するしかないようですね……」

あれだけのスキルを受けて、まだ立っていられるのか!?

「逃がすか!」

「ハッ!」

敵が亀裂に向けて駆け出す。フィーロの方を見ると追いかけようとせず、目に付くものを蹴り飛ばしている。

暴走しているフィーロへ命令する為に必要な咆哮はSP切れで使えない。

もう少しで倒す事ができるのに。

「我が名はグラス……アナタ、名をなんと言う」

亀裂の前まで来て敵は振り返って俺を指差した。

「話す必要があるのか?」

「無いでしょうね。ですが、我は我をここまで追い詰めた者へ敬意を表して覚えておきたい。そう言っているのです」

「武人だこと、色々聞きたいことは山程ある」

「では名を聞く代価として盾を持つ者、アナタ方に一つ、情報をお教えしましょう」

なんだ? 何を話すつもりだ?

「我等をただの災害だと思っているのでしたら大きな間違いです。勝つのは我等であり、アナタ方ではありません」

ほう……これは確かに重要になりうる情報だ。

考えても見れば波がどんな物なのか俺は何も知らない。

グラス……敵の言葉だけではなく、波の意味を知る必要がある。

少なくとも、敵は知的生命体だという事実はわかった。

俺はクズ王やビッチ王女に囚われ過ぎている。

勇者が戦う本当の敵は波であるこいつ等なんだ。

フッ……前も後ろも敵、やってられないな……。

「分かった。情報の代価に答えてやるとしよう。俺の名前は尚文、岩谷尚文だ!」

「ナオフミ……その名、覚えておきます!」

グラスと名乗った敵はそう言い放つと亀裂に入って去っていった。

そしてグラスの撤退に合わせ、亀裂は消え去って行ったのだった。

俺は憤怒の盾Ⅱを直ぐに別の盾に変える。

いきなりパワーアップしたこの盾はそんなに長い間変えていられない。

「ふう……」

「やりましたね」

「まあな」

「ふにゃあ……何があったのー?」

振り返ると丁度ラフタリアが俺に追いつき、フィーロは力尽きて地べたに倒れこんでいた。

「どうにか波は収まったか」

「ですね」

「フィーロ疲れたー……」

「そうだな。勇者共は無視して、俺達は後始末をしよう」

こうしてこの世界における第三の波は終結を迎えたのだった。